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魔導師、精霊と口論する②

「精霊と似たような存在?」

 フラムフィは頷いた。

「初めてお嬢ちゃんがここに来た時、既に精霊を持っているようなオーラの流れがあったわ。まぁ、よくよく見てみたらログのオーラだったのだけど。それが一つの理由。あとは、私とあとお嬢ちゃんしかログが話せていない事。私は元素精霊なのもあって大体の精霊とは話せる。そして多くの精霊も契約者しか話せない。」

フラムフィは足を床に着地させる。フラムフィの履いているヒールのような靴によってコツンと音がなる。

 確かにフラムフィの言うことは一理あるのかもしれないと思った。僕は、メリーの精霊として生まれ変わり、左手の感覚を共有したと言うことになる。

しかし、精霊と言われて納得のいかない事もある。僕はメリーとの入れ替わりが起きている。精霊との入れ替わりなんて聞いた事がないのだ。フラムフィは何か知っているだろうか。

フラムフィの方を見ると彼女もこちらを見つめていた。何かに気づいたように、小さく瞬きをする。

 「色々言ったけど、私はログが精霊になったとは思えないわ。だってまだ契約が終わってないもの。精霊と精霊との契約は考えられない。」

「なるほど。だから精霊と似たような存在と言ったのか。」

ふとメリーの顔を見るときょとんと首を傾げていた。

メリーには複雑な話だったのかもしれない。

今日は元々、メリーと精霊の契約を行おうとしてこの店に訪れたのだ。

「転生も契約のミスも過ぎた事よ。

で、お嬢ちゃんの精霊を見て欲しいって話だったっけ。」

メリーは大きく頷く。

「この魔法陣に入ると、精霊と話せるの。お嬢ちゃんと契約をしたいと思う精霊やお嬢ちゃんの身近にいる精霊とね。この方法だと強力な精霊と話せる確率が増えるのよ。普段はもっと簡単な契約が多いのだけど、お嬢ちゃんには特別よ。」

