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魔導師、巻き戻る③

「過去改変魔法…」


「いや、そんなに利便性の高いものではない。巻き戻れるのは数日前のみだ。その上、他にも制約はある。」

強く打ち続けていた心臓がゆるやかになる。

 そんなに簡単に500年前に戻れる訳がないのだ。その上、メリーの身体を借りている以上、好き勝手、魔法をいくつも試せる訳では無いのだ。


「…過去に…巻き戻る?」

 ふと、思いついたことがあった。

 もし、今の状況がガイアによって作り出されたとするなら。

 今起きていることは、過去に起きたことを繰り返しているのだ。これは、戻っていると言えるのでは無いか。

 僕は顔をあげ、ガイアの顔を見つめる。

 彼の顔はニコリと笑い、考えている事が掴めない。


 ここまで時間が経ってもメリーに行動権が移らないのも不安だ。今できる事はひとつしかない。


「ガイアは僕に過去改変魔法を使ったか?」


 僕の言葉を聞き、ガイアは動きが止まる。驚いた顔を見せた後、吹き出した様に笑い始めた。

「ハハハ、面白いこと言うね!」

 拍子抜けだ。こんな風に笑われるなんて。

 ガイアは僕が驚いている様子があまりにも可笑しかったのかずっとニヤニヤしている。その後面白そうにに、顎に手を添えて考え始めた。

「君、多分正解だ。きっと俺が過去改変魔法を使ったんだな。」

「ど、どういう事だ?」

「ああ、過去改変と言ってもそのまま過去に戻れる訳じゃ無い。今いる世界とは別の世界の過去に行くんだ。」

 別の世界とはなんだろう。全く聞き馴染みの無い言葉に頭がついてこない。


 その様子に気づいたのだろうか、ガイアは説明をし始めた。


「元の世界と全く似た世界に行くんだ。君が朝、右足から靴を履いたか、左足から靴を履いたかですでに世界が変わっている。

 さっき君が居たのは、左足から靴を履いた世界で、今いるのは右足から履いていた世界…みたいな感じさ。」


 僕が今いるこの世界は、前にフラムフィと共にモンスターと戦いかった世界ではない、別の並行的な世界だと彼は言うのだ。


「わかるような、わからないような…」



「俺が作った魔法は残念ながらそこまで万能じゃないってことだ。でもな、君が作り出した転生魔法は、別の世界に行くとか考えなくて良いんだ。過去に行くか未来に行くか、別の世界に行くか、全部指定できるんだからね。」

「…そうなのか?」

「まあ、僕がこの魔法を君にかけていないということは信じてほしい…」

 彼の目を見たが、嘘をついているような顔ではない。いつになく表情も真剣に見える。

 ガイアが僕の顔を不思議そうに覗き込む。

「じゃあ、信じるついでにだが、僕もガイアに伝えたいことがあってね…」

 ガイアは返事をするように首を軽く傾ける。

「僕、転生魔法のことよく分かってないんだ。」


 研究室内に、沈黙が流れる。

 僕がこの空気に耐えきれなくなっていた。すると、ガイアは何を考えたのかニヤつき始めた。

「そうだとは思っていたよ」

「…分かっていたのか?」

「最初からではないさ。君があまりにも、転生魔法の詳細を知らないからね。」

 彼はポットを手元に呼び寄せ、カップにお湯を入れ始める。


「信じてもらえるか分からないが、僕がログ=マルニエということは本当さ。」

 ガイアは慣れた手つきで、ポットに茶葉を入れていく。フワリと花のような香りが、部屋中に広がる。

「…それはお互いさまだろ。君は僕が過去転移魔法をかけていないという事を信じて、僕は君がログ=マルニエだという事を信じればいいのさ。」

 彼はニコリと笑顔を見せる。

「俺が騙されているならそれはそれで面白いしな」

ガイアは全く考えていることが読み取れない。しかし、今回のことは彼に頼むしかないだろう。

「元の世界に…戻るには?」

「元の世界に戻るには、その世界の人間か精霊が、もう一度魔法をかけることだ。魔法だったら君に教えてあげるよ。これも一つの縁だしな。」

「良いのか?」

ガイアは頷く。

「…でもな。君の世界の俺が君を飛ばしたという事は何か理由があるはずなんだよな…」

そうだ。元の世界に戻れても再び、ガイアに過去に戻される可能性があるのか。


「何をすれば…」

ガイアは考え込み、机の上に置いてある紙を手に取る。

そこには『緊急精霊集会、参加するべし。』などの文章と集会の時間が書いてあった。

『緊急のため、議論が長引く場合は4日で以下の内容を確定する。』

その下はここからだとよく見えない。


「っ、そういえばこの世界に来る前、最後にいた場所はどこだ?」

「精霊集会に行って、フラムフィと会い、最後にガイアと話をした。集会が終了するまでに鎧を解析する為の魔法を作ろうという話を…」


「そういうことか…!」

何かに気づいたのか、ガイアは急に立ち上がる。

「ああ、きっとガイアは俺に預けたんだな。面白い…」

ガイアは楽しそうにブツブツと話している。ガイアが入れていた紅茶の色はすでに濃い赤茶になっており、渋くなってしまっただろう。

「君、その鎧をどこで手に入れた?」

「イニティ山で倒したモンスターからだが…」

ガイアはパチンと指を鳴らすと、横に積み上がっていた本が片付いていく。

「よし、今からイニティ山に行こう。その鎧を手に入れようじゃないか。」

 




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