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第1話

「──え?」

何となしにしたスマホ画面のスクロール。そこに見覚えのないアプリが入っていた。

ガチャとだけ記載のある真っ黒なアイコン。セキュリティ的に良いことではないとわかってはいるが何か妙に魅かれるものがある。

俺は何かにとりつかれたように、そのアプリをタップした。

 〈一万円を使用してガチャをしますか?〉

 「い、一万……!?」

 法外な値段につい声が出る。しかし俺の手はガチャに伸びていた。

 スマホには以前ソシャゲの課金の残りがある。多分一万円くらいは残っていただろう。

 課金が完了すると、よく見るカプセルトイが画面に表示された。俺は、指示通りにカプセルトイの取っ手部分をスクロールする。

 「──!?」

 その瞬間スマホの画面が急激に光り始めた。今までこんなに光ったことはない。

 光は辺りを照らしていき、さらに輝きを増していく。あまりの眩しさに目を閉じたが、輝きは留まることを知らないようで、その光量は、瞼越しでも強烈な眩しさを感じるほどだった。

 ほどなくして光が収まってきた。そろそろ大丈夫かと目を開ける。

 「……え?」

  少女がいた。銀髪で色白、明らかに普通の子供ではない、そんな少女がいた。当然、玄関は鍵がかかっているし、我が家はマンションの7階なので窓から入るなんてこともできない。というか、急に人が現れるということがそもそもおかしい。なのに目の前には少女がいるのだ。

 「だ、誰だ?」

 混乱する中とりあえず聞いてみる。

目の前の少女は、眠たそうに目をこするとこちらに向き直った。

 「《私は「●●●●●」ガイド役コンピューター、ルナ。アプリの起動により発現しました》」

 ちょっとよく意味がわからない。「●●●●●」というのはこのアプリの名前だろうか。というか文字でもないこの名前を俺は何で認識できてるんだ?

 「《初回マンスリーパス付き10連ガチャの結果を報告します》」

 少女がそう言うと少女の周りに紙が舞い始めた。一枚一枚がそれぞれ光を放ち、どこか幻想的な雰囲気を醸し出す。つい見惚れているとその中の一つが足元に飛んできた。

 「──!?」

 拾い上げてみると少しドキッとした。肌色の多いその紙きれはよく知る人物の写真だった。右胸の谷間の部分にホクロがあるのが見える。大切な部分は隠れてあるがおそらく水着の写真だろう。背景にビーチが写っているので間違いない。

「こ、これは?」 

「《SRイベントを確認しました。写真を渡してください》」

 恐る恐る写真を手渡す。ルナと名乗った少女はそれを何か文字の書かれたカードと交換すると、俺の手に乗せた。

 〈キス〉と書かれたそのカードを見て、再度心臓が跳ねる。

「これは一体どういう……?」

「《アイテムが二件来ています》」

「え、ちょっと無視しないで――」

 言い終える前にルナは、右手を掲げパチンと指を鳴らした。するとその動作に呼応するように背後からドスンと物が落ちる音が。

 振り返ると、2Lペットボトルが数本入るくらいの大きさの段ボールが置いてあった。

勿論、こんな段ボール記憶にはない。上を見ても穴は開いてないし家のドアも開いていない。

「え、ええええええ」

「《イベントの発生は明日となります。またのご利用お待ちしております》」

 そう言って少女は消えた。

〈キス〉と書かれたカードと謎の段ボール。

「夢?夢だよな。うん、そうに違いない」

 俺はすぐにベッドに潜りこんだ。



「……ねっむ」

誰もいない教室で俺は一人呟いた。いつもと違う静かな教室に自分の声が響き渡る。

早くベッドに潜りこんだものの全く眠れず、結局寝不足のまま朝イチに登校してきた。寝られないのを引きずってずっとベッドにいるよりかはマシだろうけど、それでも気分がいいものじゃない。

「しかも昨日の段ボールまだあったし、あれ夢じゃなかったんだ……ん?」

廊下から足音が聞こえてくる。

まだ朝のホームルームまではかなり時間があるから、朝練前の部活動生の誰かが荷物でもとりに来たのだろう。そんな予想をしながら、俺は廊下に出てきた人影に目をやった。

「──え?」

予想、全然当たってなかった。

教室の窓から見えた彼女の姿につい声が出る。

彼女は七島柚菜さん。

肩まである髪を揺らしながら廊下を歩く姿がとても可愛らしい俺のクラスメイトだ。彼女は、学年でも有数の容姿もさることながら、誰にでも分け隔てなく接するその明るい性格でいつもクラスの中心にいる。しかも七島さんの魅力はそこだけじゃない。そんな彼女は、クラス、いや学年の顔と言っても遜色ないだろう。

