61 皮をむいたグレープフルーツ
ボクたちが話をしている間に、「横切りグレープフルーツと麦茶」の用意ができたようだ。
ウエイトレス
「お待たせしました」
ミエル
「ありがとう。」
デザートを並べ終わって、ウエイトレスが去ってから、ミエルが言った。
ミエル
「では、まずは食べましょう。
食べ終わったら、食休みを兼ねて、今後の方針を説明します」
みやび、アラン、アリス、ワカル、真帆
「「「「「はあーい」」」」」
グレープフルーツは、横半分に切られた2切れだった。 つまり、1個まるごとの量だった。
スプーンも付いていたが、手で皮をむきながら食べる方が全部の実を食べることが出来るから、みんなが手で皮をむいたのだった。
アリス
「砂糖が無いから生きていけないと思ったけれど、まちがいだったわね。
砂糖の甘さよりも満たされる気がする甘さだわ」
みやび
「そうさ、美味しいさ」
真帆
「みなさんは、モンテ領の外からいらしたのですか?」
ミエル
「そうだよ、旧カニング公爵領から来ました。
ワカルさんと真帆さんは、モンテ領内の方ですか?」
真帆
「わたしはモンテ領の外から来ました」
ワカル
「ボクも、外からです」
みやび
「どうして、そう思うさ?」
真帆
「砂糖のあまさを知っているひとは、モンテ領の外からのひとが多いからです」
ワカル
「モンテ領の者にとっては、砂糖は禁断の甘味なのです」
アリス
「じゃあ、砂糖をなめたら、100たたきとかですか?」
真帆
「いいえ、モンテ領内の外というか、この町の外に追い出されるだけです」
アラン
「まあ、それくらいなら問題ないか。
どうして、砂糖を禁止しているんだ?」
真帆
「150年前のモンテマニー大公爵が、ハゲ、デブ、ブサイクだったそうです。
ですが、千の理香様という美しい奥様に命令されて、砂糖と油の揚げ物を禁止されたからだそうです」
アリス
「きびしい奥さんね」
ワカル
「その結果、髪の毛がふさふさになって、かっこよく引き締まって、素敵なお顔になったそうです」
アリス
「いい奥さんね」
真帆
「孫のように若く美しく聡明な奥様にきびしく言いつけられた結果、砂糖と揚げ物が領内で禁止されるようになりました。 大好物の砂糖と揚げ物を我慢しても良いと思えるくらい素敵な女性だったそうですわ」
アラン
「うーん、なるほどなあ」
アランは、アリスの顔をながめていた。
アリス
「なによ、アラン、なにか言いたいの?」
アラン
「その千の理香様がもしもアリスのように魅力的な女性だとしたら、砂糖と揚げ物を取り上げられても苦にならないだろうな、と思ったんだ」
アリス
「アラン、くちを開けなさい」
アラン
「こうか?」
アランが口をあけると、アリスは、皮をむいたグレープフルーツをアランのくちのなかに入れた。
アリス
「ごほうび」
アラン
「ありがたき、しあわせ」
みやび
「ミエル、ミエル」
ミエル
「どうしたの、みやび」
みやびは、くちを開けていた。
ミエルはあせって、皮をむいて、みやびの口の中に入れた。
ワカルは、その様子をうらやましそうに見ていた。
真帆
「仕方ないわね。今回だけよ、将来のことは期待しないでね。
ワカルさん、こっちを向いてください」
ワカル
「えっ?」
真帆
「くちをあけなさい」
真帆は、ワカルの口の中に皮をむいたグレープフルーツひと房を投げ入れた。
ワカル
「真帆さん、うれしいよ。ありがとう」
真帆
「あなたが物欲しそうな寂しそうな顔をするから仕方なくよ。
あくまで同情だからね」
ワカル
「はい、わかりました」
食べ終わったあとで、ミエルが話を始めた。
つづく




