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ウェディングドレス

 一通り、ノアとわたしの話を聞き終えられると、セレーネ嬢はしばらく目を伏せられた。

「話してくれてありがとう」

 感情を押し殺すように静かにお礼を言われた。

 お兄様の最期を聞き、ショックを受けているようだったが、セレーネ嬢は落ち着いておられた。いや、気丈に振る舞われているのがアグネスには痛々しいほど伝わってくる。

 セレーネ嬢は、この信じられないような死に戻りの話しに真摯に耳を傾けてくださった。

 お兄様がわたしとともに凶刃に倒れたことを話した時は、その綺麗なお顔を歪ませて辛そうにされたが取り乱されることはなく、冷静にされていた。

 やはり強い人だ。


 「女神様との契約についても話してくれてありがとう。だからアグネスはレオンの願いにこだわったのだな」

 「わたしの話を聞いてくださり、ありがとうございました。そうです。お兄様の願いを叶えないとお兄様が生き返ることができない。婚約者であるセレーネ嬢とお兄様が喧嘩をされたと聞いたものですから、セレーネ嬢と仲直りをすれば、お兄様の願いは叶えられると思ったのですがそれは違いましたね」

 わたしはまた兄の願いを一から探さなければならない。今日は死に戻ってから3日目。女神様と約束した1週間まで残された時間はあと4日しかない。

 

「わたしではお兄様の願いがなになのか、皆目見当がつきません。セレーネ嬢もノアもお兄様の願いについて、なにか心当たりはありませんか?」

 12歳までしかお兄様と一緒に暮らせなかったわたしはその後の6年間の空白があり、最近のお兄様の生活はまったくわからない。今回、お兄様に代わって騎士団の寮生活を体験して、お兄様のことを初めて知ったことがいくつもあった。婚約者がいることもそのひとつだ。もちろん親友であるノアのこともだ。


 きっとノアとセレーネ嬢のこのおふたりがお兄様にとって、もっとも身近な人たちだ。

 わたしがそう尋ねるとふたりは顔を見合わせ、なにか言いたげな表情をする。

「ノアもわたしも考えていることは一緒だ。ノアもそう思うだろう」

「セレーネ嬢がそう思うなら、そうなんだろう。レオンの口癖だったしな」

 ふたりはお兄様の常日頃の様子を思い出したのか、愛しいものを見るような目で少し遠くを見た。


「アグネス、ノアについていけばレオンの願いは叶うはずだ。大丈夫だ。アグネスのことはノアに任せるから、ふたりでレオンの願いを探してきてくれ」

 セレーネ嬢は、ノアを見てうれしそうにノアの背中をポンと後押しするかのように叩かれた。

「セレーネ嬢に言われなくてもそうするつもりだ」

 ノアがいつもの調子に戻ってきた。少しムッとしながらも、なぜか耳が赤い。


「それにしてもアグネスはその恰好をなんとかしないといけないな」

 セレーネ嬢に服装のことを指摘されて、自分の着ている服に視線を落とすと真っ白のウエディングドレスだ。

 そうだった。いまはお兄様ではなく、アグネスの姿だ。

「他の男が用意したウエディングドレスなんて着るな。アグネスが動きやすい服を買いに行くぞ」

 ノアが視線を外しながら、買い物を提案してくれた。ノアはまだ耳が真っ赤だ。

 それを聞いたセレーネ嬢が目をまん丸にしたかと思うと、満面の笑みでノアの背中を叩いた。

「ノア、わかっているじゃないか!そのウエディングドレスは第一殿下が用意したものなんだろう?」

「殿下が選んだかどうかは定かではありませんが、殿下が用意されたと聞いております」

 その話を横で聞いていたノアが舌打ちをした。するとセレーネ嬢が舌打ちを注意するかのようにノアをひと睨みした。


「我がハンレッド侯爵家が御用達にしている仕立て屋がある。これからすぐにそこに話を通しておく。君たちはその仕立て屋に行って、ウエディングドレスを売ってなにか動きやすい服を買ってきたらいい。その仕立て屋なら秘密裏に動いてくれるぞ」

「その話はありがたいな。好都合だ。今日は騎士団は休日だし、セレーネ嬢に言われなくても元よりウエディングドレスは売っぱらうつもりだったからな」

 ノアはセレーネ嬢の提案にすごく乗り気だ。

「その前にアグネスは私の寮の部屋に寄ってくれ。私の服で申し訳ないが着替えるぞ。しかし、いまから騎士団を出るまではレオンの姿だ。いくらなんでもウエディングドレスで外を出歩くのはちょっと不審者そのものだからな」

 そう言って、セレーネ嬢はウエディングドレスの生地を確認するようにドレスに触れ、何とも言えない複雑な表情をした。

 

「本来なら、わたしが仕立て屋について行ってやりたいが、いまから少し遠くに出かける。すまないがノア、私の義妹をくれぐれも頼んだぞ」

「わかっているよ。それよりもセレーネ嬢はどこに…ってまさか」

 そのあとのノアの言葉を遮るように、セレーネ嬢が首を横に振った。

「ノア、ちょっと良いか?」

 ふたりはわたしから少し距離を取って、ふたりでなにかを小声で話し込む。でもそれはすぐに終わった。ふたりの話はまとまったようだった。

 ノアがわたしの側まで来た。

「アグネス、霧の魔法を解除して通常に戻したらすぐにレオンの姿に戻れ。そのあとはレオンの姿でセレーネ嬢の部屋に行って、部屋でアグネスの姿に再び戻してウエディングドレスからセレーネ嬢の服に着替える。その後はすぐに仕立て屋にいくぞ」

 わたしは元気よく返事をする。ノアと外出!


 大聖堂暮らしでは、たまに麓の街までのお使いにいくぐらいでほとんど外の世界に出たことがない。

 お兄様の願いを叶えるという目標を意識しながらも、一気に外出が楽しみになった。

★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションが上がります。


☆お知らせ☆

コミカライズされています!

「幼馴染は隣国の殿下!?〜訳アリな2人の王都事件簿〜」作画は渡部サキ先生!

溺愛&事件&ほっこり系です。

なろうでは、コミカライズされていない第2章あり!

作者はこの第2章、めっちゃ好きなんです笑


そして、現在コミカライズ連載中!

「なぜか転移魔法はいつも溺愛王子の元に〜魔法練習中

の皇女は、初恋こじらせ王子のお気に入り〜」

作画は木成あけび先生!

溺愛&ちょっぴり切ない系&騎士様♡&魔法

木成あけび先生の描かれる華麗な異世界時間に引き込まれます!

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マンガも原作もお楽しみ頂ければ幸いです。


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