魔導師、回想する①
パチパチと燃える音がする。
メリーはその高く燃える炎に釘付けになっていた。
「メリー」
リンがメリーの肩に手を乗せる。
「あっ。リンちゃん。」
「大丈夫?ずっとぼーっとしてたから。」
リンはまた高く燃える草を見つめる。
「なんか、最後に上げていた声が女性の悲鳴みたいで…」
メリーは唇を噛む。
「…。」
リンは息をすう。
「私達はきっと出来る事をやった。このままだと、町の皆んなが大変な事になってたかもしれないし…」
リンはわざと、明るく話しているようだった。
メリーは頷く。
そして、この大きな空間には草が燃えていくパチパチという音しか聞こえなくなった。メリーもリンも、同じ炎を見つめている。
「メリー!リン!」
「あっ!師匠!」
ルイはメリーとリンの元へ駆け寄る。そして、ルイは2人を抱きしめた。
メリーは目を丸くする。
「わっ!ルイさん!?」
「無事に倒せてよかったぁ!皆んな怪我して無いもんね!」
ルイは少し目元が赤くなっているように見えた。
リンとメリーは大きく頷く。
「そうだ、メリー!あの技何!?剣に魔法を掛けるやつ!」
「そうそう!自らに魔法をかけるって聞いたことがないし。」
質問攻めにあったメリーは慌てながらも答える。
「実は、エレーヌの真似をしてて…まだ完璧じゃ無いんだけどね?」
メリーが答えた瞬間、静かになる。メリーも考えていた反応とは違うみたいで、動揺をしていた。
「エレーヌってお伽話の悪役の?」
「あ、うん。あっ!もしかしてあまり、エレーヌって有名じゃ無い?」
メリーは冗談を言うように、笑いながら話す。
「うん。」
「え…」
メリーは口から漏れ出るように呟く。
「でも、エレーヌがそんな凄い技を使うなんて知らなかったよ。」
「そ、そうなんだ…」
メリーはエレーヌ様が有名でなかった事にショックを受けるように棒立ちをしている。
僕も少し動揺していた。あれ程、お伽話の中で大きく描かれていたのに、エレーヌの事は知られていないなんてあり得るのか…
「そうだ!リン!」
ルイは思い出したように、炎がある方を指差す。
「早く火を消さないと!」
「え、消さなくてもいつか消火されそうだけど…」
「もしこれで火が上まで上がったら森林火災だよ!?大変な事に…」
ルイは顔を青ざめさせる。
「はぁい。もう、師匠は心配性だなっ…」
リンは気だるそうに立ち上がり、ゆっくりと火に近づく。
「リンちゃん、大丈夫!?」
メリーが近づこうとするのをルイが止める。
「大丈夫。リンはこの程度だったらなんて事ない!」
ルイはリンの方を笑顔で見つめる。何故かルイが自信がたっぷりで、メリーもその様子を見てるだけで安心してくるようだった。
火がリンに触れそうなほど近づいていた。
リンは真っ直ぐに炎を見つめる。
「大地よ、癒えろ!」
リンが魔法を掛けた瞬間、炎は静かに小さくなっていく。火が消えると青々とした草や鮮やかな花が、モンスターが生えていた真ん中だけを残して生えていく。
「き、きれい…」
最後に、ポツリと真ん中に芽が生える。葉が伸び、茎が上に育っていくと、小さな青い花が咲いた。
リンはくるっと向きを変え、メリー達が居る方に戻ってくる。
「はぁー。疲れた…」
リンの手をメリーが強く握った。
「ねぇ、リンちゃん!凄かった!凄い綺麗だった。」
そして、メリーは身体全体を使い、どれだけ凄かったかを表現する。
「っあ、ありがとう…っ…」
リンは顔を真っ赤にする。それを隠すように急いでルイの後ろに隠れた。
「あんな凄い治療魔法初めてみた!」
ルイは隠れているリンを一瞥した後、苦笑いをしながらメリーの方を向く。
「まぁね…実はリンのお家は有名な魔導医師の家系だからね。」
「ま、魔導医師?」
「そう、魔法を使って治療を行う人達の事を魔導医師って言うんだよね。」
リンはルイの後ろで頷く。
「リンは本当はリベレスター学園に、治療魔法を学びに来たんだけど、初めて学校に来た時、拳で戦う人を見て、憧れちゃったらしくてね…今はほとんど治療魔法の練習をサボってるし…」
