36 みやびが分からないこと
ギルドを運営するための表というか光の責任者がギルドマスターだとしたら、ギルドの裏というか闇の責任者は【大親分 左近】である。
大親分 左近
「おまえら、そのミエルという者が何かをしたとしても、大勢で寄ってたかって、ひとりを攻撃するのはただのリンチだ。暴行罪、傷害罪、名誉棄損、侮辱罪、そして、最後は殺人罪だ。おまえら、全員が正犯、共同正犯だ。ギルドマスターが注意しないから大丈夫ではないんだぞ。 ああ、分からねえのか?」
先ほどまで、あれほど、元気よくミエルを責め立てていた連中が下を向いて動きを止めて、静かになった。
ミエルのそばに駆け寄ってくる美しい女性の姿があった。 【武闘家みやび】だ。
みやび
「ミエル、まちくたびれて、寝てしまったのか? さ。」
ミエル 目がうつろで、焦点が合っていない。
「みやび、行かないで。 ワタシが話して楽しい唯一の人。」
みやび
「ゆいのひと? ミエルは、みやびの恋人。 わすれちゃ、ダメだよ。」
大親分 左近は、ミエルの状況を瞬時に判断した。
左近
「おい、ミエルさんを部屋で寝かせてやれ。 護衛に3人ついてやれ。 油断するな。」
大勢の姿に隠れて、ゆっくりと外に出ようとした姿があった。
左近
「どこに行く? ワタセさんには、ここにいてもらうぞ。」
ワタセ
「いえ、トイレに行きたくて。」
左近
「ここでしろ。 もちろん、壁を作って隠してやるから、安心しろ。」
ワタセ
「いえ、大の方でして。」
左近
「それでも、ここでしろ。 バケツも用意してやる。」
ワタセ
「そんな、プライバシーの侵害だ。」
左近
「トイレから逃げるつもりだろうが、そうはさせんぞ。」
ワタセは、左近が連れてきた護衛ふたりに取り押さえられた。
ワタセ
「くそっ。」
左近
「ああ、大の方だったな。 待っててやるぞ。」
護衛
「おなかを触りましたが、動きが有りませんね。」
ワタセ
「お前らのせいで、ひっこんでしまったんだよ。」
左近
「じゃあ、おとなしくして、静かにしていろ。
みやびちゃん、待たせたな。
みんなに聞いてほしいって言っていたよな。」
みやび
「うん、大親分さん、ありがとう。」
ギルド内にいる大勢の視線と聞き耳が、みやびに向けられた。
みやび
「わたし、わからないことがあるさ。」
左近
「なにが分からないだい? みやびちゃん。」
だれかの声
「みやびはバカだからだろ。」
みやび
「そうだよ。わたしはバカさ。だから、だれにもパーティーの仲間に入れてもらえなくなった。」
だれかの声
「そりゃあ、バカのみやびをパーティーに入れたら、ダンジョンでやられちゃうからだろ。」
みやび
「わたしは、お金の計算もできなかった。」
だれかの声
「買い物に行かせたら、おつりをごまかされて、損して帰ってくるからな。」
みやび
「みんなはミエルがみんなをバカにしたって言うけれど、ミエルはみんながバカにするワタシのことをバカにしなかった。 わたしの女友達もミエルとパーティーを組んでから、仲良く話をしてくれるようになった。 そして、ワタシが幸せそうに見えるって、喜んでくれているさ。」
左近
「みやびちゃん、なにを言いたいのか、分かりやすく言ってくれるかい。」
みやび
「わたしは毎日毎日ミエルといっしょにいるけど、イヤな気持ちになったことはないさ。
ミエルはわたしを大事にしてくれる。 そんなミエルがみんなにひどいこと言ったり、バカにすることを言うなんて、おかしいさ。」
だれかの声
「そういえば、確かに、そのとおりだ。 それに、ワタセさんが来る前は、ミエルさんがだれかをバカにした話なんてでなかった。 みやびさん以外でミエルさんと会話したことがあるひとは、ワタセさんだけ。 そうだよな。 みんな。」
大勢は、そうだそうだ。と返事をした。
みやび
「そこにいるワタセさんが来る前は、ミエルに悪い話はでなかったさ。 だから、わたしは、ワタセさんがなにかしたか何か言ったから、ここにいるみんなが変になったと思うさ。
ワタセさんが来てからミエルの話し相手ができて良かったと思ったけれど、ミエルが元気を無くしたのもワタセさんが来てからさ。 だからさ、わたしは、バカだから分からないけれど、ワタセさんが来てから、ミエルとみんながケンカになったと思うさ。 ワタセさんはミエルになにをしたさ? なにを言ったさ。」
左近
「みやびちゃんの言いたいことは分かったよ。」
みやび
「大親分さん、ミエルを助けて。」
左近
「ここからは、おじちゃんにまかせな。」
ギルドの医者
「いいえ、ひどいことを言われたのは、ワタセさんです。」
左近
「本当にそう思うのか?
