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第四章 エデンの使者

アスガルド。ロキの支配する世界。

六つの層に別れており、中心を一本の塔が通っている。そこを連絡塔とし、最上階がロキの牙城ユグドラシル。

眼下は第六階層。人がイメージする楽園そのもの景色がある。


「ユミルです。失礼致します」


部屋に入って来た女は、若く、みずみずしい。食べ頃の果実のように甘い匂いを漂わせ、腰に提げた剣の主だとは思えない。


「ロキ様。人間界にカイン様が向かわれたようです」


「相変わらずだなアイツは。一度くらい顔を見せればいいものを」


サキュバスが上手く伝えてくれたことが、確認出来ただけでも良しとする。


「さて、後二人。なかなか手強い友人達だ。サキュバスのヤツ、根を上げねばいいが………フハハハ!」


ロキの友人など、アスガルド………ユグドラシルにいる者でさえ会ったこともない。

しかし、ユミルにはわかる。ロキが“友人”と呼び、カインのように顔を見せるでもない勝手を許すほどの者達ならば、実力はロキと変わらぬか、あるいは凌ぐのかもしれない。

ロキ………アスガルドを治める王。人は彼を聖王と呼ぶ。










「………悪魔の臭いがしたんだが………泥人形ばかりじゃないか」


薄いピンクの鎧を纏った男は、その手に矛を持ち、炎の中を遊歩して来る。


「ん?あれは……」


この炎の中に飛び込んで来る姿を見る。

漆黒の鎧を身に纏った二人の女性。


「………ひょっとして、君らが悪魔か?」


青い双刃の剣を持つのは千明。ガントレットから長い爪が伸びている武器を持つのは絵里。


「………天使じゃなかったわね」


千明は男を見て言った。


「でもま………厄介事には違いないかも」


胸騒ぎの原因がわかり、ホッとしたいところではあるが、絵里に訪れた次なる感覚は緊張だった。


「可愛く変身したものだ。まあいい。せっかくエデンより遊びに来たんだ。一先ず君らの首を手土産に、ロキに会いに行くとしよう」


男は言うだけ言って、一方的に矛を突いて来る。


「うわっ!」


普段の訓練の賜物か、絵里はワンステップ下がってかわす。


「千明!」


「どうしてかしらねぇ………胸が疼くのは。クスクス」


悪魔としての血もあるのだろうが、千明自身の本質が、目の前の危険に胸を躍らせる。


「“あれ”………試してみようかしら」


千明は手を掲げ、


啖氷空界くうひょうくうかい!!」


途端に空間が凍り付いて行く。


「結界か………」


男の言う通り、まさに結界。燃えている炎までも凍ってしまった。


「これで心置きなく戦えるわ」


千明はニヤリと微笑んだ。


「逃げて総帥に知らせた方がいいんじゃない?」


それでも絵里は後ろ向きだが、


「勝って“ご褒美”をもらった方がいいに決まってるじゃない」


と、千明を説得することなは叶わなかった。


「あなた!人間界ここは魔帝ヴァルゼ・アーク様の縄張りよ!挨拶もなしに狼藉ろうぜきを働いた以上、覚悟なさいっ!」


青い双刃の剣を向け、千明は声高に口上する。


「クク………面白い女だ。………オレの名はカイン。聖王ロキの依頼で、君ら悪魔を抹殺に来た。覚悟するのは君ら悪魔の方だ」


静かに語るカインは、


「ついでだ。名前を聞こう」


目を細め、二人を見る。


「私の名は暗黒王ベルフェゴール!」


と、千明は名乗り、


「私は創造神バルムング!」


絵里も悪魔としての名を名乗った。


「ベルフェゴールとバルムング。いいねぇ………ますますやる気が出て来たよ」


カインの目がギラリと光り、攻撃に転じる。

その矛さばきは、ムチでも振るってるのかと見間違うくらいに優美だ。

早々に訪れた実戦に、千明も絵里も苦戦する。各々の悪魔の記憶を辿るが、肉体的には悪魔の能力が備わっていても、感覚だけはどうにもならない。


「ほうらどうしたッ!レリウーリアの名が泣くぞ!」


突然に始まったこの戦いは、完全に不利だと知る。

カインを二人で相手するというのも、コンビネーションの取れない現状では裏目に出てしまった。


「生意気なっ!」


絵里のロストソウル・九十九折りの爪は、彼女の意志に従い関節部分を伸ばしては曲がり、カインを追い詰めてるように見える。しかし、それはカインが合わせているだけ。早い話、遊ばれている。


