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王族派の終焉

 唇をかみしめて、その光景を黙ってじっと凝視していたノアは、怒りのこもった瞳を副団長に向けた。

 ただ、怒りの感情のままに勢いだけでは話しをするべきでないとノアは思ったのだろう。

 深く息を吸って少しの間を取って心を落ち着かせてから、副団長に感情を押し殺したかのような低い声で「はい」と返事をした。


「魔獣を発生させる方法が「これ」です。罪のない多くの人間を殺し、この臭いで魔獣を惹きつける。ただ、魔獣は賢いのでそれだけでは惹きつけられません。そこに「悪意」という火種が必要です」

 その場がしんと静まり、凍りついた。

「あ、悪意とは?」

 副団長は驚きで少しどもりながらもなんとか声を発したが、最後のほうは声が掠れた。

 

 月明りに照らさるノアは表情は硬く青白い。感情を失い、まるで蝋人形のようだ。

「今回の魔獣討伐は王族派が仕組んだ罠です。わざと魔獣を大量発生させ、騎士団に多く所属する貴族派の子息を魔獣討伐で皆殺しになるように仕向けたのです。そして私を殺すことが一番の目的だったと思われます」

 その場にいる騎士達がノアのその言葉に息を呑み、お互いの顔を見合わせる。

 

「な、なんと!でも、証拠はないだろう?」

 その言葉にノアは静かに首を横に振り、死体の山の地面を指さした。

「よく見てください。うっすらですが魔方陣が書かれています。間違いなくここで魔獣を呼ぶ儀式が行われたと見て、間違いないでしょう」

 皆が一斉にその魔方陣に視線を向ける。所々消えかかっていて、うっすらでしかわからないが、間違いなく魔方陣のようなものが描かれていた。

「でも、王族派の仕業だとは言い切れない」

「いえ、まずこの絶対に秘匿しておかなければならない魔獣を呼ぶ方法を知っている者、そして、それを実行できる力がある者となると限られています。王族派しかも「王家」で間違いないでしょう。魔獣を呼ぶ方法は王立図書館の禁書に記載がありますが、この魔方陣だけはどの書物にも記載されておりません。あまりにも危険なことなので、わざと別々にされているのです。なのでこの魔方陣を知るのは王族のみ。しかもその記載場所は…」


(陛下の王冠の内側のみ…あれを触れることができる人物は陛下だけだ。私を殺すためにどれだけ多くの人々を巻き込むのだ)

 ノアは、怒りで握る拳が震える。


「ノア、そこまでは言わなくても良いのではないか?いまはまだそれは秘匿しておいたほうが良い。王族派や王族の仕業の証拠なら、そのご遺体の中にもあったぞ」

 レオンが枯葉を手に持ち、ひらひらとさせた。


「レオン、それは?」

 死体の山をひととおり見て、みんなのところにゆっくりと戻ってきたレオンはその枯葉を副団長に渡した。

「これが、例の情報提供の違法薬物です。先日は騎士と密偵部隊の派遣を大聖堂にありがとうございました。」

「——ああ、これが例の違法薬物の実物なのか?」

 レオンはゆっくり何度も頷く。

「この違法薬物は焚いた煙を吸ったり、口にすると幻覚を見る作用がある。今回は多くの村人たちを教会などに一か所に集め、この違法薬物を焚き意識を失わせたところを殺害したのだろうな。そして、魔物を現世に呼び寄せるためにここで儀式を行ったということだな。違法薬物と王族しかしらない儀式、ここでつながる訳だ」

 誰もが信じられない気持ちで副団長の手元を見つめる。


「大聖堂?レオンは———まさか」

 蝋人形のように表情がなかったノアが、なにかに気づいて表情を取りもどし顔をしかめた。

「大聖堂を同じ方法で制圧したのか?」

「まあな。でも殺しはしてない。酩酊してもらっただけだ。これでも我慢した方なんだぞ。それに偽聖女が逃げ出す方法としては妥当だろう。これは「ふたりの願い」のための序章に過ぎない」

「ふたりの願い?」

 レオンは口角を上げ、微笑み頷いた。


「俺とセレーネの願い。さあ、これで現陛下と王妃、ヴィクター殿下は失脚だな。王族派の終焉。ノアの時代が来る。副団長も団長もヴィクター殿下に陣頭指揮を執らせたのは、これを狙っていたのでしょう?貴方たちのことだ。ヴィクター殿下の剣の腕前も人心掌握が出来ないこともよく知っておられたのだろう。それにヴィクター殿下に陣頭指揮を執ってもらえるように聖女に煽ってくれと頼むようにチラチラ見ていたではありませんか」

 「なぜ、そのことを!あ、セレーネ嬢か!」

 レオンは含み笑いをしながら「そういうことにしておきましょう」と返した。


 副団長とレオンが騒いでいる間に、ノアは小さい身体の遺体の近くにゆっくり歩いて行くとその場で跪く。そして優しく触れ、苦悶の表情を浮かべた。

(こんな小さい子が——。この空間を浄化しなければ、再び逢魔時に現世と異界が繋がってしまう。浄化できるのは——)


「アグネスしかいないんだよな」

 いつの間にか、レオンが静かにノアの側に立っていた。

「どうしてそれを?そうだな。アグネスの力が必要になる。しかしアグネスは癒しの魔法は…」

「癒しの魔法が必要——か。それなら心配ないだろう。」

 

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