魔導師、巻き戻る②
ガイアは少し考え込んだ後、僕の目を真っ直ぐ見つめる。
「…、君の言う通り僕は転生魔法について研究をしている。試作品だっていくつも作ったさ。」
ガイアは先程までの冷たい視線を義務的にぶつけるのではない。その眼差しには探求欲とも言うべきか、強い熱意が見て取れる。その点だったら、僕も負けてられない。数歩でも転生魔法に近づけるのなら、全力を尽くす。
「そうか…じゃあ、試作品について見せて欲しいんだが…」
「わかった。じゃあ、研究している空間を案内する。」
「ちょっと待ってください!こ、この子がログ=マルニエと言う証拠はあるんですか!?」
フレが僕の言葉を遮るように尋ねる。
「っ…」
証拠を聞かれると僕は何も証明できる事が無い。転生魔法についてここで教えろと言われても何も答えられない。
僕は拳を強く握った。
「まぁ、今の所、君がログ=マルニエだと証明できることはないね。」
彼はケロッとした様子で言葉を返した。
「…!、じゃあ何故この子を研究室に呼ぶのですか?」
「彼はログ=マルニエじゃないかもしれないな。でも、僕らの研究に何か変化を加えてくれる気がする。要するに感さ。」
「…感で、ガイア様の数100年の研究成果を見せる!?」
ガイアはその様子を見て楽しそうに頷く。
「でも、転生魔法について知っている人物というのは中々いない。確か人間界では伝えるのは禁忌となっているんだろ?」
「…そうだ。」
僕が呟くと楽しそうにフレにニヤリとした顔を向ける。
「…只の人間ではないと分かるさ。そうだろう、フレ。」
フレはガイアと話した後、フレは姿勢を正す。
「そ、その通りです。」
「君の事、なんて呼べばいい?」
ガイアがキラリとした目をこちらに向ける。
「ログで良い。」
「分かったよ。ログ。さあ、研究室に行こうか。」
僕はガイアに連れられ、空間の奥へと進んでいく。なんも変哲のない空間にずっと居ると、眠たくなってくる。
「ふわぁ…」
止めることのできなかった間抜けな声が、空間に響く。その音を聞いたガイアは僕のことを一瞥した。
「し、失礼。」
「いや、いいさ。僕達、精霊には感じたことのない眠気からのあくび。見てて面白くもあるからな。」
なんだか面白がられると思うと、良い気はしない。
「そういえばフレは一緒に来ないのか?」
「ああ、フレは研究室に入った事がないからね。」
だから、僕が研究室に入る事に反対していたのか。弟子であるフレより先に、急に現れ、自分の事が500年前の魔導師と名乗る人物に自分の入ったことのない領域に案内されたら不愉快だろう。
「フレには申し訳ない事をしてしまったな」
「それは何故だ?」
「え、いや、フレは研究室に入った事が無いのに僕が先に入っちゃったから。」
「人間はそれで阻喪をするのだな。覚えておく。」
「ああ…」
前から思っていたのだが、精霊は少々人間の認識とずれている事が多い。人間と長く過ごしていたフラムフィは人間に近い所があるが、ガイアは人間らしさがあまり無い。
「…ここだ」
ガイアは白色とも灰色とも言える壁に似合わない木で作られた扉を指差す。
「ここが研究所?」
ガイアはゆっくりと首を縦に動かす。
見た目はメリーの祖母の家の近くの集落にありそうな木の扉であり、厳かな装飾こそ無いものの、扉にエネルギーが巡っている。まるで生き物のようだ。
「開けるぞ。」
ガイアが指をパチンと鳴らす。
扉が僕達のいる方に向かって開く。
外からは中の様子がよく見えない。僕は恐る恐る部屋の中に入っていった。
「…っ」
僕は部屋の中を見て、思わず息を大きく吸い込む。
いくつもの魔導書や魔道具が宙に浮かんでいる。部屋の端では、魔道具達が魔法を撃ち合っている。その様子を記録用紙が勝手に書き込んでいく。
全て物体が勝手に動いて、行動しているのだ。
僕達が部屋に入ってきた瞬間、机に置いてあった羽ペンが浮かび上がり、空中に文字を書き始めた。
『おかえりなさい。このかたは?』
文字は達筆で読みやすい。その文字をみて、ガイアは話し始めた。
「この子はお客さんさ。ログ=マルニエって知ってるかい?魔法を作った有名な魔導師さ。」
それを聞いて、羽ペンは僕の方向にペン先を向ける。
『あなたがまほうをつくったのですか?』
「ああ。そうだ。」
その言葉を聞いて、羽ペンは大きく跳ねる。
『じゃあ、あなたはわたしたちのママですね』
「ママって…」
「ママじゃなくて正式に言うならパパだよな?」
『そうですか.でも、あなたがわたしたちの生みの親であることは確かです.ありがとうございます.』
羽ペンは大きく空中に笑った顔を描く。
「そうか…」
『ありがとうございます』その言葉が胸辺りに残る。
「そうそう、魔法についてログと話をしたかったんだ。」
『そうだったんですね.ゆっくりお話しなさってください.』
筆ペンはお辞儀をするように倒れた後、ゆっくりと机の上に戻っていった。
「す、凄い部屋だな。魔法に溢れている。」
「そうだな、俺は魔法が好きだからな。人間が作ってきたものの中で一番面白いと思っている。」
辺りを軽く見回した後、ガイアは魔法を詠唱する。
「資料よ、集まれ。」
すると、資料が鳥の羽のようにページをはためかせ、ガイアの足元に集まる。
積み上がっていき、大きな本棚を一つ埋めれるのではないかという程の資料が集まる。
「これが今まで調べる事が出来た転生魔法についてさ。」
「ここまで調べていたとは。でも、何か行き詰まっていると聞いたが…」
「そうだな。近しいものは作れるが、転生魔法そのものは作れないんだ。最近だと過去移動魔法とか…」
「ちょっと待ってくれっ!今なんて…?」
今まで出した事のない程、無意識に声が大きくなる。ガイアは僕の声に目をパチクリさせる。
「過去移動魔法と言ったが。」
もし本当に過去移動魔法が完成しているのであれば、僕は500年前に戻れるのだ。
心臓が強く脈打つのを隠すように、無意識にシャツの裾を強く握っていた。




