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第十九章 犬猿の仲

第二階層へ到達していた美咲達は、出迎えてくれた敵を丁重に“扱い”、第三階層へ続く塔を探していた。


「雑魚ばっかで、うっとうしいったらありゃしない!」


そんな不満をさらけ出したのは、人一倍短気な絵里だった。

不満を口にしたところで、相手側からしてみれば侵入者の排除に躍起なのだ、うっとうしいと言われても悪魔を倒したいと思うだろう。いや、こちらの迷惑など、概算にすらないと言うのが本音だ。


「ブーブー言う暇があるなら、手を動かして下さい!」


それに噛み付いたのはローサ。


「あんたに言われる筋合いはない!」


「言わせてるのはそっちでしょう!」


「勝手に言ってるんでしょーがっ!」


「言いたくなるんですっ!」


「ホント、生意気な女ね!」


「それだけが取り柄だったりするもんで!」


ゴツンと額をぶつけ合う。

犬猿の仲の二人にはいつもの喧嘩なのだが、


「はいはい。終わりですよ!ローサお姉様も、絵里お姉様も、今は状況を考えて下さい!」


結衣に窘められる。

絵里もローサも、鼻を鳴らしそっぽ向く。結衣が苦笑いと溜め息を吐いた気苦労もそっちのけで。


「それにしたって、これじゃキリがないって!」


はるかが打開策を誰かに求む。

第一階層より敵の数が多い。おそらく、第三階層、第四階層と昇るに連れ、その警備は厳しくなるのだろうことが予測される。今、この状況を打開出来なければ到底ユグドラシルまで行くことは不可能だ。


