第三十章 二人の挑戦者
幼い頃、よく夢を見た。
綺麗な自然に囲まれた真っ白なお城。銀色の鎧に身を包む兵士はいるも、決して物々しくない空気。
そして、そこのお姫様でいる。少女なら、誰でも憧れ、きっとそれは通過儀礼。
目の前には、その憧れた景色がある。
なのに、残念ながらお姫様ではなく、今は悪魔。憧れた景色を壊す為に自分達はいる。
「どいてどいてぇ〜!!」
はるかは、細剣のロストソウル・オメガロードで、ユグドラシルの近衛兵達を片付ける。
「全くもって邪魔ですわ!実力が無いなら、でしゃばらないで下さいませ!」
純もまた、槍のロストソウル・グングニルを使い、先を進む。
ここまで来れば、モチベーションも頂点を突き抜けた感じだ。自然と力も漲り、悠然と立ち振る舞える。
「純ちゃん!門が見えたっ!」
薙ぎ払い、進む先に堂々と構えられた門。
「一思いに壊して差し上げます!」
当然の如く閉じられた門を、こじ開ける手間も惜しい。
純は、尚、立ちはだかる敵もまとめて、
「生々流転!」
オーラで蹴散らす。
勢いづき、図々しい門さえ破壊する。
門に背を向けていた近衛兵は、破壊された時の衝撃波で吹き飛ばされる。
「やるぅ〜!ちょろいよね!」
「無駄話は厳禁ですわ!数では断然劣るんですもの!とにもかくにも城内に入るのが優先です!」
「ふふっ。やる気出て来たって感じスか!」
気分は上々。それと同じ位、不安も上々だ。だから表面だけでもテンションを上げたままでいたい。
図々しく構えていた門の残骸を乗り越え、敷地内に入り込むと、二人を待っていたと言わんばかりに、カインが立っていた。
「悪臭放つ悪魔め。ユグドラシルまで来るとはな」
あの日、千明と絵里を襲った時のカインの顔ではなく、鋭い眼差しが特徴だった。
それも殺気のひとつなのだろうが、静寂さのある殺気だ。
「悪臭ぅ?レディーに対して失礼にゃ!ちゃんとコロンは欠かしてないもんね!」
「おーほっほっほ!わたくしのは超有名ブランドの一級品ですもの、悪臭などするわけがございませんわ!」
「違うよ、純ちゃん。体臭のこと言ってんだって」
「あら?そうですの?確かに汗はかきましたけど………」
いつもの調子でやり取りしていると、後を追って来た近衛兵達に囲まれる。
「あいやぁ………ヤバくない?ボケてる場合じゃないよ」
「ぼやくのは後になさいませ。ここまで来たらとことんやるまでですわ」
そう意気込んでいると、
「君らは邪魔だ!下がれ!」
カインが近衛兵達に叫んだ。
下がれと言われても、ユグドラシル、強いてはロキを護るのが彼等の務め。簡単に引き下がるわけにもいかず、
「しかし、カイン様!」
「下がらぬなら、消えてもらうまでだ!」
そして、カインは純とはるかを通り越して、近衛兵達を衝撃波で一掃してしまった。
「なんて奴………仲間を殺すなんて!」
おどけていたはるかも、さすがにキレかかる。
「仲間?彼等はオレとは何の関係もない。大体、たった二人の女に弄ばれるような役立たずだ、兵士としての価値は無い」
「あなたのおっしゃることには共感出来ますわ。ですが、それは貴方がユグドラシルの主であった場合。何の関係も無い者を、さぞ“物”のように扱うのは、例え敵とは言え許し難いですわね」
「そうか。ならば、その鬱陶しい想いごと葬ってやるよ」
「その前に!うちの唐変木はどうなさいましたの?まあ、あの方はおとなしく殺されるようなタマじゃありませんから、きっと手を妬かせているのではなくて?」
「気になるか?フフ………サタンならまだ生かしてある」
「これはまた悠長でいらっしゃますのね。あまり焦らして遊んでると、手を噛まれますわよ?」
「心配するな。あの女は、ヴァルゼ・アークの前で殺すと、そう聖王が決めたんだ。それまでの命だ」
実際、誰の前で殺してもいい。宣言したのは、ロキを立てる為。他に理由はない。
「ああ。そうだ、名前を聞いておこう。サタンに伝えねばならんだろうからな。仲間の死を」
ほくそ笑む。初めて見せた笑顔は、初めて殺気をあらわにするものだった。
「嫌いだなぁ。こういう男。女に喧嘩売っといて、もう勝った気でいやがんの。ナメんなよって感じだよね?ま、いいけどさ。どうせ勝つのは私達だから」
「フッ………カイン。あなた、全然わかっていないようですわね。聖王が何を決めようと、そんなもの、何の効力もありませんでしてよ?だってそうでありませんこと?魔帝と肩を並べることなど、そもそもが間違いなんですもの!おーほっほっほ!」
高笑い、そして睨む。
ようやくここまで来たのだ。二人で挑んで一気にカタをつける。
「そんじゃ、行くよ。準備はいい?破壊神アスモデウスの力、見せてやるっ!」
「いつでもよくてよ!魔王ルシファーの威厳というものを、刻み込んであげますわ!」
戦場はユグドラシル。敵はエデンの使者カイン。
挑むは、破壊神と魔王。