魔導師、指輪を外す②
「グッ」
メリーの動きが悪い。
ルイと相対しているからだろうか。呼び出したブークが防御魔法を間に合わないくらい、メリーはいくつもの傷を負う。僕はメリーに治癒魔法をかけるのに精一杯だ。
「メリー!あまり前に出るな!エネルギーがどんどん減っていく!」
「ご、ごめん…ッ!」
再びルイが魔法を打つ。その魔法が、メリーの腕の数ミリズレた場所を通り過ぎる。後ろに置いてあったベンチが壊れる。
ルイはもう感情も残っていないのだろう。周りのものを全て壊して、壊し終わったら目に入った別の物を壊す。
考えて行われていないその攻撃は、読みずらい。
ルイの攻撃によってメリーも息が乱れ始めていた。エネルギーも身体に回らなくなってくる。
「治癒魔法よ、回復しろ!クソッ!もうエネルギーが…」
「私がもっとエネルギーがあったら…」
メリーが悔しそうに、唇を噛む。
「エネルギーが回復する魔法があったら良いのに。」
エネルギーが回復する魔法、その言葉が耳に残る。エネルギーは人間の元のエネルギー量に依存する。エネルギー関連の魔法なんて聞いた事がない。
エネルギーを増やす方法なんて精霊と契約するしかないのだ。
ふと、フラムフィの事を思い出す。
もし僕が、フラムフィの言うように精霊と近い存在なら…
「ブーク、身体を貸してもらっても良いかい?」
精霊であるブークに話しかける。ブークは何かに気づいたようにゆっくりと頷く。そんなブークは普段より大人びているように見える。
「ブークと僕、ログマルニエはここに統合する!」
「キュアア!」
ブークはメリーの左手に吸い込まれる。
強い光が発せられ、メリーもルイも目を瞑る。
「!、せ、精霊統合ってこんな感じなのか…」
僕はゆっくり目を開ける。すると、僕はブークの姿に変わっていた。姿が変わっているというより、馬に乗って操っていると言った方が正しいのかもしれない。
ブークの見た目もいつものぬいぐるみのような姿ではない。本物の馬のような筋肉質な足と真っ白の毛、羽は天使を思わせるように美しくメリーを包み込むような大きさに変わっている。
精霊統合とは、精霊同士が複合し、新たな力を得る事ができる。この状態になった事で僕はきっとメリーの精霊と同じような存在になった。
「す、凄い。エネルギーが回復して来ているのがわかるっ!」
僕のエネルギーがメリーにも巡るようになるのだ。
メリーが立ち上がり、もう一度剣を構える。
「今だったらっ!魔導師さん!魔法をこの剣にかけて!」
「剣よ、強化されろ!」
メリーの剣が強く光が集まる。
メリーは剣を見つめた後、思いっきり地面を蹴った。飛んでいるのではないかと錯覚するほど高く飛び上がり、一気にルイの真上に浮かぶ。
「いっけぇぇ!」
メリーは剣を思いっきり下に振り落とす。
これできっとルイは倒される…ルイも安心して…
ストン
メリーは剣を振り落とすのを止める。軽い音を立て、地面に着地をする。
「あー。面白くないわ。」
「!?」
メリーの口調が刺々しいものに変わる。くるりと振り向いたメリーの顔は酷く冷たい。
「何驚いてるの?ログ。」
舌が張り付いたように言葉が出ない。僕をログなんて呼ぶ人なんて思いつくのは1人しかいない。
「ーー!、ーア!」
ルイはメリーに被さるように襲いかかる。
「うるさいわね。せっかくの再会なのに…」
メリーは冷たい笑みを浮かべる。
「雷よ、コイツを黙らせて?」
「アゥ、ーア!!!!!」
雷がルイに当たり、麻痺をしたように何回も身体を震わせる。
「ログもこうしちゃえば早かったのに…」
グシャッ
メリーは痺れているルイに剣を刺す。水風船が割れるような音がする。
「アゥアア!」
ルイは人間のような悲鳴をあげる。
グシャッ、グシャッ、グシャッ
美しくも悲痛なダンスを踊るように、メリーは剣振るう。まるで劇のワンシーンだ。
「ラストでいいかな?」
メリーは強く深くルイに剣を突き刺す。
もはや嗚咽しか出さなくなったルイを壊れた物のように一瞥する。
「なんで、そんなに…」
声が震えていた。唾液も妙に口に絡む。
「なんでってそれは、この子人間になりたがってたでしょう。不老不死でずっと苦しんでた。可哀想…だから、最後に私が人間が感じる苦しみを与えたの。」
きっと彼女はメリーでは無い。あの目を奪われるような剣技、僕は見た事があった。
「もしかして…いえ、貴女は…」
メリーはニコリと笑う。その顔は美しくも感じるが、畏怖すらも覚える。
「500年ぶりね。ログ。」
彼女は血の女王とも言われたエレーヌ=ブラクト。500年前は僕の幼馴染だった。




