14 GUCCI風のクレヨンしんちゃんの組長先生風の黄色スーツ
「ところで、だ――、理可氏?」
「は、いぃ?」
「君は、何ていうタイミングで、起こしてくれたんだ? とんでもないことを、してしまったんだぞ……?」
と、綾羅木定祐が、深刻な顔で言う。
「はぁ? エッチな夢でも、見てた?」
「私の夢ではないッ――!!」
と、一喝する綾羅木定祐に、
「――!?」
と、上市理可は、思わず驚く。
そして、綾羅木定祐は話す。
「私だけの夢でない。これは、全人類男性の夢だ……。この世は、実は仮想世界の写像だという説があるが、そのとおりだ……。私は、うたた寝をしていたのではない。その、2045年の、来たるシンギュラリティに向けて、仮想世界にアクセスする実験を行っていたのだ……。その技術こそ用いれば、すべての女性とアクセスし、エッチをするVRの開発も可能になる。いわゆる、VR業務用セックス産業の夢を、先ほど、君は壊したのだッ――!! カンチョーを、口に垂らしてなッ!! ゆめゆめ忘れるな!!」
「うわー、気持ちわるー!! てか、シンギュラリティ、壊れちゃーう!!」
「何を言う!! 科学の進歩は、エロから始まる!! エロこそ、科学の母!!」
「じ、じゃあっ……!! 戦争こそ、科学の父!!」
※『シン屋根裏の散歩者』より
そこから、いくつか、展示会に関する画像を見てみる。
天目模様や、銘木のような木目模様のついた磨き壁。
それから、まるで、昔のラーメンのどんぶりのような、中華文様の磨き壁、と――
「これは、どうやったんだい? 美祢八」
ドン・ヨンファが聞く。
「ああ、簡単やっちゃ。水の、引いていく具合の、この“動く水”っちゅうのを使うことで、ちょうど、プログラムされたパターンを描くようにコントロールできての」
「それで、そこだけ、鏝の力がかかって……、模様がつくようになるわけかい?」
「おうよ」
美祢八が頷く。
頷きつつも、
「まあ、別に、動く水使わんでもできっけどの、」
「おいおい、それ、言っちゃうのかよ」
と、すぐに身も蓋もないこと言う美祢八に、ドン・ヨンファがガクッ――となる。
そのように、展示会に関する画像を、ひととおり見せながらも、
「まあ、こんなもん、かのう」
と、美祢八はそれをしまって、この話題はお開きになる。
「――それで、このアクアボンバのパスを貰ったから、こっちに来たってわけか」
ドン・ヨンファが、改めて、こっちのイベントの話題へと振る。
「おうよ。まあ、ちょっと暇やったし、の。そん時、このイベントに、アンタの彼女の、パク・ソユンも出演するって出てたからのう」
「彼女じゃない、って」
ドン・ヨンファが、否定するも
「おっ? そうなん、け?」
美祢八と、
「でも、エッチしてるんだろ?」
と、ここでス・ミンジュン友人が加わる。
「おいおい、」
ドン・ヨンファが、勘弁しろよと言う。
まあ、それ以上は、この話題は追及されることはなく、
「――で、よ? パク・ソユンの、DJソウの名前を見たから、ヨンファもいる思っての」
「まあ、いないことも、多いけど……、まあ、たまたま、今回はね。ちなみに、僕だけでなくて……、SPY探――、サークルの、他のふたりも来てるよ」
と、ドン・ヨンファはSPY探偵団などという胡散くさい名を口に出しかけたのを、サークルとざっくり訂正して言った。
「ああ? 頭の、カン・ロウンっておっちゃんと……、もうひとり、は? チジミ屋やってる、おっさんけ」
「そっ、」
と、美祢八も、カン・ロウンとは面識があった。
続けるに、
「――で? 何、やっけ? その……、何か、変な事件を調べる、探偵サークル的な?」
「まあ、そんな感じ」
と、美祢八は確認するように聞きつつ、
「要は、アレやろ? お金と暇、そのどちらか、もしくは両方とも持て余した、有閑クラブ的なサークルっちゅう」
「ま、あ……」
と、ドン・ヨンファが、すこし苦そうな顔になりかける。
まあ、有閑クラブ的なというのは、否定はできない。
特に、いちおう貴族、財閥の身の自分である。
GUCCI風のクレヨンしんちゃんの組長先生風の黄色スーツを着ていたり、ブガッティの次は、ロールスロイス・カナリン――、失敬、ロールスロイス・カリナンに乗ったりと、代わる代わる、様々な高級車に乗っているなど……、まあ、お金と暇を持て余しているように見えるのは仕方はない。
まあ、仕事というか、ビジネスをしているのであるが。
また、美祢八が聞く。
「で? ここに――、こっちの、中国の、上海やら蘇州に来たっちゅうのは、何か、その探偵サークルの調べごとけ?」
「いや、たまたま」
ドン・ヨンファは答える。
ただ、こちらに来てから、“とある事件”の見聞は得ており、それに関して興味は示してはいるが。
その件に関して、話を振ろうとしたところ
「お? そうけ? ちょうど、最近、こっちで、水に関した事件があるねか? 何け? その、」
と、美祢八が先に、“その話題”について触れようとしたので、
「あ、あ……? その、『水の匣』事件――、って、ヤツかい?」
と、ドン・ヨンファも、呼吸を合わせるように答えた。




