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第十八章 自分を支えるもの

大爆発の後、砂埃が辺りに蔓延まんえんし、そこだけに大きなクレーターが出来ていた。

一時は死を覚悟したが、砂埃で思わずせた自分に気付いた千明は、まだ生きていることを知る。


「けほっ。けほっ。………私、まだ生きてる?」


フレイヤーのフリージング・グロリアスを受けきれなかった。はずだが、時間が経つに連れ、無傷なのだともわかる。

なぜ無傷なのか、不思議ではあったが、そのワケを知るに一目で充分だった。


「………翔子!」


フレイヤーの放った技は、翔子が打ち消していた。


「はは………千明ちゃんは案外、後先考えないからなぁ……」


苦言を呈したいところなのだろうが、ヘナヘナとその場に座り込んだ。

衝撃波を真下に促すのに、翔子の持てる力で対抗したのだ。

おかげで千明は無傷で済んだのだ。


「翔子」


「だ……大丈夫だけど……ちょっち疲れちゃったぁ………」


「うん。ゴメン。ありがとう、翔子。後は私がやるから!」


「じゃ……じゃあ、眠らせてもらおう……かな……」


そう言うと、千明の返事を待たずに眠りに就いた。

正直、情けないと千明は自分を責める。初めてフルに使える悪魔ベルフェゴールの力に慢心していた。


「翔子を援護するつもりで残ったのに、逆に助けられるなんて………」


よく周りを見ると、烏合の衆は全て消えている。夢中で戦ってる間に、翔子はきちんと仕事をこなしたのだ。だからこそ、自分自身に腹が立つ。

歯を食いしばり、千明の美しい顔が悪魔の顔へ変わりフレイヤーを三度みたび睨む。

使い果たした力が、不思議と回復してくるような感覚がある。


「フレイヤー………あなたを倒さなければ私は悪魔失格。………仕留めて見せる!」


背中に、バタフライ星雲のように青い羽が噴き出る。


「命拾いをしたわね、ベルフェゴール!」


フレイヤーも相当、力を使ったようだが、条件が一緒なら今度こそと思える。しかし………


「次は私の番よ!亡者の渦に呑まれてしまうがいい!」


一回分。それだけの力しかないけれど、千明はこの一撃に全てを込める。


「百鬼夜行!!」


ぐわっと闇夜に包まれ、青白い火の玉の群れが渦を巻く。


小癪こしゃくな真似を!」


フレイヤーもまた、残る力を振り絞る。


「フリージング・グロリアス!!」


しかし、技が発動されることはなく、一気に火の玉の群れに………


「ひっ………う、うああぁぁぁぁぁぁっ〜〜〜!!」


呑み込まれた。

燃え上がるフレイヤーの身体が灰になるのを見届け、やがて辺りが明るさを取り戻すと、


「私は蒼き騒音の悪魔ベルフェゴール。触れる者全てを灰にする!」


芽生えた悪魔としての自覚を口にした。


「さすが人気女優ね。見事な口上だわ」


すると、誰かが声をかけて来た。それも、自分が女優であることを知っている。千明は声がする方を見る。と、そこには戦いを見守っていたのか、由利がいた。


「司令!」


「初勝利の気分はいかがかな?暗黒王ベルフェゴール」


その傍らには、愛すべき主ヴァルゼ・アークもいる。

冷やかすような口調で話し掛けて来られ、なんだかむず痒い。

決めゼリフとは言え、遊び半分で口にしたわけではないので、聞かれてたのかと思うと照れてしまう。それに、勝手にアスガルドまで来たことを怒られるんじゃないかと思うと、引け目を感じてしまうのも無理はない。


「あ、あの………すいません!勝手な行動をして!でも………!」


「わかってるわ。葵を助けたかったのよね。仲間だもの」


「司令………」


「あら?そんな意外そうな顔をしないでよ。気持ちは私も一緒よ」


規則に厳しい由利から、まさか理解を得ていたとは思わなかった。

美咲と那奈を来させたのも、自分達がヘマをしないか。そんな理由なのだろうと思っていたからだ。

器の小ささを知って、千明は改めて由利を尊敬する。


「他の連中はどうした?」


ヴァルゼ・アークが翔子を抱き抱えながら言った。


「先に進みました」


「フッ。全く、手のかかる女達だ」


翔子を千明に委ねる。


「ヴァルゼ・アーク様。どんな処罰もみんな覚悟の上です。ですが、葵だけは………」


「処罰などするものか」


「え?でも私達は………」


「お前達は自分達で話し合い、考え、そして行動した。命令違反とは言っても、確固たる覚悟と信念があってのことだ。大目に見てやるよ」


「ヴァルゼ・アーク様………」


軽くウインクしたヴァルゼ・アークは、千明の自慢の髪を撫で、


「翔子が目を覚ますまで休むといい」


「しかし、そういうわけには!」


「せっかくアスガルドまで来たんだ。ケリを着けて帰る。だから体力の回復を待って、後から来い」


「わかりました。必ず後から追いかけます!」


そう言った千明の唇にキスをする。魔力を分けてやったのだ。


「では行きましょう」


由利が言うと、ヴァルゼ・アークは頷き美咲達を追う。

その二人の姿に、加護を受けていることを思い知る。

いつか、自分も主に相応しい悪魔になれるだろうか?

女として、由利に引けをとらないくらい美しく、優雅になれるだろうか?

そのどちらも叶えたい。それが千明を支えて行く糧になる。


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