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第三十五章 死の前兆 〜後編〜

その強さたるや、神の力だった。

特にアクションを起こさず、立ち、目を見開いただけで波動が巻き起こり、稲妻が落ちる。

土砂降りのユグドラシルで、葵、はるか、純の三人は、泥水に浸され、無惨にタンタロスの前に平伏す。


「フン。こんな奴らにカインはやられたのか」


地べたのはるかに足を乗せる。


「くぅ………」


「痛みも極限に達すると、口も聞けぬか」


戦いにもならなかった。魔力云々ではなく、構えのない攻撃は、常に受け身でいなければならない。

もっとも、何をどう考えようと、実力の壁はどうにもならない。


「………なんて……奴ですの………」


純も、プライドを振りかざすことすら忘れ、その力に感服さえする。


「貴様ら悪魔は目障りだ。いつも歴史の邪魔をする」


平伏したままの純とはるかは余所に、葵はマスカレイドを支えに立ち上がる。

そこに意志はある。


「まだ刃向かうか………サタン」


「神様みたいな………言い草ね。さすがクロノスの息子……ってとこかしら?」


「その名を口にするな!」


「あら?あんたの父親じゃない………奈落に突き落としたね」


「黙れッ!屍同然の身体で、何をする気だ!」


「決まってるじゃない………守るのよ」


「守る?何を?」


「二人を………みんなを私が守るのよ!」


マスカレイドを一振りしただけで全身に痛みが走る。大それたことをよくも言えたものだと、我ながら思う。


「葵………ちゃん………」


「お……おやめなさい……あなたでは………」


「二人はそこで休んでて。大丈夫。私が蒔いた種だもの、ちゃんと摘み取るわ!根っこまでねッ!」


命と引き換えに、ロキを倒そうとしていた。自分の名誉を求めて。

今は、命と引き換えに、仲間を守る。自分の居場所を失わない為に。


「それでこそ葵お姉様!!」


ハッと、振り返る。何かが自分目掛け飛んで来る。そして、それは葵を通り越し、タンタロスにぶつかった。


「結衣ッ!」


葵の目には、タンタロスに蹴りを喰らわせている、妹分の姿が映っていた。


「悪魔め………どこまでも群がるか」


目に見えないシールドでもあるのか、タンタロスの顔面寸前で結衣の蹴りは止まっている。

運動エネルギーが失われる前に、目に見えないシールドを蹴り上げ、回転して葵の前に立つ。


「これ以上、お姉様達をいじめるのは、この魔人ナヘマーが許さないッ!」


二本のダガーのロストソウル・オリハルコンを構え、タンタロスの前に立ちはだかる。


「また小娘か。やる気が削がれる」


「そんなこと言っていいの?ナメてると、痛い目みるんだから!」


「小賢しい。小娘が一人増えたところで、何の障害になると言うのだ?」


タンタロスは笑みさえ浮かべ、余裕の許容範囲を見せつける。


「あまり結衣を見くびらないことだ」


その余裕の笑みを曇らせたのは、言うまでもない、


「ヴァルゼ・アーク………?」


「お前がタンタロスか。オーラでわかる。神族独特のオーラだ」


対峙してわかる。神々が恐れる神と言われたその意味が。

人間の姿であるにも関わらず、今にも世界を闇に堕としてしまいそうな危険な気配。

それが出来る人物なのだ。

会ってみたいと思っはいたが、実際会ってみれば、タンタロス自身、背中を流れる嫌な汗を無視は出来なかった。

反面、戦いたいと望んでいただけに、高揚していく気持ちがあった。

………しかし、


「結衣。ここはお前に任せる。必ず勝て」


「それは命令ですか?」


と、意地悪っぽく聞き返す。


「そうだ。命令だ」


「了解です!」


満面の笑みでヴァルゼ・アークに敬礼する。

もちろん、これをタンタロスは不服とする。


「待て!貴様が相手をしろ!ヴァルゼ・アーク!」


通り過ぎようとするヴァルゼ・アークを呼び止めるも、


「悪いな。暇がないんだ」


「ふ、ふざけるなっ!小娘に俺の相手が務まるか!」


「………だ、そうだ。結衣、どうする?自信が無いなら、変わってやってもいいぞ」


タンタロスを煽り、またそれを助長させるように、


「だいじょ〜ぶで〜す〜!」


どこまでも眩しい笑顔を、結衣は見せた。


「頼んだわよ」


そして、由利も結衣にそう言った。

タンタロスを無視し、先へ進もうとするヴァルゼ・アークと由利を、葵は、


「ヴァルゼ・アーク様!」


「……………。」


「申し訳ありません………私………」


自分も無視されてるのかと不安になり、謝罪の言葉なんて考えてなかったが、思わず声が立った。


「言い訳は後で聞く。結衣の邪魔にならないよう、純とはるかを連れて下がってろ」


「え………?し、しかし………」


ちらっと結衣を見る。なぜ結衣を一人で戦わせるのか?

カインを倒すのでさえ、三人掛かりだったのだ。到底、結衣一人でタンタロスを倒せるとは思えなかった。

でも、結衣本人は、やっぱり笑顔で葵を見てるのであって、それが自信か何のかは、推し量ることが出来なかった。


「わかりました」


仕方なく純を起こし、結衣がはるかを起こして避難させた。


「そういうことだ、タンタロス。俺と戦いたくば、結衣を倒してからにするんだな」


「…………ナメた真似を。………いいだろう。その言葉忘れるな。すぐに片付けてやる!」


そう。結衣一人じゃなくとも、勝てるつもりでいた。

去って行くヴァルゼ・アークと由利を見届け、


「ナヘマーだったな。恨むならヴァルゼ・アークを恨めッ!」


瞳を見開き、また稲妻を落とす。

辺りがオレンジ色に光り、爆音が鳴る。

これで終わった。はずだった。

土の焼けた臭いが漂い、煙が消え失せる。

骨のひとつでも残ってればいい方だろうと、そう思っていた。

だが………


「何してくれてんのよ!ぺへっ、うぅ〜口に土が入っちゃった〜」


多少の汚れはあるが、元気な結衣がいた。


「バ……バカなッ!」


その姿に、言葉は無かった。

パクパクと唇だけが動き、呆然としていると、結衣がそれまでの笑顔を捨て、睨み据えて来た。


「あ〜もうッ!ムカついた!」


首を軽く回し、


「ぶっ殺してやるッ!」


愛らしさの塊は、暴言で威嚇した。

それは、殺意の表れ、死の前兆。


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