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終章

持てる全ての力で、魔帝に挑んでいる。

剣技、体術、魔法。聖王の名に恥じない戦いぶりは、ロキの覚悟が見える。

しかし、現実は味気無いものだ。

どんなに精一杯挑んでも、まるで相手にされない。


「くそっ!何故だッ!何故、一太刀も浴びせられないッ!?」


聖王の名に恥じない戦いとは、優しくも言えなかった。


「勝てると思ってたのか?たわけ。俺は神だ。貴様は人間。フッ……まあ、人間よりは少しだけランクは上か」


それは魔帝の余裕だった。

最初から勝負は着いている。着いていた。

わかっていたのはヴァルゼ・アーク唯一人。

 ロキの様は無様で、向かって行ってはあしらわれ、刃が立たない。


「諦めろ、ロキ。貴様は俺には勝てん」


「ふ、ふざけるなッ!貴様こそ、所詮は人間ではないか!知っているのだぞ!ロストソウルと呼ばれる悪魔の武器は、力と記憶を封じて時空を超えられることを!貴様は、その魔帝の剣を手に、偶然魔帝になっただけだ!」


「違うな。俺は………俺だけは魔帝に呼ばれたのだ」


「何ッ?」


「千年前、天使を眠らせる為に全ての魔力を使い果たした悪魔達。そのわずか前に、魔帝は俺を呼んだ。そこで、託されたのだ。自分に代わって天使を滅ぼして欲しいと。その対価として、この力を得た。魔帝の記憶もある。彼らは記憶も託すことで、俺達に生まれ変わったのだ」


「馬鹿馬鹿しいッ!魔帝が一介の人間を呼んだだとッ!?そんなあやふやなことをするわけがない!」


そう。話が事実だとしても、過去の魔帝が、なんの目当ても無い人間に白羽の矢を立てるとは思えなかった。

だが、そんなロキの考えは埋められることになる。


「貴様らアスガルドの人間も聞いたことがあるだろう?」


「………何をだッ!」


「時代を終わらせる使者の話」


「ああ。有名な話だ。“終焉の源”のことだろ!それがどうした?あんなもの、神話の時代からのお伽話………」


そこでハッとする。


「まさか………」


「そうだ。俺がその“終焉の源”だ」


「バカな………誰ひとり見たことが無い終焉の源が………いたと言うのか………!?」


「終焉の源と魔帝。その融合体が今のこの俺、魔帝ヴァルゼ・アークだ」


ロキは、崩れそうな膝を耐えた。

悪魔の力を偶然手に入れた、ただの人間ではなかった。


「ならひとつ聞こう。何故、貴様ら悪魔は人間界を守るんだ」


「………フフ。人間界ってのは不思議な世界でな。何故か誰もが手中にしようとする。貴様も例外ではないだろ?」


「人間界は時間座標の中で、特異な位置にある。俺は人間界を要塞にし、そこを拠点に神に戦いを挑むんだ」


「だがそれも儚く潰えたな。神はそれほど甘くない。貴様がオーディンを倒したのは、偶然だろう」


「黙れッ!俺の話はいい!貴様は何故、人間界を守るんだ!」


「………インフィニティ・ドライブだよ」


「………インフィニティ・ドライブ?」


「宇宙を支配出来る力だ。全ての運命を、ゼロに出来る。それを手に入れるが為、誰しもが人間界にこだわる。もちろん、インフィニティ・ドライブなる力が、本当に存在するかは定かではないがな」


そう言いながら、ヴァルゼ・アークは微笑んだ。

“ある”と確信している。


「フッ………そんな力なら、是非手に入れたいものだ」


「そう思うだろ?だが、貴様には無理だ。ロキ、終わりにしよう。貴様とは戦う価値もない。ま、レリウーリアの力を誇示するには、充分な戦いだった。おかげで、俺の部下もいい経験が出来た。身を持ってな」


