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慧眼

 どうしよう。

 いまはまだ正体を明かすのには早い。バレる訳にはいかないのだ。

 お兄様の願いかも知れないセレーネ嬢との仲直りをすることを叶えるまでは。

 


「レオン?聞いているの?」

「セレーネ嬢は何を言っているのか、わからないな。俺はレオンだ!俺をよく見ろ。舞踏会でダンスが出来なくて婚約者の顔を忘れたのか?もう一度、最初からだ!」

 セレーネ嬢はなにか言いたげで納得いかないようだった。

「わかったわ。そこまで「レオン」が言うのならもう一度、ね」


 そう言うと、セレーネ嬢はより一層不機嫌になりながらもあっさりと元の位置に戻ると、模擬剣をかまえた。


「思いっきり来い!セレーネ嬢!」

 わたしは捨て身の覚悟で叫んだ。

 次は防戦だったわたしも攻める!

 

 隠れてわたしたちの様子を見ていたノアが慌てて飛び出してきたのが、視界の端に映る。


「覚悟しなさい!レオンもどき!」

 セレーネ嬢が渾身の力を込めているのがわかる。スラリとした体をしなやかに活かしながら、剣を振り被りわたしに向かって下ろした。

 そして、わたしもお兄様の身体の筋肉を腕に込めて、精一杯振り下ろす。

 ガツーーーーンと剣と剣が重く鈍い衝撃でぶつかり合う。衝撃でお兄様の身体は後ろにのけ反るが鍛えられたお兄様の筋肉はすぐに体勢を整えた。

 激しく模擬剣で力と力のぶつかり合いになり、お互い一歩も引くことがない。

 力まかせの勝負だ。


 「ぐうぅぅ」

 思わず、声が漏れてしまう。


「お前ら、そこまでにしろ!」

 息を切らしてノアが全速力で走ってきて、模擬剣を交わり合わせ力と力の均衡を保つわたしたちを嗜める。

「ノア!これはどういうことよ!」

 セレーネ嬢が力を抜くことなく、そばまできたノアに大声で問い詰める。


 ノアは、お兄様の姿のわたしの太い腕をつかんだ。

「アグネス、止めろ」

 そう言われて、わたしは力を抜くと、ノアとわたしのやり取りを見ていたセレーネ嬢も力を抜いた。


「ノア!説明して!この人、「レオン」じゃないわ!」

 セレーネ嬢はやはり只者ではない。一瞬の手合わせで本物のお兄様でないと見破った。恐ろしいほどの慧眼の持ち主だ。

 ノアはこうなることを予想していたのか、苦笑いをしている。

「セレーネ嬢、お前ならすぐに気づくと思ったけど、やっぱりな」

 セレーネ嬢はお兄様の姿のわたしを恐ろしい眼力でじっと見つめてくる。

「レオンもどき、なにか言いなさいよ。アグネスってなによ」

 凛とした女騎士のセレーネ嬢から問い詰められると、その気迫に負けそうになる。

 わたしも落ちこぼれの聖女とはいえ、聖女だ。

 いまはお兄様の姿をしているけど、彼女の凛とした姿には負けられない。

 背筋を伸ばし、妃教育で学んだ「余裕の笑み」を優雅にしてみる。

 一瞬、セレーネ嬢が怯み、頬を染めたのが読み取れた。

「レオンの顔で微笑まないで」

 セレーネ嬢が照れた。どうやら、彼女はお兄様のことが嫌いではないらしい。だから、腹をくくった。

 

「セレーネ嬢、俺と…お兄様と仲直りをしてください」

「は?」

 ノアは天を仰いでいるし、セレーネ嬢は目を見開いたまま、氷のように固まった。


 沈黙が絶好の機会だと悟ったわたしは、左手の人差し指に嵌められている女神様からいただいた銀の指輪を外した。


 その一瞬で白いドレスのアグネスに変わる。

 わたしは自分の元の姿になったことを確認すると、全身に魔力がみなぎっているのがわかった。魔法が使える。


「ネブラ」

 呪文を唱えて、両手の手のひらを天に向けた。

 訓練場だけが瞬く間に濃霧に包まれる。これなら、わたしたちの姿を見られることもないし、なにが起きているのかも3人しかわからない。


「アグネス、その姿だと魔法が使えるのか?」

 ノアが心配そうに聞いてきた。

「そうみたいです。アグネスの時は、いままで通り魔法が使えそうです」

 ここ2日ほどはお兄様の姿で過ごしていたので、懐かしく感じる自分の元の姿と魔力。


「レオン?レオンは?」

 まだ、この状況に理解が追いつかないセレーネ嬢は、唖然としたままだ。

 そして、わたしは悲しい事実に気づく。

 お兄様の婚約者であるセレーネ嬢にお兄様の悲しい事実を伝えなければならないことを。

 ノアの方を見ると、ノアもその事実に気づいたのだろう。表情が曇った。


「セレーネ嬢、お初お目にかかります。レオンの妹のアグネスと申します」

 ゆっくりとカーテシーをする。

 その名前によく覚えがあったのだろう。セレーネ嬢の表情がすぐに驚きに変わった。

「ア、アグネス!貴女がアグネスなの?」

 わたしはセレーネ嬢を真っすぐに見据えて大きく頷いた。


「はい。わたしがアグネスです」


 セレーネ嬢はわたしの手を取ると、なぜだかセレーネ嬢が泣きそうな顔になり、その綺麗な瞳が濡れていくのがわかる。

「アグネス、やっと…やっと…解放されたのだな」

「えっ?」

 解放?なにの話?


「セレーネ嬢っ!!」

 いつもは不良ぶって余裕そうなノアが、余裕なく真剣な表情でセレーネ嬢の名前を慌てて呼ぶと、ノアが首を横に振りながら「それは…」と言ったあと、ふたりで瞳で会話を交わしているのがわかる。まるでわたしには聞かれたくないことがあるように。

 それを察して、目を逸らして聞いていないふりをした。


「申し訳ない。アグネスだとわかって動揺してしまった。貴女がレオンの妹のアグネスなのだな」

「はい。今回の突然のご無礼をお許しください」

 セレーネ嬢はその綺麗な顔で優しく微笑み大きく頷くと、瞳から一筋の涙がこぼれた。


「説明してくれるのだろう。ノアとアグネスが一緒にいる理由も。そして、ここにレオンがいない理由も」

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