 フラムフィはメリーを床の下に書いてあった魔法陣の元へ手招く。

緊張しているのかメリーの動きが固い。

「左手側が反応すると面倒くさいから、左手を魔法陣の外へ出して。」

 メリーは恐る恐る魔法陣の上に移動すると、魔法陣が光出した。

「今から外の音は聞こえなくなって、精霊と一対一で話し合う時間になるわ。危険な事が起きない限りは中断しないからね。」

「わ、わかりました。」

フラムフィが魔法を唱えると、魔法陣がもっと強く光り、メリーの左手以外が光によって囲れる。

魔法陣の中のメリーが静かに目を閉じるのが見えた。





「さぁ、我々は話そうか?」

そう言いながらフラムフィは机と椅子を用意する。

「僕は椅子なんていらないが。」

「椅子に手をかけるぐらいできるでしょう。」

フラムフィは椅子に座り、奥にある調理器具に魔法で火をつける。調理器具の上のポットがカタカタと揺れ始めた。

「お嬢ちゃんは魔法陣の中にいる。私達がどんな話しをしても彼女には聞こえないわ。で、何か私に話したい事があるでしょう?」

「話したい事って…」

僕は意味がないのに大きく息を吸うフリをする。

「僕はメリーと入れ替わりが起きるんだ。」

「入れ替わり?」

僕は今まで起きた、入れ替わりについて軽く話した。

「さっきフラムフィは僕が精霊と似た存在だっていっただろう。精霊と人間の入れ替わりって起きるのかと思ってね。」

フラムフィは深く椅子に座る。

「聞いた事がないわ…精霊は人間と身体の構造が違うから、入れないのよ。その様子だとその事はお嬢ちゃんには話せてないのね?」

「そうなんだ。」

「まぁ、説明しづらいのも分かるのだけど…」

フラムフィは足を組んだ。

「それについては調べてあげる。転生はしてしまったのよ。今世は何をするか考えているの?お嬢ちゃんに魔法を教えているのでしょう?」

「…実はもう一度過去に戻ろうと思っていて、」

フラムフィの僕を見つめる赤い目が鋭くなる。

「転生魔法はまだ何も分かっていない。そんな危険な魔法を幼女の身体でやろうっていうのか?」

フラムフィの語気が強くなる。

彼女は元々、口が悪かった。ある時からそれを隠すように綺麗な言葉を使おうとしているのは知っていた。

「僕はエレーヌ様を助けたいんだ。それに、ナルヤだって500年、転生魔法を研究してくれている。それにすぐ転生魔法を行うつもりだってないんだ。」


この場が重くなる。そして、沈黙が続く。


キューー

沈黙をポットの高い音が破った。

「ログ、ポットに助けられたな。もしかしたら、私はログの手を炎でいぶってたかも知らないぞ。」

「精霊は契約者に危害は与えられないし、ましてや今の僕はメリーの手だ。」

フラムフィはこちらを睨みつける。

その後、耐えきれないっと言って吹き出した。

「ハハハッ、ログも変わっていない。まぁ、ログが性格の悪いのは昔からだ。しかし、ナルヤも協力するとは…久しぶりにナルヤから連絡が来たのもそういう事だったのか。」

フラムフィは息を整えた後、ポットをこちらに持ってくる。

「転生についても調べておいてやる。でも、調べ終わる前に、お嬢ちゃんに不利益が起こるようなことをしたら許さないぞ。」

「分かったよ。」

フラムフィは熱々のお茶を自分のカップに入れた。



「あぁ、えっと。」

魔法陣の中から音が聞こえた。やはり魔法陣というのは不思議なものだ。メリーの手として実際は体にくっついているが、独立して動き、遮断されているように感じる。

「終わったのね?」

フラムフィはティーカップを机に置き、魔法陣の方へ移動する。

フラムフィが魔法陣に触れるとガラスのように光の壁が割れた。壁の破片は地面に落ちると消えていく。

「契約は出来た?」

「たぶん?」

「…凄いじゃない。見せて欲しいわ。」

メリーはえっと と呟き、困った顔をした。

精霊を呼ぶ方法がわからないのかもしれない。

「精霊を呼ぶ時には名前を呼ぶんだ。」

僕がそう言うとメリーは何か恐るように名前を呼んだ。

「◾︎◾︎◾︎◾︎!」

「?」

何も起きない。

「◾︎◾︎◾︎◾︎きて!」

その上、メリーが呼ぶ声が塗りつぶされているようでよく聞こえない。メリーは一生懸命に名前を呼んでいるが何も変わらないし、何も起きない。

「…。契約に失敗しているのかも。」

フラムフィは少し考えた後、メリーの肩に手を乗せる。

「お嬢ちゃん、今回は精霊との契約に失敗したのかもしれない。大丈夫よ。よくあることなの。」

メリーは肩を落とした。

「私には…無理だったのかな。」

「そんな事はないわ。よし、今日はサービスで一体、精霊をあげる。」

そう言ってフラムフィは後ろの方にあったケージを持ってくる。

「元々、魔法陣による契約は難しいの。」

「キュア?」

ケージの中には、小さな翼が生えた馬のような精霊がいた。

「この子はブークリという種類の精霊。私達のように人間の言葉を喋る事は出来ないけど、意思疎通はそれなりに取れるの。」

「キュアア!」

ブークリは自慢をするように、胸を張りながら高い声で鳴いた。

「どうかな?」

フラムフィはしゃがんでメリーの顔を覗き込む。

「うれしい!本当にありがとう!」

「フフッ、良いのよ。精霊として人間が喜んでいるのをとても見るのは嬉しいの。」

メリーはフラムフィに抱きついた。フラムフィは嬉しそうに笑っていた。






「フラムフィ、本当にありがとう。」

「いいや、良いんだよ。」

外に出るとまた老婦の姿になっている。

「おばあちゃんの姿になるんだ。」

メリーは見慣れていないようで、姿が変わって驚いていた。

「街の人には、フラムおばあちゃんとして通っているからね。」

フラムフィは悪戯っぽく笑う。

「どうせ、ログがお嬢ちゃんのエネルギー量を増やしたいだとかいう理由で精霊と契約をしに来たんだろう?」

メガネの中から覗く、赤くまぶしい目が僕の方をみつめる。

「…まぁ。」

「ハハハ、エネルギー量は確実に増えているよ。また会えて良かったわ、約束は守ってね、ログ。」

「分かってる。」

その言葉を聞いて、満足そうに頷いた。

「お嬢ちゃん!また良かったら遊びに来て。ブークリの様子も見たいしね。」

「分かった!」

ケージの中にいるブークリも「キュキュア!」と声を上げた。

「これ、契約の仲介料だから。」

フラムフィは左手に封筒を握らせて来た。

「ここに請求書が入っているから、また来た時にその分を渡してね。あっ!お金の話だからくれぐれもお嬢ちゃんは見ないで欲しいわ。」

メリーは頷いた。

「え!お金取るのかい?」

「勿論よ。大魔導師様はお金もいっぱい持ってたでしょう。またのご利用お待ちしておりまーす!」

フラムフィはルンルンと店の中に戻って行った。













メリーが寝ついてからフラムフィから貰った封筒を開く。赤茶の封筒には達筆で『請求書』と書いてある。まさか、お金を請求してくるとは。


「?」

封筒の中には一通の手紙しか入っていなかった。

『お嬢ちゃんの契約は成功しているらしい。私でも契約したヤツの事が、よく見えてこない。注意深く見ておいた方がいい。』

とだけ書いてあった。

契約したヤツとは、フラムフィが直接渡したブークリの事ではないだろう。今日契約し損ねたと言っていた精霊の事だろうか?

そういえば、メリーの契約をした精霊の名前が聞きにくかった。思い返してみれば怪しい点がいくつかあった。

メリーの様子はよく見ておくべきだろう。


ベットで寝ているメリーはスゥスゥと寝息を立てて寝ていた。

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