第三十五章 死の前兆 〜前編〜
連射連射連射。
威力を弱め、連射速度を重視する。
「懲りないヤツら!」
那奈のロストソウルでは、近くに来られたら対抗出来ない。
時間をかけてでも、数を減らして行くしかないのだ。
だが、その時間さえ、恒久のものであるわけもなく、魔力の残りに比例する。
息せき切らし、たったひとつの手段を遂行して行く。
「………数が多過ぎよ」
愚痴れるだけまだ余力があると、自分に言い聞かせなければ心が折れそうだ。
そんな彼女に鞭打つように、突然雨が降って来た。
「アスガルドに………雨?」
大雨もいいところで、視界を一気に鈍くさせられてしまう。
空の軍勢は、雷が轟くと、飛来を避ける為か、次々地上に降りて来る。
見慣れない、那奈の特殊な武器を警戒していたアスガルドの戦士達も、勝負に出たというところだろう。総攻撃で畳み掛けるつもりらしく、魔法を準備する者、剣や槍を構える者、たった一人の悪魔を葬る為に何千といる戦士達が、戦闘態勢に入る。
「チッ。翼もないくせに生意気なッ!」
無駄な魔力を使わず、確実に数を減らす方法は選べない。きっとやみくもに攻撃される。
ここで、ある種の覚悟は決めておくべきだろう。
上空にあると思われるユグドラシルまで、強行突入することも可能ではあるが、翼を使わなければ飛行出来ない自分と、翼が無くとも飛行出来るアスガルドの戦士達とでは、彼らの方が空気抵抗が少ない分、加速力が上になるはず。
追いつかれて無様に散るのなら、わずかな希望に賭けてこそ魔王アドラメレク・岩瀬那奈なのだと、
「来なッ!」
誇る。
それが合図となり、那奈を狙う全ての敵意が、落雷の後押しを得て飛び掛かる。
乱れ撃ちで応戦しようと考えていると、後方から熱く激しいオーラが放たれて来て、後ろを固めていた大半の敵を焼き尽くした。
「これだけの数、よく堪えた」
歩く姿がうっすらと浮かび上がる。
自分を讃えてくれる者。そんな人物は一人しかいない。
「ヴァルゼ・アーク様」
「待たせたな」
そして、
「那奈、安心して。みんな来たから」
由利が、いつものようにヴァルゼ・アークの隣にいる。
その後ろには、残して来た仲間達がいた。
「お疲れ様です!那奈お姉様!」
一番元気よく、結衣が駆け寄って来る。
その屈託のない笑顔にホッとする自分がいて、昔はこうじゃなかったのになあ………などと思う自分に、仲間がいるから強くいられるのだと改めて思えた。
「あなたは、どこに居ても元気ね」
「エヘッ。それだけが取り柄ですもん!」
愛らしい結衣のおかげで、気持ちを仕切り直すことが出来た。
「総帥。ここは私達が引き受けます。どうぞ、司令とユグドラシルへ進んで下さい」
美咲もまた、ひとつの戦いを終え、自信に満ち溢れている。
そして、愛子、景子、千明、ローサ、絵里、翔子も、頼もしく見える。
「わかった。任せよう」
「お願いね」
まるで、雑務でもさせるかのような軽い言い方で一任する。が、それは彼女達を信じているからだ。
ヴァルゼ・アークと由利は、ユグドラシルへ行く為颯爽と歩き出す。
那奈を倒そうと殺気立っていたアスガルドの戦士達は、堂々と歩いて来る二人の道を、本能で切り開いてしまう。
数千はいるアスガルドの戦士達の中で、誰一人として二人に手を出す者は居なかった。
悪魔の神として、闇に君臨する魔帝ヴァルゼ・アーク。彼が通り過ぎた時、誰もがアスガルドの終わりを感じていた。