「っそ、それ、言わないでよ!」
リンはルイの背中をポコポコなぐる。
「適正は高いんだから、治療魔法の練習を積めば良いのに…」
「治療魔法楽しくないもん!もっと派手なのしたいのに…」
「派手って、治療魔法楽しいって前言ってたじゃん。」
「そんなことないもん!」
言い合いは長く続きそうだ…
「メリー、先に上に行くか…」
「そ、そうだね…」
階段を登っている最中もずっと2人の言い合いが聞こえていたのであった。
「今日は本当にありがとうございました!!」
リン達と合流し町に戻ってくると、既に、土は湿り始め、井戸にも水が戻っていた。青年が待っていたようで、メリー達が帰ってきたのを見て、頭を下げた。
モンスターを討伐した事を話すと、驚いていた。
「まさか、モンスターの影響だとは…」
「あれぐらい暴走するモンスターは中々見ませんよ。治療魔法を掛けていたので、あそこにモンスターが再発する事は無いと思います。」
ルイが説明をしている途中、青年は涙を流し始める。
「だ、大丈夫ですか?」
「い、いや。一時期はこの企画も台無しになってしまったと思ったんです。」
青年は腕で涙を拭い、3人の方へ真っ直ぐな視線で見つめる。
「リンさん、ルイさん、メリーさん、この町を助けてくださってありがとうございます!これで魔導師ログが住んでいた町として胸を張れます!良ければ、また来てください。」
ルイは頷こうとする。
「うわぁ!」
「ちょっとリン!」
リンはメリーとルイの肩を寄せる。
「お安いご用だからね!」
今日は解決を祝って、僕らはロスペルテナのレストランに呼んでもらえることになった。
「メリーは後から来るんだよね?」
「うん!」
「じゃ、またレストランでね!」
リンとルイは手をふり、レストランがある方向に歩いて行った。
空はもう暗く、輝く星がいくつも空に散らばっていた。
町に訪れた時には聞こえなかった、虫の音や鳥の声がきこえてくる。
「魔導師さんの家に入って、転生魔法に関係しそうな本を探すんだよね?」
「ああ、付き合ってもらって悪いな。」
メリーは首を振る。
「手伝えるのが嬉しいから。」
僕の家が見えてきた。メリーは駆け足で扉の前に行く。そして、青年から貸してもらった鍵で扉を開けた。
部屋は暗く、この状態だと500年前のまま時間が止まっているようにも見える。
メリーはカーテンを開けると月明かりが部屋に差し込んだ。窓から見える景色はまるで星空を描いた絵画のようだった。
「うわぁ綺麗…」
「こんなに綺麗だったんだな…」
星空に釘付けになっているとメリーは「ハッ!探さなきゃ…」と言い、本棚を探り始める。
「光よ。僕の手元に集まれ。」
魔法を詠唱すると、部屋が灯される。
メリーは「ありがとう…!」と言いながら、手を止めずに探し始めた。
数十分後…
「み、見つからない…」
本棚は大体調べたが、転生魔法に関係がありそうな本は一切なかった。きっとナルヤみたいな研究者が取っていったのだろう。
「レストランに向かうか…」
「う、うん…ってうわぁ!」
メリーが床に落ちていた本で転びそうになる。本棚にもたれ、転ぶ事は無かった。
ガタッ
何かが落ちる音がした。後ろを振り向くと本棚から紐で軽く紙をまとめたメモ帳のような物が落ちていた。
「なんだろう…」
メリーは屈んで本を拾う。数枚ページを上から捲るが、普通の日記のように見える。
書いてある事は、ここの町に引っ越してきてからの小さな出来事を綴っている。
「…!」
メリーは急に日記から手を離す。
「ど、どうしたんだ…」
「急に、読み取れないような字で何か書いてあるから…なんか呪いの文章みたいで。」
「そんな失礼な…」
左手で日記を拾うが、確かに何を書いているかがわからない。しかし、意図的に崩して書いているようで違和感を覚えた。
「っ!もしや…」
僕はその日記を窓に反射させるように映す。
「メリー!見てみてくれ。」
「?」
メリーは気づいたようで目を見開く。
窓に、反射して日記に書いてある文字が映し出される。書いていた文字が反転して書かれていたようだった…




