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第三十九章 主に問う

近代的建造物とは程遠いユグドラシル神殿。

闊歩する魔帝ヴァルゼ・アークをアスガルド近衛兵が取り囲む。


「どうした?手が震えてるぞ」


どれだけの刃が自分に向いているとしても、震えているのでは怯える必要もない。


「………フッ。命が惜しいのなら、早々に立ち去れ。戦う意志の無い者を殺すつもりは無い」


慈悲を気取るわけではないが、結果は戦う前から出ている。

責務を果たそうと言うのなら受けても立つが、そうでないのなら、逃げる選択肢も与えてやる。


「そうだ。それでいい」


自ずと道は開かれた。

誰ひとりとして、魔帝とやり合おうなどという者はいない。


「何をしてるのです!敵にむざむざ道を譲るとは!」


開いた道の向こうから、一人の女性が現れる。


「魔帝ヴァルゼ・アーク………ですね?」


「お前は?」


「私はユグドラシル近衛兵隊指揮官のサキュバス。ここから先へは一歩も通しません」


それは勇敢ではなかった。

近衛兵達が指揮官であるはずのサキュバスを置き去りにして行く。


「部下に見捨てられるようでは、あまりいい上官ではないようだな」


指揮官に任命され、まだ数十分。当たり前の状況ではあるが、


「情けない!」


敢えて上官としての態度を一貫する。


「ヴァルゼ・アーク!私と勝負をしなさいっ!」


「勝負?」


その真剣な申し出に、吹き出さずにはいられなかった。


「はははは!」


「な、何が可笑しい!」


「俺とお前が勝負?思い上がるな。遊び相手にもならん!」


「そんなの………やってみなけりゃ………!」


「ならば剣を抜け!」


静かにも、威圧的に言う。そこに近衛兵達に見せた慈悲はない。


「い、言われるまでもないっ!」


言って、柄に手をかける。


「剣を抜く前に、もう一度よく考えろ。抜けば、俺はお前を容赦なく殺す」


柄にかけた手が戸惑う。

わかってる。魔帝相手に勝てる見込みは無い。

それでも、抜かずに逃げるなど出来ない。ロキの気持ちに報いたい。

その淡い想いが、サキュバスに剣を抜かせた。


「抜いたか」


「それが私の使命だからだ!」


「よかろう。その使命に行き場を求めるな。神の忠告を無視したのだからな」


その手に、黒い刃の剣を具現化する。


「この剣の名は絶対支配と言う。万物が、俺に平伏す。その証だ」


ヴァルゼ・アークは構えなかった。余裕とか、そんなレベルじゃない。

神であるが故、神に刃向かう者への罰。絶対的な力で捩じ伏せる。

「魔帝!覚悟ッ!!」


剣を振り上げ、何も考えずに挑む。

それが精一杯だ。どんな策を講じたところで、相手は悪魔の神。それも、他の神々が恐れるほどの。

何も考え無い方が怯まなくていい。


「てりゃあぁぁぁぁぁっ!!!」


勇ましく声を上げたが、身体を翻され、挙げ句に爪先を出され転倒してしまう始末。

もっとハードな攻撃を期待していただけに、意表を突かれ過ぎて、


「あうっ!」


小さく悲鳴を漏らす醜態。


「まるで猫だな。アスガルドにいるかは知らんが」


上体を起こして、振り向いたところに既に絶対支配の刃はあった。


「こんな滑稽な屈辱………!」


終わるなら、一撃で終わらせてもらいたかった。

女だとナメられた。そう思うと、それもまた屈辱で、涙が流れた。


「屈辱の涙か。やはり女だな」


「殺せ!さっさと殺せ!」


「潔いい死を望めば、認めてもらえると思ってるのか?」


最後まで、忠誠を誓えばこその死。

ヴァルゼ・アークも理解出来ないわけではない。


「お前の主は、随分と冷めた奴だな。醜態を晒すなら、死を望めと教えたんだろう?」


「ロキ様には、アスガルドの王としての責務がある。それ故に、戦士としての生き方にこだわる。お前だって同じだろう!部下に醜態を晒してまで生きろとは言わんはずだ!」


「いいや。俺はあいつらに死んでまで勝利を掴めとは言わない。生きてこその勝利だ。全員で分かち合うもの。死んで讃えられることに、何の意味がある?勇敢だった………そんな言葉は、いつか廃れ行く。人生、限りある生を生きて、報われなければならないことばかりだらけだ。神も、英雄も、庶民も、死んで土に還れば区別すらつかない。最後に勝つのは、死んでもいいなんて思ってる奴じゃない。泥を食ってでも生きようとする奴だ」


絶対支配の刃が目の前から消える。


「サキュバス。お前には生きてもらうことにした」


「!?」


「生きて見届けよ。この戦いの結末を」


「な、何を………」


「俺達レリウーリアの物語は、ここから始まるんだ」


踵を返し、ヴァルゼ・アークは更に奥へと進んで行く。


「ヴァ………ヴァルゼ・アーク…………」


今は、流した涙の意味がわからなかった。


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