37 ひとを落とし入れるウソをついた者たちの末路
神の部屋にて
未来知見の女神 ミサキ
「ふう。 【大親分 左近】の護衛と隠密には助けられたわね。
この借りを返すために、加護を与えるつもりだけれど、あの地の残り日数は短い。
それでも、その間だけでも・・・ 感謝の気持ちを伝えなくては。
ミエルの具合は・・・かなり、ひどいわね。 でも、みやびさんがそばについていてくれるなら、ギリギリもちそうね。 みやびさん、ミエルを、よろしくお願いいたします。」
◇
どこかの部屋で誰かが独り言を言っている・・・
???
「今回は非常にあぶなかったさ。
アホダマイトの影響が小さくなっていたから、なんとかなったけれど・・・
雪解け水で地盤がゆるんで、アホダマイトが地中から顔を出して、太陽の光で威力を弱くされたおかげで助かったさ。 でも、やはり、この地から遠く離れた方が安全ね。 どうすれば良いか・・・
ああ、ダメ。 雨で太陽の光がさえぎられて、アホダマイトの威力が増してしまった。
つぎに目覚めることができるのはいつにな、・・・ る・・・」
◇
ミエルが寝ている部屋
ミエルが目を覚ました。
ミエル
「みやび? 良かった、みやびはワタシのそばにいてくれるんだね。」
ミエルは両目にいっぱいの涙をためながら、みやびを見つめながら言った。
みやび
「ミエル? どうしたの? こわい夢でも見たのか? さ。
はい、はい、大丈夫ですよ。 ママはミエルのそばにいますからね。
ミエルの手を握っていてあげますからね。 安心して寝てていいさ。」
ミエル
「ううん、みやびが居てくれるうちに、ここを出たい。
ワタシはギルドのみんなに嫌われているみたいだから。」
みやび
「それなら、もう大丈夫さ。 大親分さんが来て、ワタセが悪いって、みんなに話をしてくれたさ。」
ミエル
「大親分さんって、だれ? ワタシは会ったこと無いよね。」
みやび
「そうかもしれないさ。 いそがしいから、いつも、どこかに行っているから、ワタシもときどきしか会えないさ。」
ミエル
「今度、会えたら、ありがとうございました。って、言いたいから、みやびが会うときにワタシを連れていってね。」
みやび
「わかったさ。いいさ、いっしょに会いに行こう。
それよりも、ミエル、そろそろ何か食べたいさ。 おなかと背中がくっつきそうさ。」
ミエル
「そうだね。 ワタシも安心したら、おなかがすいちゃった。 どこにする?」
みやび
「じゃあ、夜ご飯は、あの店に行こうさ。」
ミエルは、みやびに手を引かれて、夜ご飯を食べに行った。
◇
ここからは残虐な内容になります。 苦手な人の目に触れないように、空白行のあとで、続けます。
読まなくても、今後の展開について行けるようにしますので、この行で止めてください。
◇
大親分 左近と護衛と隠密が、情報伝達師 ワタセを取り調べている。
左近
「さあ、ワタセさん、腹を割って話してもらおうか?」
左近の手には、大きな包丁が握られている。
ワタセ
「その包丁はなんのためにあるのですか?」
椅子に手足を縛られたワタセが震えながら質問してきた。
左近
「言ったじゃねえか! 「腹を割って話してもらおうか?」ってな。」
ワタセ
「それは、慣用句であって、本当に腹を裂くつもりですか?」
左近
「あらいざらい話してくれるなら、腹を裂かなくても済むかなあ。」
ワタセ
「話します。 話しますから、その包丁を下ろしてください。 いいえ、遠くにやってください。 こわいです。」
左近
「じゃあ、話せ。 なぜ、ミエルさんを落とし入れようとした?」
ワタセ
「それは、ミエルさんに対するライバル心からですよ。 過去にも、白銀の戦士とかワナ解除師とかいたそうじゃないですか?」
左近は、明るい笑顔をワタセに向けた。
左近
