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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第二章 アクア・ボンバ

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13 みんな大好き陰謀論はフリーメイソンのコンパスをもちながら踊る


 それはさておき、

「ちなみに? 今回は、どんな作品を作ったんだい? 上海で?」

 と、ドン・ヨンファが会話の流れで、る・美祢八アーティストの仕事について聞いてみた。

「ああ……、今回は、上海の、何け? コンチネンタル? ホテル?で、展示をしてな」

「ああ、インター・コンチネンタルね」

 思いだしながら答える美祢八に、ドン・ヨンファはすぐにピンと来た。

「そうそう、インター・コンチネンタル。コンチネンタルの、この中の中で――、ってヤツやね」

「この中の中で――?」

 と、美祢八は、『この中の中で――』という謎の言葉に首を傾げつつも、インターコンチネンタル上海ワンダーランドのことである。

 採石場跡の大きな穴の、深さ88メートルの崖に建てられたホテルとして有名である。

 なお、地下に建てられたことから、地上階は2階、地下は15階まである。

 最深部の穴の底では、当然ながら水が溜まるのだが、その水を活かして、庭園のように湛えることで、この独特な景観を創り出すことに成功したのである。


 そんな、奇抜かつ、中華的ラグジュアリーさのあるホテルにて、る・美祢八は左官偽能アートなる展示を行っていた。

 ここで、

「おっ? そういえばやけど、ス・ミンジュンはん、やっけ?」

「え、ええ」

 と、美祢八が、ドン・ヨンファの友人にして、動く水の開発企業の代表の、ス・ミンジュンに話を振った。

「この展示で、のう? ちょうど、アンタの、動く水っちゅうのを、使わさせてもらったわ」

「あ、ありがとうございます。まあ、私どもは、少し関わっているくらいですけど、」

 ス・ミンジュンが、謙遜しながら答える。


 そのようにしつつ、る・美祢八は、ドン・ヨンファとス・ミンジュンのふたりに、インター・コンチネンタルでの展示の画像を見せる。

 まずは、“流動する泥”のオブジェ、球体――、とでもいうべき作品。

 キメの細かくも、やや紫みを帯びた泥――、それを練り合わせる水に、今回の“動く水”を用いることで、水気を湛えながらも乾かんとする泥が、まるで流転するように流動するという、神秘的な作品である。

「何か、チョコレートフォンデュみたいな、泥だね」

 ドン・ヨンファが、動画を見て言った。

「おおっ! 的確な感想、やねぇ! そしたら……? こっちは、どうけ?」

 美祢八は言って、また別の画像を見せる。


 そこに映るは、奇抜な、インスタレーション作品というか? ファッションブランドの、ショーウィンドウ展示のようだ、とでもいうべきか――?

 ひも、というかつな――

 それも、一定間隔で丸い結び目を作られた紐、10本ほどが、上から吊るされて、その結び目の部分を“流動する泥”が覆っていた。

 そして、その様はというと、まるでリンツチョコを思わせるように、様々な色に、質感、模様とともに、1080°回転していた。

「へぇ……、こっちは、また、リンツチョコみたいだね」

 ドン・ヨンファが、リンツチョコが思い浮かんで言った。

「おっ? やっぱ、そうやろ! ほんと、的確な感想言いますなぁ! ドン・ヨンファ先生!」

 美祢八が茶化し、

「おいおい、先生呼び、勘弁してくれよ、」

「いやいや、ほんと、なかなか適切な感想よ」

「いや、乾燥までは言ってないんだけど、な」

 と、ドン・ヨンファが、まいった様子で答える。


 そのまま、ドン・ヨンファと美祢八のふたりは話す。

「しかし……? この、泥を吊るした、綱……、というか? 紐、かい? ――は、どこで、着想を得たんだい?」

 ドン・ヨンファが、気になって聞いてみる。

「ああ? それ、け? ちょうど、中国での展示だしのう、こっちの神話に、女媧と伏羲って、おるやん?」

「ああ、女媧と伏羲ね」

 女媧と伏羲との、中国神話の神々の名を出す美祢八に、ドン・ヨンファもピンと来る。

 ヘビの下半身で、ヘルメスのごとく巻き付き合いながら、みんな大好き陰謀論はフリーメイソンのコンパスをもちながら踊る、古代中国神話の二柱の神々。

 その神話の、大まかな知識、内容を頭に思い出しながら、

「――それで? 女媧と伏羲が……、確か、泥から紐を引き上げながら、人間を創った――、ていう神話に由来しての、この作品かい?」

 と、ドン・ヨンファが、答え合わせのように聞いた。

 その答えに、

「ビン、ゴ――!! いいねぇ!! ヨンファ大先生!!」

「もう、先生はいいって」

 と、美祢八はテンションをあげ、さらにいじる。

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