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第十一章 ステレオタイプ

「話はわかりました」


美咲は穏やかに言った。

何がわかったのかと言うと、単純に葵がいないこと。愛子達から聞いて、一先ず話を預かる。


「総帥。司令。どうしましょうか?」


そして、ヴァルゼ・アークと由利に指示を仰ぐ。

もし、葵の身に何かあったのなら、迅速な対応せねばならない。

とは言え、引っ掛かるのはやはりアスガルドからの敵の気配を感じなかったこと。それは、ひとつの仮説を成り立たせる。


「………構うことはない」


ヴァルゼ・アークが即刻結論を出した。

だが、誰もが納得出来るわけがない。葵が居なくなったことで揉めているのだ。ましてや、アスガルドと対決することも時間の問題の今、葵を構うなと言う指示は断じて従うことは出来ない。


「待って下さい。お言葉ですが、葵は大切な仲間です。探す指示くらいは総帥の口から言って下さい」


と、由利が意見した。他の者ではヴァルゼ・アークに意見すると言うのは中々難しい。だから代わりに言ったのだ。


「葵の行き先はアスガルドだろう」


ヴァルゼ・アークは由利に対し答えた。


「戦いの気配を感じなかった。アスガルドからは誰も来ていないのは確かだ。なら、葵はどこに行ったのか?フッ………一人で敵地に乗り込んだと推測するのが妥当じゃないか?」


理由を添えると、全員の顔色が変わる。


「では尚更………!」


そう愛子が言うと、


「俺はおとなしくしてろと命令したはずだ。こちらから攻撃は仕掛けないと。命令に背いた者の為に、組織を危険に晒すわけにはいかん」


「葵ちゃんを見殺しにするんですかっ!」


はるかが堪らず口を突いた。

葵は大切な仲間。はるかにしてみれば、葵は部下ではない。見殺しにするような命令には従いたくない。


「黙れ」


「ひっ!」


静かな怒りをヴァルゼ・アークに向けられ、小さな悲鳴を上げてしまった。


「俺達はインフィニティ・ドライブを手に入れる為に復活したんだ。ロキの遊びに付き合う為に復活したわけじゃない」


「しかし、このまま黙って見殺しには………」


那奈も納得には至らない。

那奈だけではない。由利ですら納得していないのだ。


「総帥。総帥は葵が死んでもいいとおっしゃるのですか?」


だから少しきつい口調で言った。


「一人で敵地に赴いたということは、それもまた覚悟の上だろう。………俺達の助けを待ってるような弱虫なら、これから足手まといになるだけだ。そんな部下は必要ない」


その冷たい言動と眼差しは、それ以上の反論を凍らせてしまうだろう。

由利も、これ以上は何も言えないと悟る。


「お待ち下さい!」


そんな空気を知ってか知らずか、純が前に出る。


「総帥のお考えは、頂点に立つ者として正しいと思いますわ」


「………そうか。わかってもらえて嬉し……」


「しかし!わたくし達は総帥の為に命を懸けて戦うのです!その命を軽んじる発言は納得出来ません!」


誰もがヒヤッとする。こともあろうに、主に対して対当な態度を取ったのだ。


「誰が納得しろと言った。お前達は命令に従うだけでいい」


「それはあんまり………」


「口説いッ!身勝手な行動を取る者に慈悲はないッ!わかったら下がれ!!」


純を黙らせ、全員を部屋から追い出す。


「お前らもだ」


そして、由利と美咲と那奈さえも。

三人は一礼をして書斎を出た。


「葵………無事でいてくれ」


ヴァルゼ・アーク。その心は、誰よりも葵を案じていた。










お通夜よりも静かな空気が漂う。

一同は大広間に戻っては来たが、特に話すこともなかった。

ヴァルゼ・アークは主だ。人間という種族に嫌気がさした自分達に、悪魔として生きる道を与えてくれた。命令は絶対だ。

彼女達も、ヴァルゼ・アークを愛している。それは人が人を愛すレベルではない。だからこそ、逆らえない。


「葵ちゃん………」


半分ベソを掻いてはるかがクッションに顔をうずめる。


「あんな言い方しなくても………」


絵里はヴァルゼ・アークからあんな言葉を聞くとは思わなかった。それだけに傷ついてしまう。


「ホントに見殺しにしちゃうのかな」


翔子も、葵のことを思うと気が気でない。


「でも総帥の言うことは最もよ。葵ちゃんには悪いけど、勝手にアスガルドに行ったんなら、思い上がりだよ。私達は、総帥在ってここに居る。それを無視しただもん。しょうがないよ」


そうローサが言うと、突然千明が立ち上がり、ローサの胸倉を掴む。


「何よ、その言い方!葵がどうなってもいいっての!?」


「誰もそんな風に思ってないわよ!」


「今、言ったじゃないの!」


ローサは千明の腕を振り払い、


「じゃあ、葵ちゃん一人の為に総帥を裏切ってアスガルドまで行く?」


「それは………」


「私達は人間じゃない。悪魔なの!安っぽい友情なんかより、優先しなきゃいけないものがあるのよ!」


ローサの言い分は、みんな痛いくらいわかっている。そして、彼女自身は言葉と裏腹に葵を助けに行きたがってると。

怒鳴ったのは、千明に対する怒りではなく、悪魔としてのなんたるかを自分に言い聞かせる為だと。


「でも、総帥の言うように、葵お姉様ホントにアスガルドに行ったのかな?」


結衣には葵が勝手な行動を取る理由がわからない。


「総帥は嘘は言わないのです」


景子はヴァルゼ・アークの言葉に疑いを持ったりはしない。

普段の無愛想も去ることながら、十四歳とは思えない冷静さと物事を見抜く力を持っている。


「………行きましょう!」


それぞれが物思いに更けっていると、純が唐突に言い出した。

言葉通り、アスガルドへ行くと言っているのだ。


「ちよっと、そんなことしたら………」


絵里が後ろ向きな発言をしたが、


「行こう!葵ちゃんを助けに!」


はるかが掻き消した。


「うん!私も行く!」


翔子まで立ち上がり、


「お姉様方に着いて行きます!」


結衣も。


「………ったく、しょうがないの」


ローサも。


「結局、こうなるのね。クスクス」


千明も賛同する。


「総帥に怒られるよ?」


そう言いながらも、絵里も溜め息混じりに賛成した。


「景子はどうする?」


と、結衣が聞くと、


「……………。」


無言で純に近づき、


「責任は取って欲しいのです」


責任の所在を確認する。


「それなら、任せてもらって大丈夫ですわ。………あの唐変木女、一発横っ面ひっぱたいてやらなきゃ、気が収まりませんもの!」


一通りやり取りを見ていた愛子は、


「純ちゃん。総帥に知れるのよ?確実に。きっと、悪魔としては生きられない。そんな処分かもしれないのに、それでも責任取れるの?」


脅すように言った。


「おーっほっほっほっほ!戸川家の家訓では、請け負う責任な大きさこそ、その人物の器と記されています!つまりは、わたくしもそれだけの人物になったということでごさいますわ!」


素でそんなことを言ったのかはわからないが、少なくとも雰囲気が和らいだのは間違いない。


「じゃあ、行きますか!アスガルドに!」


はるかが言うと、全員が同時に頷いた。

目指すはアスガルド。仲間を救う為に。


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