医者の先生に真実を教えてやれ。」
左近の部下の隠密
「 ミエルさんは、こう言ったのですよ。
「いちいちワタシに質問しなくても、ワタセだけでなくギルドのみんなも自分で調べて分かることだと思うよ。 ワタシも多くの時間を使って得た答えだからね。 ワタシにあまえたら、みんなが経験値を稼ぐ機会というかチャンスを奪ってしまうことになって良くないよね。 どうだろう? みんながレベルアップする邪魔をしないようにするためには、お金を取るよ!とか言った方が良いのかなあ。 ワタセは、どう思う?」
それを、ワタセさんが悪意帰属バイアスで、医者の先生に変換して言ったのです。
ワタセ
「「いちいち質問しないで自分で調べたらどう? ワタシの時間はタダではないからね。 ワタシにあまえすぎだ。 今度からは金とるぞ。」 と言われたんです。」」
さらに、医者の先生はワタセさんを信奉するあまりに、さらに悪意変換しました。
ギルドの医者
「ああ、そうだ。 あなたも知っているミエルさんがワタセさんに、こう言ったらしい。
馬鹿か自分で調べろ。 ワタシの時給は1万バーシルだぞ。 ワタシが金を取らないからって、調子に乗らないでよ。」
これが真実です。」
左近
「遊びの伝言ゲームで、伝言が正しく伝わらないことは知っているが・・・
悪意が加わると、ここまで変わるのだな。」
看護師の長
「ですが、わたしは正しく調べました。」
左近の部下の隠密
「 ミエルさんに対する悪意と嫉妬を多くの人が持っていたため、あなたの調査は人々の願望でねじ曲がってしまったのですね。 ミエルさんの足を引っ張って引きずり落としたいという欲求が理性を殺して、ミエルさんを消すための手段に変わってしまったのです。」
看護師の長
「そ、そんなことって、ありえますか?」
左近
「うわさを使ってひとを社会的に抹殺する常套手段というか、よくある手くちだろ。
ほかに報告することは有るか?」
左近の部下の隠密
「 言葉として発せられた分は調べることができました。 しかし、ワタセさんのこころの中については調べられませんでした。」
左近
「まあ、そうだろうよ。 こころの中でなにを考えようがなにをしようが自由だ。 だがな、それを実行にうつしたら犯罪になることが多いなあ。 ワタセさん、俺と腹を割って、ゆっくりと話をしようか? なあに、三日三晩も飲み明かせば、仲良くなって色々と聞かせてくれるようになるさ。 こう見えて俺は、聞き上手だからな。
おい、ギルドマスター、ワタセさんの身柄は俺がひきとる。 文句はないな。」
ギルドマスター
「お手数をおかけしてすみません。」
左近
「医者の先生と看護師の長については、ギルドマスターに頼みたい。」
ギルドマスター
「もちろんです。 さあ、ふたりとも、俺の部屋でくわしい事情を聞かせてくれ。」
医者の先生と看護師の長は、ギルドマスターに連れられていった。
ワタセは、【大親分 左近】の護衛と隠密に連行された。
左近の護衛
「ワタセさんをご案内する個室には、専用のトイレがあります。 ご安心ください。」
左近の隠密
「安心して、もらしてくださいね。」
ワタセ
「えへっ、えへっ。」
ワタセはひとを落とし入れる悪知恵が働くくらい賢いがため、これからの自身の運命を悟って、精神に異常をきたしていた。
みやび
「大親分さん、ミエルを助けてくれて、ありがとう。」
大親分 左近
「かわいいみやびちゃんの頼みだからな。 おじちゃんを頼ってくれて、いい子だねえ。」
みやびは、うれしそうな笑顔を大親分に向けていた。
大親分 左近 こころの声
『みやびちゃんには言えないが、俺では、ミエルを助けることができなかった・・・
出る杭は打たれるというが打たれ過ぎた。 ミエルは大賢者であるのに、並の人以下になるまで打たれてしまった。 みやびちゃんの幸せを考えると、よそに行かせるほうが良いのだが、離れたくない。
どうしたものか?』
つづく
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