「後ろっ!もらッたぁッ!!」


カインの背後を取った千明も、勝利の確信と裏腹に、


「甘いッ!ハーベスト・フィアット!!」


「う………そ………!!」


カインの技の前に傷を負う。


「千明ッ!!」


絵里がテレポートして千明を受け止める。


「くっ………まずったわ……」


腹部に大きな傷。そこはちょうど鎧で覆われてない。


「血が………止まんないわよ!これ!」


絵里が千明の傷口に手を当てる。

凍り付いた空間の中を、カインは薄気味悪い笑みを浮かべ二人に近寄って来る。


「何を焦る必要がある?君ら悪魔には高い自己再生能力があるじゃないか。その程度………数分で完治するさ」


そう言いながらも、カインは矛を振り上げる。


「もうちょっと楽しめるかと期待したんだが、復活したてのザコではスペックが低すぎたな」


矛先に光の粒が集まる。


「絵里…あんただけでも逃げて……」


「んなこと出来るわけないでしょ………」


千明の傷口は塞がりつつあるが、絶対絶命の危機には違いない。


「フフ………ロキの奴、喜んでくれるぞ。きっとな………」


カッと目を見開いて、矛先に集めた光の球を放とうとした時、


「そこまでよ!」


女性の声がした。


「………フッ。お仲間の登場………ってわけか」


カインは瞼を閉じ、その気配を感じ取る。


「出て来いよ。演出するまでもないだろ」


カインの言葉が啖氷空界くうひょうくうかいの中に響く。


「たまたま通り掛かったところで何をしてるのかと思ったら………」


それに応えるように現れたのは、紫の刃のロストソウルを持った葵。


「葵!!」


絵里が安堵の表情をした。


「なんだよ、また女か」


「また女で悪かったわね。でも、そんなこと言ってると、反感買うわよ?………ウチの連中に!」


ハッとして、カインは辺りを見回す。


「フフ……ハハハ!こいつは迂闊だった。いつの間に包囲されてたんだ?」


周りにはズラリと葵を含め十一人の悪魔がいた。

銃器のロストソウルで既に狙いを定められているし、立場はすっかり逆転したようだ。


「エデンの子カイン。何をしに人間界へ来た?」


愛子がカインの前に立つ。その瞳は青いLEDライトのようにギラギラと輝き、声のトーンも口調もいつもの愛子ではない。 第二の人格になっているのだ。


「この気配………ベルゼブブか!」


「いいから答えろ!人間界へ何をしに来た!」


「やれやれだ。先走ったツケだな」


「ブツブツ言ってないで………答えろっつーのッ!!」


具現化した両刃がギザギザとしたロストソウルを地面に叩きつける。


「わかったよ。教えてあげるさ。………この人間界は、アスガルドの王、聖王ロキに狙われている。直に侵攻して来るだろう。ククク」


「ほう………アスガルドの聖王が。なら貴様はわざわざそのことを伝えにエデンから来たと?」


そんなわけがないことは、愛子も承知している。


「勘違いしないでくれ。オレはロキの友人。彼が目的を達成しやすいように、お手伝いをしようとしただけさ」


「ケッ。ヌケヌケと………だったら駄賃を払ってやらねーとなあ」


重量のあるロストソウルを担ぎ上げる。


「おやおや………ぁ。恐いねぇ。女ってのは、人間も悪魔も、女は怒らせない方がよさそう………だッ!!」


「!!」


溜めていた光の球を愛子にぶつける。まばゆくフラッシュバックし、悪魔達は視界を奪われた。


「レリウーリアの諸君!また会おう!」


戻っていく視界の向こうにカインの影を見る。それは呆気ないくらいにスッと消えた。


「くそっ!逃がしたかっ!」


吠えるように愛子が言うと、


「仕方ないわ。戻って総帥に知らせましょう」


由利が宥めた。


「千明。立てる?」


「はい………すみません。醜態を晒しました」


傷口はすっかり塞がり、うっすらと痛みが残るだけだ。


「じゃあみんな、帰るわよ」


由利が言うと、全員が返事をし、啖氷空界くうひょうくうかいが解かれて行く。


(聖王ロキ………面倒な奴が出て来たわね)


今のレリウーリアには強敵過ぎる相手の登場に、由利は一抹の不安を感じていた。


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