「ああ、ライバル心からか? ミエルは目立つからなあ。」
ワタセ
「分かってくれて良かった。」
左近は、ワタセの腹に圧拳で3連発を入れた。
左近
「ふざけんな。 たしかにそういう連中がいたが、ワタセさんのような卑怯なことはしなかったぞ。」
ワタセ
「でも、ギルドを追放されただけで許されたじゃないですか? だから、俺のことも許してくださいよ。」
左近
「あいつらは、ゆるされてなんかいないぞ。」
ワタセ
「でも、姿を見せなくなったって聞きました。つまり、追放で済んだということでは?」
左近
「あの世に追放されて、いまごろ地獄で苦しんでいるだろうよ。」
ワタセ
「またまたあ、地獄なんて作り話です。存在しませんよ。」
左近
「いいや、地獄は存在する。ワタセさんが見たことがないだけでな。」
ワタセ
「じゃあ、針山地獄とか釜茹で地獄とか血の池地獄に落とされるんですか?」
左近
「ああ、その通りだ。 あとは、ウジ虫やコバエ、猫や犬の毛皮に住むノミに生まれ変わるとかだな。」
ワタセ
「おとぎ話じゃないですか? 信じているんですか? 大親分とも有ろう御方が?」
左近
「俺はガキの頃から、そう言われて育ってきた。 ウソはつくな、地獄の大王様に舌を抜かれて、しゃべれなくなるぞってな。 まあ、ついこの間までは、半信半疑だったがな。」
ワタセ
「それで、今は信じているんですか? 冗談が上手ですね。」
左近
「冗談ではなく、知ったというか、教えてもらったというか。 とにかく地獄は存在する。」
ワタセ
「あの世にでしょ。」
左近
「この世にもある。 話が脱線しすぎたな。 あらいざらい吐いてもらうぞ。」
長い長い尋問がつづいた。
◇
左近
「まだまだ話してもらうが、夜に寝るときだけは拘束を解いてやる。 ただし、逃げようとはするな。
食事が終わったら歯をみがいて早く寝ろ。 あしたも話してもらうからな。」
ワタセ
「はい、分かりました。」
◇
翌朝
左近
「俺は逃げようとするな。と言ったよな。」
護衛
「ええ、おっしゃいました。」
隠密
「確かに。」
ワタセ
「これは、あんまりだ。」
椅子に縛られたワタセをよく見ると、右足のひざ小僧から下が無くなっていた。
左近
「二度と逃げようなどと考えないようにな。」
左近は、ワタセを睨みつけた。
尋問は続いた。
◇
次の日も、また次の日も、ワタセは逃げようとした・・・
その結果・・・
左近
「残った右腕を大事にするんだな。 なあに、失血死しないように血止めはしてある。」
ワタセの左腕、左足、右足は切断されて、切り口は焼かれていた。
ワタセ
「ここは地獄だ。 ひどすぎる。」
左近
「だから、地獄はあると言っただろう。
さあ、なぜ、ミエルさんにあんなことをした理由を話せ。 ワタセさんのように人を落とし入れるウソをついて悲しませて喜ぶ性格の人物を深く理解しておきたいからな。 お前、いや、あなたのような人物を見つけ次第、早めに教育したい。 子供のころから、そんなだったのか話してもらおうか?」
ワタセ
「子どものころは、ボクもこんなことはしませんでした。」
隠密
「大うそだな。」
左近
「自分を守るためのウソや他人を傷つけないためのウソは大目に見ることにしているが・・・」
ワタセの表情が明るくなった。
ワタセ
「じゃ、じゃあ、ここから出してもらえるんですね。」
左近
「ワタセさんは、ミエルさんを落とし入れるウソをつきすぎたから、ゆるさないぞ。
おれは、ワタセさんはここで働いてもらう方が良いと思うぞ。 卑怯者のことはワタセさんのような卑怯者が一番よくわかるだろう。」
ワタセ
「いやだあ。 ここから出してくれ!」
左近
「そこまで言うなら、出してやろう。 だが、後悔するなよ。」
ワタセ
「しませんよ。 感謝するかもしれませんが。」
ワタセ こころの声
