特章 時の旅人
あの時の光景と似ていた。
どれだけの時間と人手がかかったかは知らないが、壮大なる神殿が音を立てて崩れて行く。
違うのは、アスガルドでないことと、大切な仲間が誰も居ないこと。
「今回は俺の勝ちだ」
その光景を眺めていたヴァルゼ・アークを見つけて言った。
「羽竜………」
もう幾度も剣を交えた宿敵だ。
「どうせ他の世界に行くことでも考えてたんだろ?」
その甲斐あってか、今では気心知れるという、おかしな関係に成りつつある。
「いや。昔を思い出していた」
羽竜を見ることなく、そう言う。
「昔?」
「お前と出会う前の頃だ。レリウーリアの初陣だった」
「………ふ〜ん。苦戦でもしたのかよ?」
「楽勝だったよ」
「なら、何をそんなに思いに更けってるんだ?」
「さあな。自分でもよくわからん」
仲間を想っていたなどとは、口が裂けても言えない。
そこは意地がある。
インフィニティ・ドライブを失い、それに相当する力を求めて時空を旅している。宇宙を無に還す為に。
それが、今ではそれは叶わぬ願いのように思え、時に自信を無くす。
同じ終焉の源である羽竜は、若さなのか、自分の進む道をブレずに信じて歩いている。
「なあ。いつだったか、あんたに言ったと思うけど、由利さんとこに戻れよ。そうすれば俺もあんたを追わなくて済む」
「なんだ、疲れたのか?」
「そうじゃねー。こうやって普通に話せるのに、また違う世界で敵になって戦う。意味ねーだろ」
「ならば、その助言に対する言葉も決まっている。もう後には退けない。死んで逝った仲間の為にも、俺は野望を叶えねばならん」
「頑固なヤツだぜ」
「信念と言ってくれ」
とある世界に決着が着く時、毎回同じような会話をする。
結局、何も変わらないのだが。通例と言うか、ルールみたいなものだ。
「また別の世界に行っても同じだぜ?あんたの探すものは手に入らない。そして、また旅をすることになる」
そう諭したところで、ヴァルゼ・アークが考えを変えることは絶対にないのはわかっている。
「ヴァルゼ・アーク。あんたは神様だ。例え悪魔の神様だろうと、あんたが世界を創ったなら、きっとそこは楽園のような気がする。どっかの腐った世界を支配して、神様として生きた方がいいんじゃないか?」
「ユニークな発想だ」
「案外、真面目だけど?」
「買い被り過ぎだ。俺はお前が思ってるほど強くもないし、出来た神様でもない」
本当は、誰かに傍にいてほしい。
淋しさに、無縁だとは言い切れない。
己の心の弱さを抱きしめていることが、どれほど孤独なことか。
ヴァルゼ・アークは、内面を見透かされないよう、唐突に自慢の四十八枚の翼を広げる。
合図だ。別の世界へ行く。
「変なヤツだな、あんた」
その背なに、羽竜が声をかける。
「俺が?」
「絶対的な力を持ちながら、力で物を語らない。何か物事の奥深くにあるものを見据えている。たまに思うよ、どうしてこんなに悲愴に侵されてるんだろうって」
だからこそ、羽竜は思う。
もし、ヴァルゼ・アークが本気になったなら、今の自分はどこまで通用するだろうか。と。
それなりに強くはなった。しかし、何故か今ひとつ自信が持てない。
「………まあいいや。あんたがいつか負けを認めるまで、俺はあんたを追う。それが運命だからな」
「運命………か。どんな苛酷な運命も、俺とお前の前では障害にならん」
いつか、生きる意味というものを理解出来るだろうか。
既に決まった未来へ進むことが人の道ならば、生きることで何を見出だせばいいのか。
それが分かったなら、潔く剣を置くことも出来るかもしれない。
「ほら、行けよ。あんたが先に行ってくれないと、追えないんだよ」
羽竜が促すと、気持ちに少しだけ余裕ができ軽く微笑んだ。
「フッ。いい覚悟だ。ならば追って来い!俺達の旅に終わりが来るその日まで!」
どうせ行くなら最果てまで。
未だ叶わぬ野望の為、魔帝は新たなる世界へと旅立つ。