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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第二章 アクア・ボンバ

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14/35

14 GUCCI風のクレヨンしんちゃんの組長先生風の黄色スーツ




「ところで、だ――、理可氏?」

「は、いぃ?」

「君は、何ていうタイミングで、起こしてくれたんだ? とんでもないことを、してしまったんだぞ……?」

 と、綾羅木定祐が、深刻な顔で言う。

「はぁ? エッチな夢でも、見てた?」

「私の夢ではないッ――!!」

 と、一喝する綾羅木定祐に、

「――!?」

 と、上市理可は、思わず驚く。


 そして、綾羅木定祐は話す。

「私だけの夢でない。これは、全人類男性の夢だ……。この世は、実は仮想世界の写像だという説があるが、そのとおりだ……。私は、うたた寝をしていたのではない。その、2045年の、来たるシンギュラリティに向けて、仮想世界にアクセスする実験を行っていたのだ……。その技術こそ用いれば、すべての女性とアクセスし、エッチをするVRの開発も可能になる。いわゆる、VR業務用セックス産業の夢を、先ほど、君は壊したのだッ――!! カンチョーを、口に垂らしてなッ!! ゆめゆめ忘れるな!!」

「うわー、気持ちわるー!! てか、シンギュラリティ、壊れちゃーう!!」

「何を言う!! 科学の進歩は、エロから始まる!! エロこそ、科学の母!!」

「じ、じゃあっ……!! 戦争こそ、科学の父!!」



※『シン屋根裏の散歩者』より




 そこから、いくつか、展示会に関する画像を見てみる。

 天目模様や、銘木のような木目模様のついた磨き壁。

 それから、まるで、昔のラーメンのどんぶりのような、中華文様の磨き壁、と――

「これは、どうやったんだい? 美祢八」

 ドン・ヨンファが聞く。

「ああ、簡単やっちゃ。水の、引いていく具合の、この“動く水”っちゅうのを使うことで、ちょうど、プログラムされたパターンを描くようにコントロールできての」

「それで、そこだけ、鏝の力がかかって……、模様がつくようになるわけかい?」

「おうよ」

 美祢八が頷く。

 頷きつつも、

「まあ、別に、動く水使わんでもできっけどの、」

「おいおい、それ、言っちゃうのかよ」

 と、すぐに身も蓋もないこと言う美祢八に、ドン・ヨンファがガクッ――となる。

 

 そのように、展示会に関する画像を、ひととおり見せながらも、

「まあ、こんなもん、かのう」

 と、美祢八はそれをしまって、この話題はお開きになる。 

「――それで、このアクアボンバのパスを貰ったから、こっちに来たってわけか」

 ドン・ヨンファが、改めて、こっちのイベントの話題へと振る。

「おうよ。まあ、ちょっと暇やったし、の。そん時、このイベントに、アンタの彼女の、パク・ソユンも出演するって出てたからのう」

「彼女じゃない、って」

 ドン・ヨンファが、否定するも

「おっ? そうなん、け?」

 美祢八と、

「でも、エッチしてるんだろ?」

 と、ここでス・ミンジュン友人が加わる。

「おいおい、」

 ドン・ヨンファが、勘弁しろよと言う。


 まあ、それ以上は、この話題は追及されることはなく、

「――で、よ? パク・ソユンの、DJソウの名前を見たから、ヨンファもいる思っての」

「まあ、いないことも、多いけど……、まあ、たまたま、今回はね。ちなみに、僕だけでなくて……、SPY探――、サークルの、他のふたりも来てるよ」

 と、ドン・ヨンファはSPY探偵団などという胡散くさい名を口に出しかけたのを、サークルとざっくり訂正して言った。

「ああ? 頭の、カン・ロウンっておっちゃんと……、もうひとり、は? チジミ屋やってる、おっさんけ」

「そっ、」

 と、美祢八も、カン・ロウンとは面識があった。

 

 続けるに、

「――で? 何、やっけ? その……、何か、変な事件を調べる、探偵サークル的な?」

「まあ、そんな感じ」

 と、美祢八は確認するように聞きつつ、

「要は、アレやろ? お金と暇、そのどちらか、もしくは両方とも持て余した、有閑クラブ的なサークルっちゅう」

「ま、あ……」

 と、ドン・ヨンファが、すこし苦そうな顔になりかける。

 まあ、有閑クラブ的なというのは、否定はできない。

 特に、いちおう貴族、財閥の身の自分である。

 GUCCI風のクレヨンしんちゃんの組長先生風の黄色スーツを着ていたり、ブガッティの次は、ロールスロイス・カナリン――、失敬、ロールスロイス・カリナンに乗ったりと、代わる代わる、様々な高級車に乗っているなど……、まあ、お金と暇を持て余しているように見えるのは仕方はない。

 まあ、仕事というか、ビジネスをしているのであるが。


 また、美祢八が聞く。

「で? ここに――、こっちの、中国の、上海やら蘇州に来たっちゅうのは、何か、その探偵サークルの調べごとけ?」 

「いや、たまたま」

 ドン・ヨンファは答える。

 ただ、こちらに来てから、“とある事件”の見聞は得ており、それに関して興味は示してはいるが。

 その件に関して、話を振ろうとしたところ

「お? そうけ? ちょうど、最近、こっちで、水に関した事件があるねか? 何け? その、」

 と、美祢八が先に、“その話題”について触れようとしたので、


「あ、あ……? その、『水の匣』事件――、って、ヤツかい?」


 と、ドン・ヨンファも、呼吸を合わせるように答えた。

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