『ここを出たら、こっちのものだ。 拉致監禁罪、傷害罪で訴えてやる。』
左近
「最後に食べたいものはあるか? 好きなものを食べさせてやるぞ。 最後の晩餐だ。」
ワタセ
「ありがとうございます。 それでは・・・」
ワタセは残った右腕で料理を食べながら、復讐を誓っていた。
ワタセ こころの声
『目も耳もある。右腕が有れば文字が書ける。100倍返ししてやる。』
◇
左近の取調室から出ることになったワタセだが、目の前にはポイズン毒スライムの生息する毒沼があった。
ワタセ
「ここは、ミエルさんが危険だと言っていた。 ポイズン毒スライムは分裂するし、皮よろいや革靴も溶かしてしまう、と。」
左近の隠密
「ミエルさんは、あまあまですね。」
左近の護衛
「砂糖で作った綿菓子よりも、はるかに甘いですね。」
左近
「本当にな。 ワタセさんがポイズン毒スライムを捕獲する依頼を受けようとしたときに止めなければ良かったのに。 そうすれば、ワタセさんは苦しまずにあの世に行けたんだ。」
ワタセ
「えっ? えっ? 逃がしてもらえるんですよね。」
左近
「ああ、逃がしてやるよ。 あの毒沼の中にな。」
ワタセ
「そんなことをされたら、溶けて消えてしまう。」
左近
「そうだろうよ。 なんども繰り返すが、地獄はあるんだよ。 この世にもな。」
ワタセ
「それは、どういう意味ですか?」
左近の護衛
「わたしが代わりに説明してもよろしいですか? 左近様。」
左近
「ああ、頼む。 少し疲れた。」
左近の護衛
「あのポイズン毒スライムを捕獲する依頼はな、給料の相場、つまり、これくらいの仕事をしたら、これくらいの金がもらえる。 それより高すぎる儲かる仕事は、自分が主人になって大きなお店をするか、悪事しかないと分からないバカを釣るための餌だ。 多くの者は依頼を受けても、危険を感じて失敗報告をする。」
左近の隠密
「しかし、金に目がくらんだバカは、それでも逃げずに一獲千金をねらおうとして、溶けて消えてなくなるのさ。 まさに、この世の地獄だよなあ。」
左近
「ワタセさんがバカにしていた、みやびちゃんでさえ、手をださなかった依頼だよ。
ワタセさんは、ミエルさんに助けられたと感謝するべきだった。 その恩を仇で返したからこうなったんだ。
あまり好きな言葉ではないが、自業自得だな。 もしも、生まれ変わるなら、今度は良い奴に生まれ変われよ。 じゃあな。」
左近は、ワタセをポイズン毒スライムの毒沼に放り込んだ。
ワタセ
「ぎゃあああーーーー。」
ワタセは溶けて消えた。
左近
「悪人にはもったいないが、祈ってやるよ。 王真加勢陀。」
左近たちは、ワタセから聞き出した情報を元に、ミエルの名誉回復、汚名返上を図ろうとした。
しかし、ミエルの落ちた評価は戻らなかった。
左近
「みやびちゃんが困らないように、引き続き見守ってやってくれ。」
左近の隠密
「はっ。」
左近の護衛
「はっ。」
◇
ギルドマスターは、医者と看護師の長を追放して、他のギルドに転勤させた。
しかし、ふたりが新たな赴任先に着くことはなかった。
ギルドの医者
「ここを去る前に、ポイズン毒スライムを捕獲して、荒稼ぎしよう。」
看護師の長
「ですが、この依頼は止めた方が良いのでは? それに私たちは冒険者登録をしていないから資格がないですよ。」
ギルドの医者
「心配するな。 ギルドマスターに餞別の代わりに金を稼がせろと言ったら、不服そうだが賞金を出すと言わせることが出来た。」
看護師の長
「そうなのですか? じゃあ、大儲けですね。」
ギルドの医者
「ああ、我々の医療の知識が有れば、ポイズン毒スライムを捕獲するくらい朝飯前だ。」
ふたりは金に目がくらんで、ポイズン毒スライムを捕獲しようとした。
しかし、ポイズン毒スライムをつぶしてしまい分裂させてしまった。
ギルドの医者