「あ、樋山くんじゃん。おはよー」

「お、おはよう。七島さん」

ドアを開けてすぐの挨拶に、緊張しながらもなんとか返事を返す。

「今日早いねー。どしたの?」

「え、えっと……」

会話の続きがあるとは思わず、口籠もってしまう。

彼女の質問に正しく答えるとすると、「昨日スマホに変なアプリが入っててさ、それ開いたら変な少女が現れて、七島さんの写った写真が降ってきたり、段ボールが落ちてきたりしたんだ。それが気になって眠れなくてさ……」となる。

しかしそんなこという訳にはいかない。完全に変な奴扱いされてしまう。俺は脳をフル回転し、当たり障りのない言葉を絞り出した。

「な、なんとなく?」

「そっかー、なんとなくかー。まーあるよねそういう時」

七島さんは、俺の言葉に相槌を打ちながら自分の席に歩いていく。そんな姿も絵になるな、なんて思ってみていると視界から急に七島さんの姿が無くなった。

そう――――こけたのだ。

「七島さん?!大丈夫?」

「いててててて……うん、なんとか」

七島さんは、すぐに立ち上がると膝に着いたほこりを払おうと手を伸ばした。が、その瞬間、手から下げていた鞄が開き、中身が全て床に放出された。

「あっ………」

床にぶちまけられた教科書たちを見て言葉を失う七島さん。自分の餌を誰かにとられた犬みたいな顔になってる。

「……えっと。一緒に拾おっか」

「………うう、大丈夫。一人で拾えるから」

七島さんは泣きそうな顔をしながら、教科書を一つ一つ拾っていく。そして全て拾い終えると俺の方に向き直った。

「樋山くんは何も見てない」

「え?」

「私のドジ見てない!見てないよね?」

「う、うん。見てない見てない」

「だよね!良かったぁ」

 満面の笑みを見せる七島さん。整った容姿と明るい性格も勿論彼女の魅力だ。だけど、そんな彼女を唯一無二のヒロインに押し上げている要因は、この天性のドジっ子気質と愛嬌だろう。

「あ、樋山くん今日提出の宿題やった?」

「えーっと、うん。数学のやつだよね」

「そうそう!私やるの忘れててさ、それ気づいて今日は早く来たんだー」

「そうなんだ。偉いね……ん?」

 七島さんの言葉に少し違和感を覚える。確かに今日が締め切りの宿題はある。科目も数学で合ってる。けどその宿題は確か教科書は必要だったはず。けどさっきの教科書大散乱の時に、数学の教科書は……。

「あ、やば。教科書忘れちゃった」

うん、無かったよね。

「俺ので良かったら貸そうか?」

「えっ、いいの?ありがと!」

俺に彼女の笑顔が向けられた、その事実に胸が高鳴る。

俺は、鞄から教科書を取り出し、席を立った。

「すとーっぷ。樋山くんは動かなくていいよ。私が行きますから」

七島さんは芝居がかった口調でそう言うと、こちらに足を向けた。

七島さんと俺との距離が近づく。

いつもと違う至近距離の彼女を前に顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。

もう視界から入ってくる情報は、七島さん関連しか受け付けていない。

「……は、はい。これ教科書」

「ごめんね!ありがと──」

彼女の後ろで銀髪がはためくのが見えた。

刹那、彼女があっと声をあげる。七島さんの顔が近づいてくる。

「──っ」

何か柔らかいものが口に当たった。

こちらを見返す瞳に頬にかかる髪。角度的に上から覗き込むような形になってしまい、胸が目に入る。昨日写真で見た位置にほくろがあるのがわかった。

「ごめん!」

七島さんを優しく振りほどき、俺は一目散に廊下に出た。起きた出来事の大きさに一抹の不安を覚えるが、それを差しひても有り余る興奮と高揚感。

ついさっきの唇の感覚が鮮明に残っていて口を閉じるのが勿体無い。

それに心臓がうるさいほどなっていて、顔も燃えているかのようだ。

近くにあったトイレに逃げ込み、個室に入る。肩で息をしていると無機質な声が耳に届いた。

「《イベントはどうでしたか?》」


読んで頂きありがとうございます。

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