ヴァルゼ・アークが歩き出した。

右手のロストソウルは、下ろされたままだが、構えの無い構えほど恐ろしいものはない。

ヴァルゼ・アークの瞳が真っ赤に染まる。


「こんな負け方………!誰がさせるかあッ!!」


ロキは、恐怖に蝕まれるのを恐れ、魔法を間髪入れず放つ。


「最後まで足掻くといい。弱者の武器は、足掻くことで奇跡をもたらすこと。命尽きる瞬間まで、見事足掻いて見せよ」


魔法はヴァルゼ・アークの前で放力してしまい、彼に傷ひとつ負わせられない。

静かに、至って普通に歩いて来るヴァルゼ・アークは、まさに死の前兆。

そして、目の前まで来た。


「うくっ………」


「どうした?足掻け。貴様がこの世で最後にすることだ。………ロキッ!!」


「クソーーーッ!!!」


破れかぶれで振るった剣は、ヴァルゼ・アークにその両腕を跳ね飛ばされ終わった。


「ぐああああああああああああああああああーーーーッ!!」


「喧嘩を売る相手を間違えたな」


のたうつロキに、もうヴァルゼ・アークの声は聞こえていない。


「ロキ………知ってるか?宇宙に心があることを」










ユグドラシル神殿が崩壊した。いや、させたのだ。

聖王ロキとの戦いは、レリウーリアの圧倒的な強さで幕を閉じた。

第六階層の戦いの被害を受けなかった丘から、レリウーリアはその様を眺めていた。


「お疲れ様でした」


由利が労をねぎらうと、一同に緊張が走る。

戦いは終わったが、自分達のしたことへの罰がある。


「ヴァルゼ・アーク様」


誰よりも前に歩み出て、ひざまずいたのは葵だ。

結果的に問題はなかったが、仲間を危険に晒した。重罪だ。


「この度、私の勝手な行動でみんなを危険に晒した罪は、どのような罰を持ってでも償いたいと思っています」


ヴァルゼ・アークは背中を向けたまま、何も答えない。


「おっしゃって下さい。死罪であっても異議はありません」


そう告げた矢先、無骨な音がカチャカチャと鳴った。

後ろを見ると、仲間達も頭を下げひざまずいていた。


「みんな………」


いたたまれなくなったのか、美咲と那奈も同じことをする。


「どうして………」


戸惑う葵だったが、


「ヴァルゼ・アーク様!命令を無視したのは私達も同じです!葵ちゃんが死罪なら、私達も死罪にして下さい!」


はるかが言った言葉に、また涙を呼び起こす。


「はるかちゃん………」


はるかは真剣な表情でヴァルゼ・アークを見ていた。

彼女の言葉に誰も何も言わないのは、全員本気だからだ。


「総帥、この子達は勝手なことはしましたが、仲間を思ってのこと。どうか、容赦ある裁きをお願いします」


美咲も、黙っていられなかった。

死罪だけは避けたい。


「…………全く」


溜め息を吐き、由利までもひざまずいた。


「司令………!」


葵の方は向かず、


「総帥。レリウーリアの掟を破った者は死罪です。ですが、この度の戦い、この子達は数々の手柄を立てました。それを考慮して下さい」


由利はヴァルゼ・アークの心中を知っている。しかし、けじめを着ける為に、葵を死罪にしないまでも、厳しい処罰を言い渡すかもしれない。

反省して済むのかという話になれば、済むわけがない。

それでも、司令官という立場からではなく、同じ悪魔になった女という立場。

つまり、仲間としての目線で居てやりたかった。


「…………ったく。死罪死罪って」


頭を掻きながら、振り向く。

十三人の美女が、自分に平伏す光景は圧巻だが、少なくとも彼女達は仲間だ。

あまりいい気分ではない。というか、呆れている。


「誰が、いつ死罪だなんて言った?」


彼女達が頭を上げ、ヴァルゼ・アークを見る。


「確かに、あまりに身勝手な行動と、命令無視。由利達の陳情があるにせよ、お咎め無しとはいかん」


ロキを倒した時の瞳はなく、好青年の優しい眼差しがあった。


「葵」


「は、はいっ!」


「理由は聞かない。そのくらいの罪だとわかっているな?」


理由は意味を持たない。


「わかっています」


「そうか。なら罰として、向こう一ヶ月屋敷ではメイド服着用を言い渡す!」


「………え?」


唖然と見上げていると、


「その他の者も、二週間全員メイド服着用」


そう………言い渡す。


「そ、総帥!」


いくらなんでも示しがつかないと、由利が苦言を言おうとしたが、


「お前もだ由利」


「な………わ、私も!?」


「部下の責任は上官の責任だ」


「し、しかしですね!」


なんとか回避しようとしたのだが、


「司令もメイド服!?こりゃあ、写真いっぱい撮らなきゃ!」


翔子が騒ぎ出す。

翔子ならずも、由利のメイド服姿は見てみたい。

嫌がれば嫌がるほど、喜んでしまうのだ。みんな。


「ここからだ」


そんな騒ぎも、ヴァルゼ・アークの一言で収まる。

彼の言葉を聞きたいのだ。


「ここから、俺達の物語が始まる」


すると、再び全員がひざまずく。


「私達は、ヴァルゼ・アーク様の為にだけ存在しています。この先、如何なる障害も我らの力を持って排除します」


由利の言葉は、レリウーリア全員の気持ち。

二度と命令に背かない。そう誓う。


「お前達の命、確かに預かった」


主は魔帝ヴァルゼ・アーク。

 名は闇十字軍レリウーリア。

悪魔達の物語は、ここから始まった。



魔導神話 インフィニティ・ドライブ外伝 〜 レリウーリア物語〜


〜完〜


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