表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/46

第三十八章 奇跡を生む勇気

「ちょこまかとッ!」


冷静なタンタロスも、いい加減怒りを抑え切れずにいる。

どんな状況、状態に陥ったとしても、自分を見失うことはない。そう自信があった。

ましてや、結衣のような少女一人、乱される要素にはならない。

ところが、逃げ回るばかりで一向に攻撃の様子を見せない結衣と、今だ一撃も与えられない焦りが、タンタロスを追い詰めている。

実力なら結衣には負けてない。一撃あれば充分なのだが、その実力の差を、結衣も承知しているのが厄介なのだ。


「戦う意志が無いのなら去れッ!」


業を煮やし、一切の攻撃をやめる。


「何ぃ?キレたの?バッカじゃない!」


結衣も動きを止め、呆れ気味に言ってみる。

知恵比べ。根比べ。勝てるはずの相手に手こずるタンタロスと、まともに戦っては勝てない相手に隙を作りたい結衣。

そして、互いに互いの思惑も知るが故に、ダラダラとしていても、展開が訪れるのを待つしかない。


「こんな小娘に振り回されるとは!」


「あはっ。もしかして、私って小悪魔系?」


「くぬっ………!」


こんな怒りは初めてだった。どうにでもなりそうな少女が、ただただ精神を乱して来る。

それも、楽しそうにだ。


「ナヘマー………俺をここまで怒らせた奴はいない!」


結衣の笑顔に腹が立つ。ストレートに認めてしまえと、自分に言い聞かす。


「そ。私には関係ないし」


ところが、結衣と言えばマイペースと言うか、タンタロスの感情の起伏だとか、彼自身がどうかなんて気にしてない。

ラグナロクに取っ捕まった失態の挽回と、葵達を痛め付けたタンタロスへの報復。ヴァルゼ・アークからの信頼に応える使命感。それが満たされれば、戦う敵の事情など知ったことではない。

クールと言うよりは、リアルスチック。冷徹なのだ。


「ねぇ、なんかこう、どか〜んって魔法ないの?」


「なんだとッ?」


「死ぬかもしれないって瀬戸際が、一番快感だったりするじゃない。あんたの誇る魔法を一発仕掛けてもらった方が、手っ取り早いのよ」


「屈従する羽目になるぞ」


「は?誰の?まさかあんたになんて言わないでしょうね?私はヴァルゼ・アーク様にだけ従うの。あ、もちろんお姉様達にもね!」


何を言われようと、結衣は自分のやりたいように、言いたいように表現するのだ。

奔放な彼女にとって、スタイルに合わない会話は、右から左へスルーしてしまう。


「こんな小娘相手に、俺は何をやってるんだ!」


「認めたら?」


「何ッ?」


「あんたの実力は凄まじいかもしれないけどさ、強すぎる魔力は抑制してなきゃ思わぬ結果を招くもんね。ちゃ〜んとわかってるのよ」


「ほざけッ!ほんの少し相対しただけで!」


「なら試してみたら?全ての魔力を解放すれば、私も、葵お姉様達も倒せるわよ?その代わり、ユグドラシルも消し飛ぶでしょうけど。そうなれば、ロキも終わりね」


「くっ………!」


「さあ、どうすんのかな?プライドを取ってどっか〜んするか、ちまちま私の相手する?後者の場合、私はあんたの魔力が尽きるまで回避行動に徹するけど」


タンタロスの魔力が尽きるまで、回避し続ける自信はある。

実際、タンタロスは結衣の機敏さに着いて行けていない。

正攻法だけが常勝を生むわけではないのだ。


「………フッ。どうやら俺のおごりだったようだな。見た目の愛らしさに、まんまと騙されたわけだ」


と、タンタロスが微笑む。何かを吹っ切ったように。


「レリウーリアは上級悪魔の集団。ヴァルゼ・アークの側近達だ。一筋縄で行くわけがなかったんだ。誤算とは違う。計算などしてなかったからな」


「言い訳は結構よ!」


「貴様の知恵と自信に敬意を表して、最高の魔法で迎え討ってやろう」


タンタロスが決意を固める。

何よりも、己のプライドを取ったのだ。

土砂降りの雨が止み、途切れ途切れ晴れ間が顔を覗かせる。

両手を掲げ、魔力を一点に集中させる。


「ユグドラシルごと吹き飛ばすつもり!?」


小ばかにしてた結衣も、その表情には焦りが見える。

予想以上に強い魔力が頭上に現れたからだ。


「ナヘマー。こんな形で本気にさせられるとは、俺も思っていなかった。先にも言ったが、これは貴様への敬意。存分に味わうがいい!」


「…………ッ!」


「行くぞッ!サクリレイジダークネス!」


頭上の魔力を投げ降ろす。

全て吹き飛ばすつもりであることは明白。


「こうなったら………!」


地団駄を踏んでも何も変わらない。そう思った結衣は、落ちて来る魔力の塊に向かって飛んで行く。


「愚かな!自殺する気か!」


黙って死ぬつもりなどないとは思っていたが、よもや自ら飛び込んで行くとは思っていなかった。


「誰が自殺なんか!ハウリング・ハーモニクス!!」


どんな強大な力を前にしても、決して怯まない勇気。

奇跡はいつも、そこに潜んでいる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