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魔導師、魔法を作る⑤


アルボレから貰った木の枝を見て、フラムフィは驚いていた。アルボレが枝を上げるのは「信頼してるぞ」という意味があるらしい。

メリーの身体より大きな木の枝なんて、寮に持ち込めるわけが無い。寮に帰ったら、メリーがしどろもどろになりながらリンに説明するのが目に見えてわかる。


僕はフラムフィとアルボレに相談をして、木の枝を預かってもらうことにした。

初めは残念そうにしていたアルボレだったが、フラムフィから『この枝は人間界のベットより大きい、彼女がベットに寝れなくなっちゃう』と聞くと、目の色を変え、メリーを励ますように肩を叩いた。

「ベットは大切だからねぇ。僕が人間界で一番好きな発明品はベットだし。あっ!そうだぁ!」

アルボレは大きな枝を軽々と折り曲げる。メリーの手のひらに収まる大きさの木の皮を握らせてくる。

「これを持ってれば、僕が木をあげたって事を忘れないよねぇ。大きな木の枝が欲しい時は教えて、すぐに取ってくるから!」





その後、ひとまずリベレスター学園に戻ってきたのだが、既に辺りは明るくなり、日が変わっている。何も言わずに禁書庫からいなくなってしまったから、メルかナルヤに色々と小言を言われているだろう。メルには本を盗んだと勘違いされるかもしれない。

きっとガイアとの要件は少し後で向かっても良いだろう。

僕は急いで、図書館へ向かった。


図書館の扉は開いていたが、中は誰もいない。メリーの身長の数倍は高い本棚の影が僕に被さる。まるで要塞に来ているようだ。

禁書庫の前に行くと、ナルヤが扉をノックしていた。

「ナ、ナルヤ?」

ナルヤがくるりと振り向く。

「!、その様子、先生に変わっているのかい?」

僕が頷くと、ナルヤは胸を撫で下ろす。


「ノックしたのに返さなかったから、メルに連絡する所だったよ。」

「ああ、ごめん。心配させた。」

「まぁ、一大事にならなかったから良いんだが、書庫から離れる時は一言言ってからだと嬉しいな。」

ナルヤは微笑むが、その笑みには少し怒りが見える。「気をつけるよ」そう言うと、ナルヤはため息をついた。

しかし、ナルヤの言葉が少し引っかかる。僕がこの場から何日も離れていたのに気づいていなかったとは、そんな事あるのだろうか。

「…今までメルは気づいてなかったのか?」

ナルヤは首を傾げる。


「だって1〜2時間前に僕が先生と別れたばっかじゃ無いか」


僕はその言葉を理解するのに時間がかかった。頭の中で散らかっている考えを必死に整理した後、僕はナルヤに問いかけた。

「…1〜2時間前?」

「リナーヴさんがここの禁書庫に籠ってから数分しかたってないよ。そうでしょ?」


僕は確かに精霊の集会に参加したし、イニティ山に向かってデュラハンを討伐した。それが、全て夢であったのだろうか。

僕がメリーと入れ替わったのだって、イニティ山でエネルギーを多く使いすぎたからでもある。でも、もしなんらかの原因で夢を見ている時に入れ替わりが起きていたら。考えれば考えるほど、確信が持てなくなってくる。

そう思うと何故か先ほどまでの記憶が薄れてくる。僕は手をダランと下におろした。

メリーの服のポケットに手が当たる。中には何かが入っていた。


「!」

入っていたのは濃いエネルギーを蓄積しているメリーの手に収まる大きさの木の枝。

モンスターを討伐した時にアルボレから貰った木の枝であった。


これを持っているという事は、今まで起きたことは夢ではない。

しかし、ナルヤが冗談を言っているようにも思えないのだ。


「…なあ、ナルヤ?一度禁書庫の中を見てみていいか?」

「え?別に良んじゃ無いかな…?」

僕は早足で禁書庫の前に向かう。扉に魔法をかけようと手を触れると、扉が少しズレている。誰かが先に開けているのだ。しかも、魔法ではなく手動で。


勢いよく扉を押すと、中に人影が見える。

「先生っ?、急に走り出して…って!?」

ナルヤは中にいる人物を見かけ、目を見開く。

「バ、バレた!?」

中にいる人物は上擦った声を上げる。

「っ拘束魔法よ、拘束しろ!」

ナルヤが人影に目掛けて拘束魔法を掛ける。人物に目掛けて、僕の拘束魔法の数倍速いスピードで鎖が飛んでいく。

「光魔法よ、部屋を照らせ」


「ぐ!はなしなさいよ!」

聞いたことのある声を耳にする。

黄金の髪、青色の目、そして長い耳。

「フ、フレか?」

僕が言葉を発すると、女性は驚いた顔を見せる。

「なんで…私の名前を…」

「知り合い?」

「いや、そう言う訳じゃ無いんだけど…」


ナルヤが冷めた目で雑に鎖を引っ張ると、フレは僕らを睨む。

睨んだ後、何かを思い出したようにフレは咳払いをした。

「フフフ、フフフフフ!」

フレは急に笑い始める。

「何がおかしい?」

ナルヤが尋ねると、フレは自信が溢れ出る満面の笑みになった。

「いいのよ。拘束されたってね!私には魔法があるから!」

フレは独り言のように詠唱を始める。すると、足元に大きな魔法陣が出てきた。


「フ、フレだっけ?フレは何をやってるの?拘束魔法をしているのに逃げるなんて出来るわけ…」

ナルヤが呟くのをみて、魔法陣の中で汗を伝わせながらフレがニヤリと笑う。


この状況、僕は一度経験した事があった。デジャブというには似通いすぎている。

「…あれは転移魔法だ。このままだと逃げられる。」

「転移、魔法?」

ナルヤは聞いたことのない言葉のようで、ゆっくりと反芻する。

この状況、何が起きているかは分からない。しかし、このままフレを逃してしまうと何も分からないだろう。

「…っ」


「先生!?」

僕は勢いよく、フレにしがみついた。あの時、メリーがフレにしたように。

「うわっ!?ちょっ、て、転移魔法!ゲニウスへ!」


視界がぐにゃりと大きく歪む。変わらない気持ち悪さ、意識が途切れ途切れになる感覚。

僕はまた意識を途絶えたのだった。

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