43 スタンピードをそらした祝いの宴
2日後、モンスターの大行進、スタンピードが発生したという知らせが届いた。
【黒色の3神器】の1つ【聖職者の帽子】の正統使用者、黒色騎士団 知世が予言した通りに、3日後にギルドが有る町に到着しそうだった。
知世
「ワタシの予言が正しかったようですね。」
ラージャー公爵
「見事だ。知世。」
知世
「ありがたき幸せ。」
黒色騎士団の4人を中心として、ギルドはモンスターの大行進、スタンピードを迎え撃つことになった。
ただし、モンスターが進路を変えて、東側の山の方に行ってくれるなら深追いはしない。ギルドメンバーの被害を最小限にすることになった。
ギルドマスター
「ギルドメンバーのみなさん、ぜひとも、ご協力をお願いします。
ただ、その、申し上げにくいんですが、報酬は出ません。
タダ働きをお願いすることになります。」
ギルドメンバー A
「それは、つらいが仕方ないな。
下手にモンスターを倒して刺激するわけにも行かない。
追い払うだけなら得るものがないから、お金も出せなくて当たり前だ。」
ギルドメンバー B
「やってられねえが、町とギルドが無くなれば、今後の稼ぎが無くなる。
タダ働きでもやるしかねえな。」
この町のギルドメンバーたちは、ギルドの弱みに付け込んで特別報酬を要求するモラルが低い連中ではないようだった。 ほかのギルドマスターがこの様子を知ったら、うらやましがるだろう。
ギルドマスター
「ギルドメンバーのみなさん、ありがとうございます。
ありがとうございます。
わたしは、世界で一番しあわせなギルドマスターです。
では、黒色騎士団のリーダー ラージャー公爵から作戦を説明してもらいます。」
ラージャー公爵
「黒色騎士団のリーダー ラージャーだ。
まずは、モンスターの大行進、スタンピードを近づかせないことだ。
だから、知世に聖なるいかづちで、モンスターをけん制してもらう。」
知世
「みなさんが壁を作って助けてくださる限り、わたしも安心して、いかずちを呼べます。
どうか、よろしくお願いします。」
ギルドメンバーたち
「おおー、まかせとけ。」
ラージャー公爵
「つぎに、それでも、モンスターが向かってくる場合は、美花にモンスターのめくらましをしてもらいます。」
美花
「【黒色円盤光装飾】のまばゆい光でほとんどのモンスターはしばらくの間、目が見えなくなるでしょう。 わたしが技名を叫び始めたら、みなさんは、目を閉じて腕で隠して、光で目がくらまないように、ご注意お願いします。」
ギルドメンバーたち
「おおー、わかったよ。」
ラージャー公爵
「最後に、武神が出来る限り多くのモンスターを片づけます。」
武神
「おうよ、【黒色円月刀】で【風の刃】を放つから、ほとんどのモンスターを倒せるはずだ。 みんなには、運よく逃げたモンスターを倒してもらいたい。」
ギルドメンバーたち
「おやあ、楽勝の気がしてきたよ。」
ラージャー公爵
「そして、及ばずながら、わたしが指揮を取らせて頂きます。
万が一の備えとして、ミエルさんとみやびさんには、ちからを温存して待機して頂けますでしょうか。」
ギルドメンバーたち
「おお、それは万全の体制だな。 今夜は祝いの宴ができそうだ。」
ミエルは震えていた。 みやびがミエルに呼ばれたことを知らせようと、ミエルの肩を叩いていた。
ラージャー公爵
「ミエルさん、武者震いですか? 仕方ないですね。 強敵が来た時にはお願いしますね。」
ミエルは真剣な表情で答えた。
ミエル
「そうじゃないんだよ。 みんな聞いて欲しい。 スタンピードを迎え撃つ時間なんて無いんだ。
いますぐ、ここから逃げるべきだ。 スタンピードのあとで、なにかが起こるんだ。」
ギルドメンバーたち
「はいはい、なにが起こるんですか?」
ミエル
「わからないんだ。 でも、ほんとうにヤバいんだ。 だから、みんな、最低限の荷物だけまとめて逃げる準備をして欲しい。」
ギルドメンバーたち
「えっ? 戦わないんですか?」