「しゃあねぇ!もう一発噛ましてやる!」


愛子が第一階層でやったことをやろうとする。一番効果的だろうが、


「待って」


美咲が止めた。


「なんで止めるんだ!」


「まだ第二階層なのよ。先のことを考えれば、あなたには力を温存してもらいたい」


「じゃあ、どうするってんだ!このままじゃ、みんなここで疲れちまうぞ!」


そんなことは美咲にもわかってる。だからこそ思考を巡る。知識と知恵をかき集め、最善の策を探す。


「副司令!ここは私が引き受けます!」


「ローサ」


「私が技を使って足止めしますから、その間にみんなを連れて第三階層へ!」


「そんなこと………!」


「大丈夫です!千明ちゃんと翔子ちゃんも頑張ってるんです!私もやれます!」


少し考えた後、


「わかったわ。でも一人には出来ない。絵里、あなたもここで足止めを」


「え?ローサとですか?」


絵里がローサを見る。冗談じゃないと思いながらも、断ることも出来ず、


「足、引っ張んないでよ」


そうローサに釘を刺す。


「それは私のセリフです!総帥に褒めてもらういい機会なんですから!」


とにもかくにも、この場は二人に任せるしかないようだ。

美咲は、


「みんな!私に続いて!」


敵陣から抜ける準備にかかる。


「じゃ、行きます!」


ローサは大剣のロストソウルを地面に突き刺し、


「ザ・サクリファイス!!」


技を発動させ、近くにいた敵を消し去って行く。


「頼んだわよ!二人共!」


そう言って、美咲達は予定通り第三階層を目指し、全速力で飛んで行った。


「やれやれ。こんなとこであんたのおもりとは」


絵里が面倒くさそうにすると、


「お互い様じゃないかしら。私一人でも充分なのに」


ローサも負けじと悪態をつく。


「言ったね?ローサ!」


「ええ!言いました!それが何か!」


まだ周りには敵がいるというのに、お構いなしに喧嘩をする二人を、ここぞとばかりに一斉攻撃に転じる。

隙だらけと思えた二人だったが、喧嘩でヒートアップしたローサと絵里は、余計に強くなり襲って来る敵を次から次へ倒して行く。


「大体、絵里さんはガサツ過ぎます!」


「私のどこがガサツだってのよ!」


一向に喧嘩をやめる気配もなく、敵の数を減らしていることにすら気付いてない。

プライドと言うか、アスガルドの戦士からしてみれば、この上ない屈辱だ。


「ガサツじゃないですか!屋敷では下着でうろつくし、言葉遣いも粗野だし!掃除だっていっつも適当でしょう!」


「そういうあんたはどうなのよ!夜中に総帥に夜這いを掛けるわ、屋敷の中で総帥をストーキングしてみるわ!この変態女!」


「へ、変態女ぁ?私はただ、純粋に総帥を愛しているだけです!人聞きの悪いっ!」


そうすると、互いのロストソウルをぶつけ合い、仲間割れを始める。

さすがにここまでの侮辱はない。と、アスガルドの戦士達は一斉に襲い掛かる。

この二人だけは倒さなければならない。そう一致団結したのだが………


「「邪魔ッ!!!」」


敢え無く散る運命となった。

互いに肩で息をしながらも、敵を倒してしまったことにすら気付かずに、ロストソウルをぶつけ合っている。


「私は、この戦いで武功を上げて、総帥に褒めてもらいたいんです!だから、絵里さんはさっさとどっかに行っちゃって下さいっ!」


「どうせまた良からぬこと考えてんでしょ!スケベ心が丸見えなのよ!あんたに手柄を立てさせるくらいなら、私が手柄を立てて、総帥と一夜を共にする褒美を貰うわ!」


「なんでそーなるんです!?」


「あんたがそう思ってるからよ!」


「キーーーーッ!!あー言えばこう言う!!」


歳が若いローサでは、絵里に決め手を付けるのは難しいようだ。

勝ち誇る絵里は、ようやく冷静になれ、


「あら?いつの間にみんな倒しちゃったワケ?」


周りを見れるようになった。


「そんなことより!絵里さんに手柄を横取りされるわけにはいきません!」


ま、こちら(ローサ)はまだクールダウン出来ないようだが。


「まだ言うか?変態女」


「黙れ!歳増!」


「と、と、歳増〜ぁ!?ふんぬ〜〜〜いい加減にしなさいよ!」


「だってぇ、歳増は歳増。ひょっとして、気にしてましたぁ?」


と、すっとぼけた表情で話をまた戻す。


「随分賑やかな客ですね」


そんな二人を止めるように現れたのは少年だった。


「フン。やっとお出ましね。待ちくたびれたわ」


絵里がニヤリとした。

本当に待ちくたびれていたかは疑問だが、リーダー的な存在がいることを予測していたのは事実だ。

小豆色の長い髪。エメラルドグリーンとパールホワイトがコラボした鎧。

あまり威風のあるようには見えないが、若いながらも自信に溢れた顔つきは、二人に向かい風を送るに充分だった。


「一時休戦ですね。絵里さん」


「ねえ、ローサ。アイツ倒した方が総帥に褒美をねだるってのはどう?」


「それはいいアイデアです」


ローサの同意を得たことで、期限付きの同盟が結ばれた。

そうと決まれば、切り替えの早いのは絵里。


「さて………せっかく登場頂いたんだし、自己紹介でもしてもらおうかしら?」


絵里が少年にその権利の行使を委ねる。


「これはどうも。では………」


少年は模範のようなお辞儀をし、


「僕はアスガルド第二階層番人。アルベリヒ。あなた方は?」


そして問い返す。


「私は闇十字軍レリウーリアが一人!創造神バルムング!」


絵里は両腕のガントレットから伸びる具爪のロストソウル・九十九折りの爪を披露する。


「同じく、レリウーリア総帥の側近、戒律王アシュタロト!」


と、口上するや否や、


「ちょっと!なんなの!その言い回し!」


絵里に突っ掛かられる。


「茶々入れないでもらえます!?」


「いつ側近になったのよ!嘘つき!」


「いずれそうなるんだから、別に問題ないと思いますけど〜?」


「ホント、あんたとだけは仲良くなれないわ!」


「そりゃどうも」


自分を無視して続けるローサと絵里に、やや苦笑いを浮かべたアルベリヒだが、


「美しさも去ることながら、愉快な方達だ。フフ」


余裕からか、不敵に笑う。


「やだぁ!美しいだなんてぇ!正直ねぇ、君」


「バカじゃないのあんた。世辞よ、世・辞!んなこともわからない………。!!」


本気で照れるローサに呆れていると、アルベリヒから鋭い攻撃が開始される。

気付いた絵里が、咄嗟にローサを突き飛ばし、自分も避けた。


「不意打ちなんて、やってくれるじゃない」


絵里がニンマリと八重歯を見せる。


「不意打ちの認識はありませんでした。むしろ、集中力のないあなた方に問題があるのでは?」


「言うね。でもま、口が達者なくらいな方が、倒し甲斐があるってもんよ」


アルベリヒの態度が、絵里の闘争心を掻き立てる。


「勝手に話を進めないで下さい!」


ローサのテンションはさっきと変わらないが、それでも、


「君も。あんまり甘く見ない方がいいよ。私達」


戦う意欲は湧いたらしい。


「正々堂々と………なんてキザなやり方は出来ないから。二人掛かりで行かせてもらう。覚悟しな!」


絵里が構え、アルベリヒに向かって攻撃を始める。


「あっ!絵里さんズルい!」


続くようにローサも。


「僕は構いませんよ。一人でも、二人でも」


そう言って、アルベリヒが手にした武器は、両刃のブーメランが二つ。


「害虫は駆除しないと」


アスガルド第二階層番人が牙を剥いた。


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