魔導師、ギルドに行く②
「ッ!」
倒れていたメリーが目を開けた。
辺りはもう暗くなり、厚い雲が月明かりだけを通している。
僕達は目の前に見える大きな崖から落ちたようだ。あの時使えなくなったエネルギーは再び使えるようにはなっている。飛行魔法で上に飛んで戻っても良いのだが、大きな高い壁を登り切れるほどエネルギーがあるかは分からない。途中でエネルギーが無くなったときの方が恐ろしい。上に登れたとしても森を抜けなくては行けないため、今は魔法は使わない方がいいだろう。
メリーがゆっくりと起き上がる。
「大丈夫か?」
「うん…」
メリーは辺りを見回す。
「僕たちはあの崖から落ちたみたいだ。僕はメリーより早く起きたんだよ。左手が動く範囲でできる事をやったから。」
僕が準備した焚き火が煌々と光っている。
焚き火を焚いておく事はモンスター避けにもなるのだ。
「あ、ありがとう…」
「良いんだ。ブークもガードをしてくれていたみたいでヒールで治せる軽傷で済んだよ。」
ブークは心配そうにメリーの顔を覗く。メリーはゆっくりブークの頭を撫でた。
しかし、その手をすぐに止め、メリーは目に涙を浮かばせた。
「魔道師さんに、良いところを見せたかったのに…
メリーが強かったらっ、メリーも魔道師さんの力になれるのに…」
涙を我慢しているのか、メリーは呼吸が荒くなる。
「…いや、僕は、メリーを弱いだなんて思った事は…」
乾いた風が言葉をかき消す。最後までメリーに言葉が伝わっているかわからない。
風が異常な程どんどん強くなっていった。
「ッ!」
強くなった風が焚き火を消した。
「まずいぞ。このままじゃモンスターが…」
真っ暗な闇の中でなにかの唸り声と荒い息が聞こえる。
「グルルルル!」
木々からキラリとひかる目が見えた。森の奥からは月明かりに照らされた白い毛並みの狼のようなモンスターが出てきた。
「チッ!こんな時に、ウルフ系のモンスターか…」
多くのウルフ系のモンスターがいる中で、白い毛のものは普通のウルフ系モンスターより強く賢いと知られていた。
ウルフ系のモンスターは人間を避け、同種以外と戦いを行わない種族だった。
しかし、今目の前にいるモンスターは口から涎を垂らし獲物を探す、まさに獣そのものだった。
「早く隠れよう。今戦っても勝てないだろう…」
先程の回復魔法の使用によって僕はエネルギー量が大きく減っていた。ブークも同じ状況のはずだ。
「うん…」
メリーは涙を拭いながら静かに頷く。
メリーが茂みに向かう途中、ピタリと足を止めた。
「…」
「何をやってるんだ!早く隠れないと、気づかれるぞ!」
声を上げるが、メリーは俯いたままで動かない。ウルフは匂いに気づいたのか獲物を探すように、周りを歩き回っている。
ウルフが段々と僕たちに接近しているのだろう。荒い息の音が近づいている。僕とブークは顔を見合わせ、ガードの準備をした。
あと数歩で狼に近づくところで、メリーはゆっくりと顔を上げた。その顔は人形のように生気がない。
「◾︎◾︎◾︎◾︎…手伝って!」
メリーが叫ぶように放った言葉は、森中に響きわたったった。