ギルドメンバーたちは、ミエルの言葉にとまどった。
ミエルが十分に強いことは知っていたので、怖くなったんだろう?とは言えなかった。
ギルドマスター
「みなさんの意見を知りたいです。 たたかうつもりのひとは、手を上げてください。」
ギルドメンバーたち
「もちろん、戦うしかないでしょ!」
ギルドマスター
「では、みなさんは戦う準備をお願いします。
ミエルさんは、わたしの部屋に来てください。」
◇
ギルドマスターと受付嬢は、申し訳なさそうな表情でミエルとみやびを見た。
ギルドマスター
「ミエルさん、悪く思わないで欲しいんですが、ギルドマスターとしては人数が多い方の意見を応援しなければなりません。」
ミエル
「でも、ギルドマスター。 本当に危険なんだ。 どんなに遅くても、暗くなる前には逃げないと。」
ギルドマスター
「ミエルさん、あなたは正しいと思います。 それでも、正しいか正しくないかではなくて、大勢の人が望むことを賛成しなければなりません。 納得が行かないとは思います。 それでも、みんなに合わせてくれませんか?」
ミエル
「その結果、みんなの安全を守れなかったら、ボクは後悔してしまいます。」
ギルドマスター
「ミエルさん、そこをなんとか。」
3分ほどの沈黙が流れた。
ミエル
「それはできません。」
受付嬢
「ミエルさん、どうしてもですか?」
ミエル
「どうしてもです。」
ギルドマスター
「ミエルさん、それでは、ミエルさんとみやびさんだけでも、ここから逃げてください。
もちろん、文句は言いません。 それと、これを受け取ってください。」
それは、他ギルドで金を受け取るための証書だった。
ミエル
「これは、手切れ金ですか?」
ギルドマスター
「いいえ違います。ミエルさんがみやびさんのことを頼まれたときに頂いたお金の半分です。」
みやび
「ミエルがいないときは、ギルドのお兄さんかお姉さんに行き先を言うように言われたときのお金ですか?」
ギルドマスター
「その通りです。 本当は全部欲しかったのですが、いつかミエルさんがギルドを去るときが来る気がしていたんです。だから、残しておきました。」
受付嬢
「幸せ半分こ ということです。」
ミエル
「では、有り難く頂きます。 でも、危ないと分かってからでもいいので、みなさんも逃げてくださいね。
月夜橋を渡れば、モンテフルーツ公爵領に行けますから。」
ギルドマスター
「ミエルさん、最後まで気に掛けて下さり、ありがとうございます。
では、お元気で。 みやびさんと仲良くお過ごし下さい。」
ミエル
「ありがとうございます。」
受付嬢
「みやびさんも、お元気で。」
みやび
「ミエルが大丈夫と言ったら、戻ってくるさ。」
ミエルとみやびは、ギルドマスターの部屋を出た。
◇
ミエルとみやびは、武器屋に来ていた。 そこで、武器の手入れをしている親方と話をしていた。
スタンピードに備えるために、多くのギルドメンバーから武器の修理依頼が来ていることが分かった。
武器が山積みになっていたからだ。
武器屋の親方
「まあ、見えない恐怖よりも見える恐怖の方を考えるわなあ。」
ミエル
「見えない恐怖の方が怖いんですけどね。」
親方
「分かることから片づけて、目に見える問題が片付いたら、見えることが増えるかも知れないからなあ。」
ミエル
「そんなものですか。」
親方
「そんなものさ。 ワシたちは、1週間後のことよりも今日のことを考えて生きている。
せいぜい明日のことを考えることが精いっぱいさ。 ミエルのように、ひとよりも先の先のことを考えることができるほうがレアというか、めずらしいんだよ。」
ミエル
「親方、話を聞いてくれてありがとうございます。」
親方
「いいってことよ。 すまねえな、おれは稼げるときに生活費を稼ぎたいんだ。
かまってやれなくて悪いな。」
ミエル
「こちらこそ、お仕事の邪魔をしてすみませんでした。」
ミエルとみやびは、武器屋を後にした。
◇
