魔道師、決闘する③
メルが霧に揉まれるように姿を消す。
あたりを見回すが、彼女の姿が見えない。
「!」
気がつくと僕の目の前にメルが立っていた。
このままだと、またあの攻撃を…!
そう思い、目を閉じた時…
「防御!」
バキンッ!
甲高い音が響く。
ルイが防御魔法を行い、守ってくれていた。
メルの魔法が弾かれた際、彼女の魔法が雷のように光っていた。もしかしたらあの魔法は電気を身体に流しているのかもしれない。
しかし、メルはすぐに霧に姿を隠す。
「このまま受け身なっ、のもねっ!」
ルイは正確に防御をするが、このまま守り続けるのは埒が明かないだろう。
「あそこの森で一度作戦を立てるのはどう?」
リンが奥にある緑が茂っている方を指差す。
「そうした方がいいだろうね。」
「じゃあっ!」
メルが再び現れる。
「光魔法!」
直接見ると、目が潰れそうになる程明るい光が決闘場を覆う。
「こっち!」
僕はリンに腕を引っ張られながら森へ向かっていった。
森の中は、ここが室内だと忘れるほど出来がいい。鳥の鳴き声や木の揺れる音が聞こえそうな程だった。周りは草も多く茂っているて、身を隠すのにちょうどいい場所だろう。
「うーん。どうすれば良いかな?」
リンは顎に手をあてながら、そう呟く。
「あの攻撃を跳ね返せたら良いんだが…」
ナルヤと戦った時、防御破壊の魔法を作ったが、それを応用すればメルも倒せるかもしれない。
「え、攻撃を跳ね返す?」
ルイは驚きながら聞き返す。
「防御破壊の魔法ってあるだろ?それを相手の方向に跳ね返すようにすれば…」
「ちょっと待って!防御破壊魔法だって、魔法の跳ね返しだって最近実験的に取り扱われ出した魔法だよ!?そんなの出来るわけ…」
「いや、防御破壊魔法だったら独自で作ったことがある。」
「すごーい!」
リンは跳ねながら手を叩く。
「ど、独自ぃ!?」
ルイは声が裏返っている。深呼吸をしたと思えば、頬を軽く叩いた。
「わ、分かった。それで戦うのね。でも、跳ね返し魔法は出来てないんだよね?」
「そうなんだ。魔法が防御魔法によって跳ね返すイメージが湧かない…」
「そう…」
ルイは考え込む。
「!、メリーって剣術もやるんでしょ?」
リンは何かを思いついたようで、顔を上げる。
「そうだが…」
「っ!、リン、そうだよ!ねぇ、メリー、剣術でパリィってあるじゃん!」
パリィ、それは500年前、エレーヌ様が作り出した剣術。強化魔法を使って固くした剣で、相手の攻撃を跳ね返すという物。あの頃の強化魔法はかけた物を急速に摩耗させてしまうという欠点があった。
今あの強化魔法の欠点が無くなっていたら…
僕は、リンとルイの顔を見つめる。
2人は僕の目を見た後、ゆっくりと頷いた。
僕達は森から抜け出した。メルは決闘場の真ん中であくびをしている。
「あら、来ましたか…準備は良いんですね?」
「あぁ、もちろ…」
僕が言い終わるより前に、メルが姿を消す。
「いまだ!」
僕はナルヤと戦った時に作った、防御破壊魔法をイメージする。
「強化しろ!」
ルイが僕の防御魔法に向かって詠唱をする。
身体がポカポカして、エネルギーが身体中に集まる。500年後の魔法はこんなにも性能が違うのか…つい、顔がニヤけてしまう。
「気絶しろ!」
「防御破壊魔法よ、跳ね返せ!」
「なっ!」
僕の目の前に現れたメルは声を上げる。
彼女の魔法は威力が強い分、一度詠唱をすると止められないのだろう。
ドカンッ
まるで爆発音のような音を立て、僕は後ろに押される。
「ウッ!」
メルに無事に当たったようで、呻き声と鈍い音が聞こえる。
「よろしく、リン!」
僕がリンに合図を送ると、頷きかえす。
「おっけー!」
リンは天井についてしまいそうなほど高く飛び上がる。
横でルイが急いで詠唱をする。
「落下魔法、強化魔法、重力魔法、雷魔法…」
ルイがいくつもの魔法をリンに上乗せさせていく。500年前にいくつも重ねがけをしようとしたら、エネルギー不足、掛けられた側の摩耗などの問題があり、考えられなかっただろう。
「メル先生!ごめんね!打撃魔法!」
決闘場内にものすごい轟音が響く。床が割れてしまうのではと思うほど強くメルが打ち付けられる。
「グハァッ!」
メルは白目を剥いてパタリと倒れた。
リンは少し呼吸を整えた後、僕たちの方に走ってきた。リンはルイと僕の肩に組ませる。
「勝ったねっ!」
リンは眩しいくらいの笑顔だ。
「わぁ、良かった、じゃないから!勝手に突っ込んでどうなるかと思ったからね!」
「はぁい、ごめんなさーい。」
「もっと真剣に!」
先程、気絶されそうになったとは思えないほど、ほのぼのとした雰囲気がある。
「でも、決闘場を荒らしちゃったな…」
僕がそう言うと、2人は目をパチクリさせる。
「ううん!あそこに落ちている砂時計をひっくり返してみて!」
「あの、ガラスが全部割れちゃってる砂時計?」
2人が頷く。
僕は、メルが割った砂時計の元へ歩いた。砂時計はガラスは割れてしまっているし、砂もこぼれてしまっている。不思議とその砂時計が立っているので、反対に返した。
すると、砂とガラスが砂時計へと戻っていく。数分も経たないうちに、元の砂時計へと戻った。
確かに凄いが、これが何になるのだろう。
僕はリン達がいる方向を振り向く。
「これが、何を…!」
決闘場は僕が初めてここを訪れた時と何も変わらない状態になっていた。
僕が壊した小屋も地面に残っていたメルが飛ばされた跡も消されている。
「これはどういう…」
僕が驚いていると、リンは自慢げに話す。
「これは、テイン砂時計!一度割った状態の半径4mを記録するの。」
「で、裏返すと、その状態に戻ります。」
「なるほど…って!」
メルが起き上がっていた。きっと、砂時計の力でメルも元の状態に戻ったのだろう。
「そんな警戒しないでください。私の負けですから。気絶させたりはしませんよ。」
メルは口元を緩める。笑っているのだろうか。
「そ、そうですか…」
急に退学を強制してきたのに、警戒をするなと言われてもできない。
「退学の話は無しです。決闘で負けましたからね。でも、貴方のことはよくよく調べておきます。では。」
そう言って僕らに背を向ける。扉まで歩くと、ふとこちらに振り返る。
「そうでした。ライブラリアについてですが、採用です。今度は図書館で会いましょう…」
彼女は美しく礼をして、決闘場から出ていった。




