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奇跡の再会

 セレーネもとりあえず大聖堂の外に出た。

 目的は司祭やその関係者の居住棟だと思われる建物に様子を探りに行くことだ。

 夜になるまでどこかに潜み、レオンと接触することも考えたが、アグネスに残された時間があと4日だと考えるとレオンに残された時間もそれぐらいだと考えられた。

 あまり時間の猶予はない。

 出来れば早急にアグネスの部屋を突き止めて、レオンと接触を試みたい。

 司祭と移動したアグネスの姿をしたレオンも必ず、セレーネに接触しようとしてくるはずだが、王族側の間者がいる可能性もあるため、セレーネはそう目立つことはできない。

 とりあえず、居住棟近くの雑木林に人目につかないように注意して入り込み、登りやすそうな木を見つけて、そこに身を隠した。

 木に登り、ある程度の高さから建物を観察する。

 時間的には昼だったようで、厨房があると思われる棟の煙突からは煙が出ていた。

 いまから昼食がはじまるようだった。だから、祈りも終わったのだろう。

 しばらくすると、その厨房と思われる棟から一人の細く小さな女性が出てきた。もちろんそれはアグネスだ。

 セレーネは木から飛び降りると、雑木林から飛び出た。


(レオンっーーー!)

 大きな声は出せない。声にならない声を胸の中で叫びながら、アグネスの姿をしたレオンに駆け寄る。

 アグネスの姿をしたレオンもすぐにセレーネに気づいたようで、雑木林のほうに駆け寄ってきた。

 お互い手を取り合い、アグネスの細い指が折れてしまいそうなぐらい強く握り合う。そしてアグネスの姿をしたレオンのその指には銀色の指輪が嵌められていた。

 アグネスも同じ指輪を嵌めていたので、セレーネにはそれがレオンが一度死んでしまった証にしか見えず、胸が締めつけられた。

 

「セレーネ」

 アグネスの姿をしたレオンが間違いなく「セレーネ」と口にする。

 本来のずっと大聖堂に暮らすアグネスならセレーネの存在は知らないはずだ。

「レオンだよな」

「そうだ。私は間違いなくレオン・ラチェットだ。セレーネはなにが起こっているのか理解しているから、ここに来たのだな?」

「そうだよ、レオン。元の姿にいま戻れるか?」

「それも知っているのか」

 そう言うとアグネスの姿をしたレオンはセレーネの手をひき、さらに雑木林の奥に入ると立ち止まり、指輪を外した。


 その一瞬でそこには聖騎士の制服をした凛々しいレオンが立っていた。

 綺麗な金髪の髪を風に靡かせてセレーネに微笑むや否や、セレーネの手首を取り、あっという間に自分の胸に引き寄せて抱きしめた。

「セレーネ、会いたかった。ここまで来てくれてありがとう」

「レオン、会いたかった。どうしようもなく会いたかった。でもどうしても先に言っておきたいことがある。たぶん、いまのレオンは覚えていないかも知れないが先に謝らせてほしい」

「覚えている」

 そう言うとレオンはセレーネを強く抱きしめていた手を緩めて、優しく微笑みセレーネの頬を撫でた。

「よかった。レオン、舞踏会の件は本当にごめんなさい。私が嫉妬し、ひどく拗ねてレオンを困らせた。素直になれなくてごめんなさい。本当は舞踏会で一緒に踊りたかった。だから、だから…」

 セレーネはそこまで言うと、レオンにもう一度会えた奇跡に涙が止まらなかった。

「次は必ず最初から最後までセレーネを独占させてくれ。ずっと一緒に踊るぞ」

 レオンも泣きそうな顔をする。

「レオン…それは踊り狂うということだぞ」

 お互いに潤う瞳から目を逸らさないまま、声を押し殺して笑い合う。

 2,3日前までいたレオンとは違う。時空を超え、1年後のレオンだとわかっている。その証拠に自分を抱きしめるレオンの胸板が厚くなっていることがわかる。

 それでもレオンはレオンで変わりない。

 (もう二度と離れない)

 セレーネはそっと心に誓った。



「ところでわたしは宿屋に馬を預けているから、すぐにもレオンを連れてここを去れるがそっちの状況はどうなんだ?」

 以前より少し逞しくなったように見え、聖騎士の煌びやかな正装の制服姿のレオンがあまりにも似合っていてセレーネは少し照れてしまうが、そんなことは言っていられない。

「セレーネはウェディングドレスを着たアグネスに会ったのだな」

 セレーネは黙って深く頷いた。それがすべてを理解しているという意思表示でもあった。

「お互いの詳しい話はここを出てからにしよう。いまの状況は「アグネス」は自室に入るまでほぼ監視をされている。ここの人間すべてが王族側の人間だ。そしてアグネスの自室の窓は開かない」

「なんてことを!」

 セレーネは思わず怒りで頭が沸騰しそうになる。そして、レオンも顔を怒りで歪めた。

「私が思っている以上に酷い状況だった。今日まで私がここに留まっていたのにも訳がある。それはおいおい説明をする」

「ところで「アグネス」はそろそろ昼食に戻らなくても大丈夫なのか?」

 監視されているという割には、いまレオンはひとりで悠々と抜け出てきている。レオンが待ってましたとばかりにとても悪い顔でうれしそうに口角を上げた。

「逃亡しようとした矢先にとんでもないものを見つけたから探っていたんだ。そろそろ仕込んだものも出来上がっている頃だろう。セレーネ、手伝ってもらえるか?まだ探し足りないものがあるんだ」

「もちろんだ」

 レオンはセレーネにハンカチを渡し、それを鼻と口を覆うように指示をすると、再びアグネスの姿に戻る。

 先にレオンが雑木林から出て周りを警戒しながら歩き、人がいないことを確認してからセレーネを厨房のある建物に手招きをした。

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