大親分 左近は、隠密のふたり、じつは、ミエルの次に目立っていた賢者カップルに、ミエルと同行することを頼んでいた。
賢者 男
「おれたちが目ざわりだから、出ていけと言うことですか?」
賢者 女
「そんなあ、せっかく安定した仕事に就けたと喜んでいたのに・・・」
大親分 左近
「いや、そういうことじゃないんだ。
じつは、娘のみやびを守って欲しいんだ。」
賢者 男
「娘のみやび? みやびって、ミエルの恋人の【武闘家みやび】ですか?」
大親分 左近
「その通りだ。みやびちゃんは、ミエルについて行くだろう。ミエルもみやびちゃんも強いが、モンテフルーツ公爵領までの道中が2人だけというのも危ないだろうからなあ。」
賢者カップルからの質問に答えて欲しいという視線を感じて、左近は裏事情を答えることにした。
大親分 左近
「みやびちゃんの亡くなった母親から言われて、おれは父親だと名乗ってはいけないことになっているんだ。
でも、大事な娘だから、できる限りのことはしたい。」
賢者 女
「それなら、もっと熟練の方がいらっしゃるじゃないですか?」
大親分 左近
「うーん、熟練のやつらでも、賢者カップルのふたりには敵わないと思うぞ。
それに、やつらには、ここを出るメリットがないからな。」
賢者 男
「ボクたちには、ここを出るメリットがあるのですか?」
大親分 左近
「あるよ。 ミエルがいなくなれば次に嫉妬のまとにされるのは、賢者カップルだからだ。
というわけで、俺の望みもかなって、俺の頼みを受けるメリットがある二人に引き受けて欲しいんだ。
【幸せ半分こ】 が大事だからな。
隠密軍団の中でも、ふたりの実力は飛び出ているから、いずれ嫉妬されて居心地が悪くなってしまうことを心配している。 また、そうなったとき俺は大勢の方に味方しなければならないため、俺では二人をかばいきれない。すまんな。」
賢者 女
「よく分かりました。 今までありがとうございました。」
大親分 左近
「こちらこそ、ありがとうございました。」
こうして、賢者カップルは、ミエルたちに合流することになった。
しばらくしてから、ミエルとみやびが、大親分 左近のいる場所にたどりついた。
みやび
「親分さん、探したさ。」
大親分 左近
「おお、みやびちゃん。 来てくれたのかい。」
みやび
「親分さん、わたしの恋人のミエルを紹介するさ。」
ミエル
「はじめまして、大親分 左近さん、この間は助けてくださったそうで、感謝しています。
ありがとうございました。」
大親分 左近
「おお、じゃあ、そのお礼に、みやびちゃんを幸せにしてやってくれ。」
ミエル
「もうひとりの自分として、みやびのことを大事にします。
ボクは、みやびといて幸せですが、みやびがしあわせかどうかは分かりません。」
大親分 左近
「自信をもてばいい。みやびちゃんは幸せそうに見えるよ。」
ミエル
「ありがとうございます。 じつは、わたしたちは、ここを出るつもりです。
大親分 左近さんもできるなら、逃げて欲しいです。」
大親分 左近
「すまないが、わしは行けない。 その代わりに、この二人を連れてやってほしい。」
賢者カップル
「「よろしくお願いします。」」
ミエル
「こちらこそ、お願いします。」
みやび
「よろしくさ。」
ミエルとみやびのパーティに賢者カップルが加わった。
大親分 左近
「パーティへの加入手続きは、向こうについてからにしてやってくれ。
ミエルは気付いたと思うが、このカップルは二人とも賢者だ。
やっかみを買わないように、俺の暗部、つまり、隠密として働いてもらっていた。
モンテフルーツ公爵領では、目立たない僧侶や魔法使いとして登録してくれると助かる。」
ミエル
「それは、おふたりの希望通りにします。」
ミエルたちは、モンテフルーツ公爵領に向けて旅立った。
そのころ、スタンピードを無事にそらしたギルドメンバーたちは、祝いの宴を楽しんでいた。
つづく
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