魔導師、遠足をする①
メルに決闘を申し込んで数週間が経った。あの時から、メルに退学について言われていない。その上、普通にライブラリアに所属できてしまったのだ。しかし、目をつけられてしまったのは確かだろう。禁書を盗むのは難しそうだ。
決闘の後、寮に戻ったら急激な眠気に襲われ、目が覚めるとメリーの手に戻っていた。
そこからは入れ替わることもなく、メリーは学園生活を楽しんでいる。
「ねぇ!メリー!これ見て!」
授業が終わったであろうリンが勢いよく扉を開ける。
早めに授業が終わり、寮に戻っていたメリーは本を読んでいた。
「どうしたの?」
メリーが本に栞を挟み、リンの元へ小走りで向かう。
「魔導師ログの探検ツアー?」
僕はその言葉を聞き、耳を疑う。確かに、リンが持っているチラシのような物に「魔導師ログの生まれた地を探検しませんか?」と書いてあった。
「そう!魔法を作ったとされる魔導師ログの生まれた土地を巡る探検ツアー!ほらメリーって魔導師ログが出てくる話よく読んでるでしょ?」
「そ、そうだけど…」
メリーは軽く目を逸らす。そうだ、メリーはエレーヌ様に憧れてこの本を読んでいるのだった。
リンはメリーの手を取る。
「もしよければ一緒に参加しない?」
「今日はよろしくお願いします!」
メリーがルイとリンに頭を下げる。
「いや、いいの、いいの!」
「良くないですっ!こんなに荷物いらないよね!」
ルイがいくつもの荷物を移動させながら、リンを怒っている。
話を聞いてみると、リンの実家は結構なお金持ちらしく、今回のツアーもリンの両親の知り合いが主催している物らしい。僕達はまだ実施していないツアーを、2週間前に参加させてもらっているらしい。
「ね、ねぇ魔導師さん?このツアーに参加しちゃって大丈夫だったんだよね?ほら、バレちゃったり…」
メリーがコソコソと僕に話しかける。
「まぁ、大丈夫だろう。500年経ってるんだ、しかもメリーの手に転生してるだなんて誰も思わない。」
僕はこう言ったが、このツアーに参加すると利点すらあると思っている。500年前で当時の物がどのくらい残っているかは分からないが、転生魔法に関連する物だってあるかもしれない。
「メリー!もうすぐ出発しちゃう!」
リンは機関車の入り口で手を振る。
「はーい!」
メリーは魔法機関車へ急いで駆け出していった。
僕の住んでいた町、ロスペルテナは王都から近い分、身分の高い人が多く住んでいた。あの頃のロスペルテナは活気のある町だった。森が近い分、水も食べ物も美味しかった。
メリーがロスペルテナに味を踏み入れた時に目を疑ってしまった。街並みは廃れ、あれ程、鮮やかだった木々が枯れている。
「えっ…」
リンも驚いているようで言葉が出ていない。
そこに、1人の青年が走ってきた。
「リン・ミライ様ですか?」
「そうですが…」
「誠に申し訳ございません!」
青年は大きく頭を下げる。
「え、えっと。どういうことでしょうか?」
ルイがそう尋ねると、青年はゆっくり顔を上げる。顔を酷く歪めていて、今にでも泣き出しそうだ。
「実は、2日まえから井戸から水が組み上げられなくなっていまして。それだけだったらまだ良かったのですが、木々が栄養をなくしたように枯れ、土はカラカラに乾燥してしまったのです。」
「水魔法や草魔法などは試したのですか?」
「試しました…しかし、異常な速さで水は土に吸われ、草は枯れました。」
「そんな…」
彼の様子を見ると、まだリンの両親の親友には連絡ができていないようだ。
「廃れてしまった僕らの街を復興したくて、このツアーを提案したのに…」
確かに、見回しても500年前の活気は見られない。
あの頃には心地よく感じた風もいまや冷たく乾燥している。500年前の姿はもう無いと風にさえ言われているような気がする。
山の方を見つめる。ほぼ山の入り口のような場所に、この街に少し合わない明るい色でペンキが塗られた家があった。
あの小さい家が僕の家だった。
きっとこの企画をやるにあたって、ペンキを塗り替えたのだろう。
昔はあそこからエレーヌ様の家に会いにいってたっけ…あれ、エレーヌ様は僕の家の近くに住んでいたのか?
何故か、戦争より前の記憶が薄れているのだ。これが転生魔法の副作用なのだろうか。
僕は必死に思い出そうとする。
確か、僕がここに引っ越して間もなかった頃、誰かにとある本を貰ったんだ…
「ねぇ、…!この本に書いてある…探しに行かないか?」
「フフフッ良いね!見に行こう!」
確かあの後…
「っ!」
「どうしたの、魔導師さん?」
メリーは心配そうに尋ねる。
「メリー、リンやルイと一緒に僕の家へ行ってみてくれないかい?もしかしたら…この事件を解決できるかもしれない。」




