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 青白い月明りだけの暗い部屋に遠くの梟の鳴き声が聞こえるぐらいの静寂が広がる。

 わたしはノアからの視線を逸らせずに、ただノアを見る。

 そしてノアも黙ったまま、こちらの発する言葉を待っている。

 言い逃れのできない状況で、真実を話す覚悟を決めるしかない。


「そうです。わたしはアグネスと言います。巷では聖女と呼んでいただいています」

 一瞬、「光魔法と呼ばれる癒しの魔法だけは使えない落ちこぼれ聖女」であることも付け加えようとしたが、人に言ってはならないときつく教育されているし、国家機密である事項のため説明を省く。

「レオンの妹、アグネス・ラチェットで間違いないんだな」

「はい。わたしの兄はレオン・ラチェットです」

  

 わたしの返事を待っていたノアは、わたしの名前を聞いて険しい表情になった。

 

 ノアは急に立ち上がると机の上のランプに火を灯し、またベットの側に戻ってきた。

 机とわたしが座るベットの付近が温かく優しい光に灯された。その光に気持ちが少し落ち着く。

 

「聖女アグネス殿、これを」

 ノアの手から銀の指輪が渡され、わたしはここではじめて銀の指輪が自分の手にないことに気づいた。


「いつ…」

「申し訳ない。レオン…を。酔っぱらったレオンをベットに下したときに落ちたようだ。聖女アグネス殿、これはどういうことか説明してもらえないだろうか?」

 わたしを真剣なまなざしで見るノアの瞳をわたしも真っすぐに見た。


「わかりました。説明させていただきます」


 わたしは昨日の夕方、お兄様の姿で目覚めるまでは聖女アグネスであり、第一王子との結婚式の最中であったこと。

 そして、暗殺者にお兄様とともに殺されたこと、女神さまと契約をして、お兄様の願いを7日間以内に叶えたら、お兄様を生き返らせてもらえることをぽつりぽつりと静かに話した。


 ノアは険しい表情から、だんだん辛そうな表情に変わっていくのが見て取れたが、親友であるお兄様が暗殺されたことにショックを受けたのだろう。

 わたしの話しに耳を傾け、およそ現実とは思えないこの話を真剣に聞いてくれた。


「では、その指輪は女神様から授けられたものなのだな」

 銀の指輪を嵌めるとお兄様の姿に、外すと私自身に戻ることも説明すると、とても興味深そうにわたしの手のひらにある銀の指輪をまじまじと見た。

「いまは指輪を外しているので、アグネスの姿です。嵌めるとお兄様になるのですが、実際にご覧に入れましょう」

 わたしはそう言って、左手の人差し指に銀の指輪を嵌めた。

 たちまちお兄様の姿になると、ノアが息をのんだ。


「本当にレオンになるんだな。信じがたいが自分の目で見ると納得できるな」

 わたしは静かに頷いた。


「聖女アグネス殿、つらいことを聞いても良いだろうか?暗殺者の顔は見たのか?それは誰かわかるか?」

 わたしは咄嗟のことで暗殺者の顔は見たかも知れないが、司祭様に変装していたことぐらいしかわからない。

「すみません。暗殺者の顔までははっきりとはわからないのです。司祭様に成り代わっていたことしか…ただ」

「ただ?」

 最後にみた光景が目に焼き付いている。

 わたしが刺された胸から血が吹き出すのを押さえ、手が血で真っ赤に染まり、崩れるように倒れるわたしを見た第一王子が嫌な薄笑いを浮かべていたこと。

 それさえもノアに話してしまって良いのかをためらってしまい、言い淀む。


「聖女アグネス殿、無理には話さなくてもよい。ただ、これからレオンの願いを叶えるにもあまりにも時間がない。出来れば貴女が知っていることがあれば何でも俺に話してほしい」

 そう言ったノアは泣きそうな顔をした。


 なぜ、あなたがそんなに泣きそうな表情をするの?


「わかりました。でもわたしの見間違えかも知れませんが、最後に見た光景では第一王子は倒れるわたしを見て、薄笑いをしておりました」

 その言葉にノアの瞳に怒りの感情が点ったのがわかった。

 そして、ノアの手が震えていることに気づいた。

「聖女アグネス殿、辛いことを話してくれてありがとう」

 ノアの方がわたしよりもよっぽど辛そうにしている。


「あの、ノア。わたしのことは「聖女アグネス殿」ではなく「アグネス」と呼んでいただけないでしょうか?」

「いま、その姿でも?」

 慌てて自分の手を見ると、いまはお兄様の太い腕だし、左手の人差し指に銀の指輪が嵌められいる。


「いま、お兄様だったわ!」

 思わず、笑ってしまった。ノアの泣きそうな顔が優しい微笑みに変わる。それを見て、少しだけ安堵する。

「その姿の時はいままで通り「レオン」と。貴女の本来の姿の時は「アグネス」と呼ばせていただこう。それで良いかな?レオン?」

「お願いします。そしてわたしがお兄様の時は貴方のことをいままで通り「ノア」とお呼びしてよろしいでしょうか?」

「もちろん。貴女がアグネスのときも「ノア」と呼んでいただけると、俺は泣きそうにうれしいのですが?」

 ノアが、やっと破顔した。

「ありがとうございます。そうさせていただきますね。それと、わたしから厚かましいお願いをしても良いですか?お兄様を生き返らせるためにも、兄の願いを叶えたいのですがノアに協力をお願いできないでしょうか?」

「もちろん、この話を聞いた瞬間からそのつもりだ。俺にも協力させてほしい」

 

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