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良識のある異世界生活を  作者: 猫の甘噛み
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僕の学園入学を祝って開かれた社交会にて。

「ふ、ふん!公爵家の私がきてやったんだから感謝しなさい!」

シャーロット・リリーが僕に話しかけてきた。聞くところによると彼女も努力に努力を重ねて僕と同じ学園に入ったらしく、これは風の噂だが、その裏には恋慕が隠れているとかいないとか。一体彼女の心を掴んだのは誰なのだろうか。こんなに可愛い彼女が一緒にいたいと思うくらいなのだから、イケメンで、優しい性格で、そりゃあ勿論学園に入ったわけだから頭脳明晰なやつなんだろう。まあ、そんな彼に僕は全く劣っていないと思うが。何せ、通りの人々の耳目を集めるほどイケメンで、そりゃあ前世で暮らした経験もあるわけだから包容力もあり、勿論学園に入ったわけだから頭脳明晰でもある。なに、劣っちゃいないのさ。僕はそうやって自分を鼓舞するとリリー、シャーロット・リリー、公爵家の愛娘に外行き用の笑顔、それよりかは少し砕けた微笑みを浮かべて社交的な挨拶をした。

「そ、そんなことより、あんた、学年一位で入学試験を突破したらしいじゃない」

ああ、そのことですか。本当に身に余る誉ですよ。ただ、リリーさん、あんたはその下の2番目だとか。

「いや、私なんてまだまだよ。同立の人が大勢いるもの。あんたは単独一位だったはずよね。それは何十年かぶりのことらしいわ」

まあ、昔っから努力は好きなもんでね。

嘘である。前世で大学に入った後、漸くこの男は勉強の楽しさを知った愚鈍なのである。

「そ、そうなの。ところで私はあの魔素のもつれっていうのがよくわからなかったのだけれど」

そりゃそうだ。この世界にはコンピュータがないのだから。僕はこう説明する。

例えばここに0と1で何でも表現できる機械があるとする。表現、と言うわけだから実世界に即していて、例えばりんごは00001かも知れない。落ちるりんごは00110かも知れない。然し、現実からも明らかなように木になるりんごと木から離れて落ちているりんごは両立し得ない。そこでそれを表現するためには一つの桁で0も1も表現するものを作ればいい。然し、普通にはそんなことできないから魔素間にもつれと呼ばれる連関を発生させる。そしてどちらかが0、どちらかが1とさせてそれを使って計算するってことだ。

「へぇ、全くわからなかったらわ」

まあ、難しいだろうな。

「実技の方はどうだったのよ」

魔法は久々に本気を出した。矢張り王族の力ってのを顕示しないとなと思ったのでな。実技は、あれはふざけているのか?あんな剣術の基礎もままならないやつになにが務まると言うんだ。

「そうね。それは私も思ったわ。何でもあの人たちは雇われの冒険者らしくって。そのそばにボードを持った人がいたでしょう。その人が雇われた冒険者との実戦を見て得点を与えたらしいわ」

そうか、冒険者か。まあ確かに品はなかったが、温室育ちの近衛騎士とは違って経験はありそうだった。

「まあ、Bランクだからまだ仕方ないわよ。Sランク冒険者であればそれこそ、近衛騎士の着実な基礎力にあの人のような経験の深さ、そこに更に才能も上乗せされるのだから私たちでは到底手も足も出ないわね」

ああ、最近僕の剣術の講師がSランク冒険者に変わったのだが、品行方正だったね。さらには基礎がしっかりしていて、然も応用された技はどこまでも無駄が削ぎ落とされたもので、その技で50mほど後ろに吹っ飛ばされた時は痛みに呻く前に「美しい」と言う言葉が出たね。

「はぁ、これだから努力バカは困るのよ。少しはあんたの身を心配している人のことを考えなさいよ」

なんだ。心配してくれているのか。

「な、なに言ってんのよ!そ、そんなわけないじゃない!あんたのお父さんのことよ!」

あ、ああ、父上ね。……そうだな、これからは我が身をもう少し大切にしよう。

「そ、そうね、それが良いわ」

辺りを見渡すとそこには僕と話したがっている人たちがたくさんいた。そろそろリリーとの会話も区切りがついたと思うので他のところに移ろうと締めくくる。

それじゃ、リリーお嬢様。また今度の機会に。

「え、ああ、ありがとうね」

リリーに背中を向けた時、後ろからこう声が聞こえた。

「そ、そういえば私たち同じ学園よね。お互い違う馬車に乗っていくのもあれだし、一緒に歩いて登校してみてはいかがかしら」

やれやれ、これだから初恋の乙女ってのは困る。そいつらは初恋の相手をある意味神聖化して近づこうとせず、安牌を取り続けるのさ。そして彼女にとっての安牌ってのが僕だったのだろう。一緒に登校するべきなのは初恋の相手であって僕では決してないのだが。断ろうと後ろを向いた時――彼女の不安げな瞳が僕を貫いた。そんな顔されちゃあ断るものも断れないと言うことで、僕はいつのまにか諾なっていて、それを聞いた彼女はいつのまにかいつもの自信ありげな顔に戻っていた。やれやれ、いつもさっきのようにしおらしければもう少し可愛げもあると言うのに。


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