魔導師、指輪を外す①
放課後、リンに話したい事があるといって呼び出したのだった。
「リン、話したいことがあって…」
「なに?」
「実はね…」
私の身体のことについて話せば話すほど、リンの顔が曇り始める。小さくなっていった相槌が話が進むにつれ聞こえなった。
窓から見える憎いほど青い空がリンの目に写る。その目には涙をすでに溜まっていた。
「今まで、秘密にしてたの…?」
リンは声を震わせる。両手は強く握っていた。
「リンを心配させないようにしたくて…」
「ッ!」
リンは目を見開く。耐えきれなくなった涙腺がポロポロと涙を流し始める。
「ばっかじゃないの!そんな心配させるとかって!」
「…」
リンは大きな声で泣き出す。小さな手で顔を隠すが、手の隙間から涙が溢れている。
白いハンカチをポケットから出し、リンの目の前に持っていく。リンはその手を払った。
「も、もっと、私信用されてるって思ってた…」
「っ!でも、私はリンの事を思って…」
「私はっ!すごく悲しかった!家族になれたと思ったのに。」
その言葉を聞き、手がピタリと止まる。私はリンに失望をさせてしまったのかもしれない。
私の様子をリンはジッと見つめる。
「…っもう、良いよ。知らない…から。」
リンは勢いよく扉を開け、部屋から出ていってしまった。
追うことはできなかった。私は風によって閉まっていく扉をただ見つめていた。
手が震える。全身が痛い。耳鳴りがする。
たぶん、私はそんなに長くは生きれ無い。
リンが帰ってきた時、私は起きて謝れるのだろうか。いつ身体が動かなくなるか考えるだけで恐ろしい。
最後にリンに出来ることは…
私は身体にゆっくり力を入れて一歩踏み出す。今の状態でも出来ることがある。
リンのお友達で、私の大切なお友達でもあるあの子に相談しよう。
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ルイと話し合って、メリーはルイの指輪を取ることになった。
今、メリーはルイが案内する場所について行っている。夜の方が都合が良いらしく、寮から抜け出したのだ。
外は不思議なくらい静かで、2人の足音がよく聞こえる。
「その、ルイさんが手にしてる指輪は特別な物なの?」
「うん。今はエネルギーの巡りをよくする効果がかかってる。指輪に魔法をかけると、装備した人にかけた魔法が持続して発動するっていう指輪。」
「そんなのがあるんだ…」
「魔道具ってやつだね。他にも色んな種類があるよ。」
「そうなんですね…」
気まずい空気が流れる。
「リンちゃん大丈夫かな…」
「…。わからない、でも、きっと分かってくれるから。」
また辺りが静寂に包まれる。
「あ、メリー、ついたよ。」
ルイが案内をしてくれたのは、校舎裏だった。校舎裏には月明かりしか届かない。ルイの足が止まると、メリーの方に振り向く。
「私、怖気づいたら出来なくなっちゃいそうだから…お願いしても良いかな…」
ルイは手を差し出す。その手は小刻みに震えている。
「わ、わかった。」
ルイの指にメリーが手を伸ばそうとした。
「ちょっと待ってくれ。僕が指輪を取る。」
「魔導師さん…?」
僕はルイの左手にある指輪を触る。ルイの左手が冷たい。
メリーは震えているルイの白い手を触る。メリーの手と比べるとルイの手は大きく、傷が幾つもあった。
指輪を引っ張るとポタポタとルイの身体が溶けていく。その液体が僕の手にも伝ってくる。不思議と生暖かく、触れると心がざわつく。指輪が指先に移動するにつれ、落ちてくる雫が大きくなる。
「ねぇメリー。」
「?」
メリーは首を傾げる。
指輪は爪の辺りまで取れていた。
「もし、私が指輪を外して私じゃ無くなったら…」
「ちゃんと殺してほしいな。」
「…え」
ルイは苦しそうに笑いながら、
彼女は僕が指輪を持つ手をグッと引っ張った。
彼女の中指から指輪が抜ける。
その途端、メリーが握っていたルイの手がドロっとした銀色の生暖かい液体に変わる。
ルイの身体が全て液体になる。その姿は人間にもモンスターにも見えない。身体を引きずるように歩き始め、壁にあたっては歩くを繰り返している。何かを見つける為彷徨っているようにも見える。
「ア~~~~ァーーーー!~。」
ルイは言葉を喋っていない。意味のない言葉の羅列を並べて話している。
「ルイさん!」
メリーが叫ぶ様な声をあげると、ルイはこちらを振り向く。
「~!」
鋭い音をたてながら、魔法がメリーの頬をを掠った。
メリーの頬に血がつたう。
唸り声を上げながら、周りのもの全てに攻撃をしている様だった。
「メリー、もう彼女は…」
メリーは腰に刺さっている鞘から剣を抜く。
「私に…出来ることをやる。
きっとルイさんもそうして欲しかったんだ。」
その頃
「師匠、強く言っちゃったな…でも、私、離れたくないよ…」
リンは寮にある空き部屋にこもっていた。埃っぽいシーツの上にあるシーツを強く掴む。
「師匠に…謝りたい…」
「リン!」
ルイが扉の前で優しく微笑みながら立っている。
「師匠!?」
ルイは悲しそうな顔をする。
「リンごめんね。私、リンのこと考えていたなかった。」
「いや、私こそ酷いこと言っちゃったから…」
ルイは言葉を詰まらせた。しかし、ゆっくり話し始める。
「実はね、今私を解放する魔法をメリーがしてくれているの。」
リンは少し、笑顔を見せながら「そう…なんだ…」と呟いた。
「怒らないの…?」
「怒らないよ…師匠はちゃんと話に来てくれる。今もこうやって会いに来てくれたし。」
リンは涙が溜まっている目を腕でこする。
そして、ゆっくり顔を上げた。
「というか!どうやって、私の部屋に来てるの?もしかして魔法!?」
リンは顔をルイに近づける。
「そうだけど、今魔法で意識の少しをリンのいる部屋に具現化してるんだ。」
「その魔法は聞いたことないなー!ねぇ!その魔法のやり方教えてよ!」
**
ルイはリンに初めて会った日のことを思い出していた。
青く澄み渡った空。風が優しく私の頬を撫でていた。
「わぁ!白い綺麗な髪!」
「この髪が?」
「うんっ!すっごく綺麗!私もこうなりたい!」
この髪は私が人間ではないと言われているようで嫌いだった。髪を褒められたことなんて今まで無かったから信じられなかった。
「じゃあ、この髪の色になってみますか?」
少し意地悪のつもりで聞いてみたのだ。
「っ!なってみたい!」
あまりにも目を輝かせるものだから、驚いた。恐る恐る私はリンに魔法をかけた。
「髪よ、白に染まれ。」
リンの髪が白色に変わる。
「すごいね、その魔法!ねぇ!その魔法のやり方教えてよ!」
あの日から私はリンの家族になっていたのだ。気付くのが遅かった。
でも、今はリンが魔法についてきいてくれている。きっとこれが最後の指導になる。
「ッ分かった!厳しく教えるからね!」
「…うん!」
あの日と変わらない屈託のない笑顔をリンは見せた。




