第十四章 悪魔の宣告
アスガルドにやって来た愛子達。想像に反して、静かで穏やかな世界に、いささかではあるが殺気というものを失いかけていた。
それを代表するように、翔子が感嘆の声を上げた。
「わぉ!こりゃまた爽景だなぁ〜!」
人間界にも素晴らしい風景というものはあるが、アスガルドはそれとは違う。
色合いと言えばわかりやすいのかもしれない。草の青々しさですら、光っているように見える。
「翔子。観光に来たわけじゃないんだからね」
絵里が言うと、
「ぶ〜!ちょっと余裕見せただけだよぉだ!」
口を尖らせ反抗した。
「さあて、聖王ロキはどこにいるのかしら?クスクス」
千明はロキの首を採るつもりでいる。
パステルカラーのアスガルドが、聖王の血で染まるのを見てみたいと、そう思っている。
「ロキはユグドラシルよ」
ハッとしたのは全員だった。当然のように振り向くと、そこには美咲がいて、すぐに那奈が空間に開いた穴から現れる。
「副司令!那奈さん!」
はるかが名を呼ぶと、美咲と那奈はにこりと微笑んだ。
手の掛かる愛しい妹分達が、先走りヘマをしてないか心配だったのだ。
「二人共………どうして?」
愛子が聞くと、
「司令がね、あなた達だけでは心配だから一緒に行ってあげてって」
美咲はそう答えた。
一同は、由利が“連れ戻す”指示ではなく、“同行”することを指示したことに驚いた。
由利が冷徹だとは思っていないが、規則にとても厳しい女性だ。仲間を救う為とは言え、勝手な行動を取った自分達のその行動を、間接的に許したことになる。
「それなら堂々と暴れられるってワケじゃん」
ローサが言うと、
「お待ちあそばせ!まずはあの唐変木を捜すのが先でございましてよ!」
純がすかさず否定をしたが、彼女なりに葵を心配しているのだ。
喧嘩するほど仲がいい。果たしてそれが証明されてるかは別の話だが。
「それで美咲お姉様。ユグドラシルって何ですか?」
キリがなくなるのを懸念し、結衣が話を戻す。ここ一番で大人なのは、実のところ結衣だけだ。
「アスガルドは、六つの階層に別れているの。私達がいるここ第一階層。向こうに見えるあの塔を昇り、第ニ、第三の世界へ行く仕組みよ。そして、第六階層の上空にある神殿。そこがユグドラシルよ」
美咲が簡単に説明すると、
「なら、そのユグドラシルまで突っ走るだけ!」
はるかが声高に叫ぶ。
と、愛子が一同の先頭に立ち、
「どうせすんなり行くワケないに決まってる。だったら、ここでレリウーリアが参上したことを知らせてからにしようぜ」
そう言ったのだが、口調が荒々しくなり、目が青く輝いている。
黒愛子にいつの間にか代わっていた。
こうなると、いつも愛子に接しているようにはいかない。
ただただ苦笑うだけが精一杯。
「どうするのです?」
景子だけはあまり気にしていないようだが。
愛子はロストソウル・ダモクレスの剣を手にすると、
「決まってんだろ!こうするんだよ!」
必殺技を惜しみもせず放つ。
第一階層の空に橙色の馬鹿でかい火球が現れる。
その火球は、瞼を開くように上下に開くと、まさに悪魔の瞳が顔を出した。
「んじゃ、行くぜ!ベルゼビュートキャンディ!!」
悪魔の瞳は、地上に向けてレーザーを放った。
レーザーは一瞬で地上に到達し、あっという間に辺り一面を焼き払った。
「た〜ま〜や〜!」
その見事な威力に、翔子が喜んだ。
「相変わらず遠慮ないのね」
那奈は喜ぶというよりも、愛子の行動に悩まされているようだ。
「しょうがないわね」
美咲は溜め息をつくと、
「行きましょうか。葵を聖なる王から救いに!」
レリウーリア副司令として命令を下した。
パステルカラーが一転。火の海と化したアスガルド第一階層。
業火の中、悪魔達はユグドラシルを目指す。