第一話:バグのないプログラムは存在しないと言うけれど…
短編にするつもりがどんどん筆が進んで全五話の作品になりました。一話あたり五分程度のものになりますので気軽に読んで頂ければと思います
「あんたイベントのときだけローポリになりやがってキモいのよ!スチルの時みたいにきれいなビジュアルになりなさいよ!」
「ろーぽり?すちる?何のことだ!そんなことよりも父上にまで色目を使うなんてなんて女だ!」
私の名はシャンネ、多分この世界における悪役公爵令嬢で、ここはきっと私が断罪される予定の王立学院の卒業パーティー会場…で合ってるのかしら?
そして見栄えの良い階段の踊り場でピンク髪の女性が男性の胸ぐらをつかみ、男性はピンク頭の髪を掴んで醜い争いを繰り広げているのは
主人公と攻略対象の王子じゃないかしら?ローポリと雑なテクスチャのせいでモンスターにしか見えないのだけれどね
私一切関係ないので帰りたいのですけれど…
(そうね私達関係ないものね…帰っちゃいましょうか)
ようこそ!ここは伝説のク◯乙女ゲー『アナタと雪の彼方へ』の世界別名『アナゆ…『アナカナ』、略称からして某大ヒット映画に喧嘩を売ってるとしか思えない…でも問題はそんなことじゃないの、うんタイトルも問題なのはそのとおりなのだけれど…
事の始まりは十年前、『アナカナ』については私だって評判は知っていたし地雷を踏み抜いて笑いに昇華できるほどエリートじゃなかったから好き好んで買ったりしなかったわ。でもね私はソフトを手元に置いておきたい派だったの、でね私世にいうブラック…とにかく疲れからか別の名作ゲーのパッケージに似た「それ」を手に取ってしまったの気づいたときには時すでに遅し起動してたわ…
評判の悪さから売っても二束三文、癪過ぎてプレイしたわよ!聞いてはいたけど酷すぎる
バグに次ぐバグ!ここでアニメーションでしょ!という所に二十年前でも手抜きと言われるような超美麗3DCG(皮肉)が叩き込まれる苦痛に、なにげない選択肢を間違えただけでサポートキャラが死ぬ、死ぬならまだしも選んだ選択肢次第でフリーズ、セーブも何故かセーブポイント制でセーブするにはインクリボンが必要…タイプライターの描写に無駄に力が入ってるのもムカつく、なんなの!?ゾンビ?ゾンビが居るの?これをクリアした御姉様は居たのかしら?
結局そのメーカーは『アナカナ』自体の低評価と、数々のパクリへの裁判に負けたのを最後に潰れてしまったのよね
早々にクリアを諦めて売りに行く途中で高級外車に跳ねられた
目が覚めたらその伝説のク◯乙女ゲーの悪役令嬢ポジに転生していたのよ…正直フリーズしすぎて悪役令嬢の顔は説明書でしか見て無くてどうしたら断罪されないのか、そもそもどうやって断罪されるのかも解ってないわ…でも多分定番の卒業パーティー、悪役令嬢と言えば階段落としと卒業パーティー
それが私の身に降り掛かった出来事で、この悪役令嬢が階段落ちで意識を失い一週間もの間目を覚まさなかったのだ、階段落ちはまさかの自分かい!
不思議なのは階段から落ちたのに骨折も打撲も無しそれなのに身体が動かせなかった、これって私の魂と身体がまだ馴染んでないってことかしら
こんな世界に転生させられた私だけど神様に感謝してもしたりないくらい嬉しいことも有るのよ
くりっくりのお目々にサラッサラのブロンドヘアーの天使が心配そうな顔をして部屋に入ってくる!そう前世の私は一人っ子、両親も…まぁろくでもなかったわ
「おねーたま、まだぐあいわるい?」
「もう大丈夫よクリス。心配してくれてありがとう」
6才の私と3才のクリス、ベッドに横になったままでもちょうどよい位置にある小さな弟の頭を撫でる、くすぐったいのか嬉しいのかクリスは目を細めてはにかむ、前世で荒み切っていた心が癒やされていくのが解る。
今世での私はブリリアーナ公爵家の長女、突然倒れた私にこの国の宰相を務めるお父様も、子供を二人産んだとは思えないスタイルに美貌のお母様も優しい、いっそのこと前世の記憶を消してもらっても構わないくらいよ
どうせあんな攻略不可能ゲーの記憶(しかもプレイは序盤のみ)なんて役に立たないでしょうし
そんなふうに思っていた私が馬鹿でした…
身体が徐々に動くようになってきたある日、私は気晴らしにと車椅子に乗って屋敷のルーフバルコニーへ連れて行ってもらった、流石は公爵家広大な庭園である。何人かの庭師がせっせと剪定をしている姿も見えた…が何かおかしい、私は目をこすり一人の庭師に注目した
あの庭師さんトピアリーの木にめり込んでない?めり込んだまま剪定ばさみをチョキチョキして1mほどズレた場所の樹木の葉が刈り込まれてる
「なによあの亜空間…」
他にも地面にめり込んで頭だけ出して鍬を振る農民や空中に腰掛けて馬車を操る馭者、誰も居ない所に向かって挨拶をし続けるおじさん、川の上を泳ぐ魚
「バグがそのまま反映されてる…の?」
驚愕と絶望に意識を手放しそうになる
「大丈夫ですかお嬢様?顔色が優れないようです。お部屋に戻られますか?」
そう声をかけてくれたのは私専属メイドのアン
もしかしてアンにも何か不具合が!心配になった私は上から下へとアンを凝視
「あのお嬢様?なにか私に至らぬ点が有りましたでしょうか?」
特におかしい様子は見られない。
要らぬ心配をさせちゃったわね、どうやら私が今の私になる前のシャンネはどうしてあんな優しい二人からこんな悪童が生まれたのか何かの呪いでは?と疑われるくらいとてもヒステリックで物は投げるわ適当な理由ででクビにするわで、すくすくと順調に悪役令嬢街道を邁進していたそうだ、普通はゲームの裏設定を知ると嬉しいものだけど全く嬉しくない
倒れてから目を覚ました私はすっかり大人しくなり、アンや使用人に挨拶や礼をしっかりするようになったことで周りもビクつきながら仕事をしないで済むようになりつつある
大人しくなったとはいっても、いつ又暴君になるのか心配なのでしょう、どこにスイッチが有るのか解らない上司と働くのはとても嫌よね、凄い解るわ
最初はあまりの変貌ぶりにお父様にもお母様にも心配されたわ。そりゃあそうよねどうやっても改心しない暴れん坊公爵令嬢が突然アンや使用人たちに
「ごめんなさい」
なんて泣きながらの謝罪に
「お父様お母様お願いがあります!」
と土下座して、大人になったら私が公爵家に返金する条件で今まで理不尽にクビにしてきた使用人たちへの生活費や次の仕事への保証をお願いし始めるんだもの、影では天使憑きなんて言われてるのも知ってるわ
結局は既にお父様がその辺りはちゃんとしていてくれたのでお金を借りたりしなくて良くなったのだけれど
もう当家を離れてしまった人たちへは謝罪できないけれど、会えたのならちゃんと謝りたいそんな事を日々考えて過ごしていると夢にシャンネが現れた。
連続投稿で一気に全五話投稿しますので安心して読んでいただければと思います。
前作同様いいねや評価、ブックマークやお気に入り投稿していただければテンションうなぎ登りで次作を書きますのでよろしくお願いいたします