「おお、ラッキーついてるぞ。 コンボで簡単に上限個数の10個を達成できそうだな。」
看護師の長
「ええ、最後にひと儲けできるなら、転勤も悪くありませんね。」
2人は油断して、ポイズン毒スライムを切ってしまった。 毒液が目に入って見えなくなったときに、ポイズン毒スライムに毒沼に引き込まれて、溶けて消えてしまった。
遠くで様子を見ていたギルドマスターは、頭をかきながらヤレヤレとぼやいた。
ギルドマスター
「医者と看護師の長ともあろう二人が、そこらにいる考えようとしない小悪党と同じレベルだったとはな。
学力が高いことと賢いことは別物のようだ。 みやびさんの方が賢いんじゃないかと思えてきたよ。」
ギルドの医者と看護師の長は、行方不明として処理された。
ポイズン毒スライムを捕獲する依頼を受けた記録は残っていないので、道中で盗賊に殺されたか仕事を放棄して逃亡したかのどちらかだろうと推測された。
受け入れ予定先は、ふたりを受け入れることをイヤがっていたので、ふたりを探そうとはしなかった。
◇
神の部屋
王真加勢陀
「うわ、これはまた、極悪人の魂ですね。 だれも欲しがらないから、最下層に落としましょうか?」
ドンドンドン、ガンガンガン とドアが殴られて蹴られた音が響いた。
王真加勢陀
「だれですか? なにをするのですか?
ゲッ? 未来知見の女神ミサキ様。
いかがされましたか?」
王真加勢陀 こころの声
『だ、だれが何をしたんだ。 愛と美しさの女神 イウラ様とケンカしたときとは比べ物にならないほど、怒り狂っていらっしゃる。』
未来知見の女神ミサキ様は、かすかな笑顔を向けてきた。
未来知見の女神ミサキ
「ねえ、王真加勢陀。
久しぶりに生け花をしたくなったのよ。
生け花の剣山替わりになる刺々しい魂をゆずってくれないかしら。
ひとを落とし入れるウソをついて悦に浸るような愚物の魂を売って欲しいわ。」
王真加勢陀
「いま、手に入ったばかりの魂がお気に召せば幸いです。
も、もちろん、ダメでしたら、他のも探しますが・・・」
未来知見の女神ミサキ
「あら、使いやすそうね。 これを頂戴な。
どれくらいの神力を払えばよいかしら?」
王真加勢陀
「今回は、プレゼントさせていただきます。 よって、お代は頂きません。」
未来知見の女神ミサキ
「それは、ダメね。 じゃあ、相場の神力を支払うわ。
それでいいわよね。」
王真加勢陀
「毎度ありがとうございます。」
ミサキは帰って行った。
王真加勢陀 こころの声
『あ、あの魂はいったい、どんな極悪人なんだ。』
◇
未来知見の女神ミサキの部屋
ミサキ
「さてと、わたしの可愛いミエルに、よくもやってくれたわね。」
生け花の剣山、じつは、情報伝達師 ワタセのたましい
「ぎゃああああ。 ぐああ、い、痛い。かゆい、気持ち悪い。」
ミサキ
「剣山が声を出すな。
いいか、愚物には地獄でさえ生ぬるい。 たとえ、動物プランクトンであろうと、転生なんか許さない。
完全に消滅するまで、生け花の栄養素になってもらうわ。 すりごまのように磨り潰して、一滴たりとも残してもらえると思うな。 わずかな粒子でさえも残さないからな。 覚悟しなさい。」
その後、ミサキの部屋の入り口には、美しい生け花が150年ほど飾られたのであった。
ミサキ
「ここまで赤い花が咲くことはめずらしいわね。 性根まで腐り果てた愚物のたましいで作った剣山だからかしらね。」
ワタセの魂は150年経って、ようやく消滅することが許されたのだった。
ナレーション
みんなも地獄に落ちないように気を付けてね。
人を落とし入れるウソは絶対にダメだよ。
第5章 情報伝達師 ざまあ
終わり
【読者様へ】
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