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「お兄様!!」


 そう叫ぶことだけで精一杯だった。

 それはあまりにも突然の出来事だった。


 国中の年頃の女性なら誰でも憧れる、大人気の第一王子との結婚。

 大勢の人に見守られて、2年前に亡くなった父の代わりのお兄様とバージンロードを歩いている結婚式の最中だった。


  妹であるわたしのことをいつも気にかけてくれていた優しくて素敵で大好きなお兄様がいま、司祭に偽装した暗殺者の剣からわたしを庇ったために、暗殺者の剣が胸に刺さり、赤い血を吐きながら倒れた。

 

 わたしは聖女と呼ばれているが、聖女なら絶対に使えないといけない光魔法と呼ばれる癒しの魔法だけは使えない落ちこぼれ聖女だ。

 だから、わたしの目の前で倒れるお兄様の怪我を治すこともできない。

 

 そして、わたしもお兄様と同じように司祭に偽装した暗殺者に刺され、すでに息をすることも苦しい状況に陥り、他の魔法で暗殺者に応戦することもできない。

 倒れても手を必死に伸ばし、這ってでもお兄様の近くに行こうとするが身体がままならない。手が震え、声も出ない。全身から力が抜けていくようだった。

 

 暗殺者は聖女のわたしが、光魔法だけは使えないという国の重要機密にもなっていることを知っていたのだろうか。

 

 人々の悲鳴が聞こえる。

 そして、誰かがわたしの名前を呼ぶ声も。


 薄れゆく意識の中ではっきりと見えたのは、わたしの結婚相手である第一殿下が祭壇の前で気味悪い薄笑いを浮かべていること、いつも山奥の大聖堂に来る時は一緒だったお兄様の従者の方が倒れるお兄様とわたしの側に駆け寄り、剣を抜いて暗殺者と対峙しているところまでだった。


 わたしの名はアグネス・ラチェット。

 5大魔法のうち、光以外の地・水・火・風の4つの魔法を幼い頃から使えた侯爵令嬢で18歳。

 聖女は5大魔法(地・水・火・風・光)を使えないといけないのに、なぜかわたしは光魔法だけが使えなかった。

 ただ、魔法を使える貴重な存在として、国の法律に従い12歳から聖女候補として俗世からは隔離されて、山奥の大聖堂で6年も修行をしていた。

 真面目な性格と上位貴族であること、他に魔法を使える者が出てこなかったことが功を奏して?、わたしの意思と反して、聖女となってしまった。


 そして今日は、これまた聖女は王族と結婚をしなければならないという、とてもありがたくない法律に従って、わたしが18歳になるのを待ち、3回会っただけの第一王子との結婚式の最中であった。


 わたしは、この6年間を人里離れた山奥で古いだけが自慢の大聖堂で祈りの修行と、王妃教育の毎日を送っていた。

 わたしのささやかな願いは、普通の女の子のように家族のもとで暮らし、学校に通い、恋をすること。

 しかし、厳しい大聖堂の規律で家に帰れることはなく、淋しがるわたしのためにお兄様は1か月に1度、どんなに寒い季節で雪が積もっても欠かさずに山奥の大聖堂まで面会に訪れては、普通の暮らしがしたいと願うわたしに、「いつかアグネスの願いを叶えてやる」とずっと励ましてくれていた。


 そんなことは無理だと最初からわかっていても、いつも口ぐせのように優しく微笑みながら呪文のように言うお兄様の温かさが大好きだった。


 わたしの兄はレオン・ラチェット。

 ラチェット侯爵家嫡男でわたしと年は1つ違いの19歳。

 ふたり兄妹だったので、わたしにはめっぽう甘く、優しい兄だった。

 わたしが聖女候補から聖女になってしまった時には、兄は侯爵家の嫡男なのに学園でのコースを騎士コースに変更してまで聖騎士を目指し、側でわたしを守ると宣言して、本当に実行してしまった。

 お兄様が聖女の聖騎士として着任したのは、ついこの間のこと。

 わたしの側で護衛をしてくれるようになったのだ。

 

 お兄様、このまま死なないでください。

 わたしがお兄様に自分のことを話すばかりでお兄様自身のことを聞いたことがほとんどなかった。

 お兄様の願いや、夢は何だったの?

 聖騎士よりやりたいことがいっぱいあったのでは?


 どうか、神様。

 聖女として、貴方様にお仕えする時間は短かったですが、これまでの6年間という時間の大半をあなたに祈り、捧げてきたわたしの願いをどうかお聞き届けください。


「お兄様だけでも生き返らせて」


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