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呉服店にはカップルが散在していて俺としては非道く居心地の悪いところだった。然し、シャーロットに逆らう、つまりここに来たのはシャーロットの服を選ぶためであって俺はその判定役というわけなのだが、それに逆らうというのは即ち死を意味するので俺は大人しく試着室の前で座っていた。カップルの甘言に耳を塞ぎ、只管にそこに座っていると、シャーロットが試着室から姿を見せた。花柄のワンピースを着ている。頭には麦わら帽子を被り、彼女はまるで自分が太陽の煌めくひまわり畑にいるかのような立ち姿で、そこに吹き渡る一陣の風に麦わら帽子を抑えた。俺にはてんでわからない彼女の甘い香水の匂いが鼻腔をくすぐると、そのひまわり畑には白い鳩が飛び、そしてそれは群れとなりあたりを埋め尽くし、気づいた時には俺は薄暗い呉服屋に戻っていた。
「どうよ」
そう聞いてきたシャーロットはしたり顔で、やはり感情が表情に出てしまったかと悟った俺は、努めて無表情に無機質な返事を返した。
「そう」
然し彼女のにやつきは止まらない。少々癪であるが、このまま何もかもをシャーロットの予想通りになっては立つ瀬も立たないというものだから、ひとつ、こう言ってみた。
ああ、いつも通り、可愛いよ。
すると今度はシャーロットが外方を向く番で、今度は俺が勝利の愉悦に浸るのだった。
夕暮れ。三々五々に帰りゆく人並み。俺たちは噴水にてシャーロットの迎えを待っていた。くだらない話をしながら。
「ねぇ、今日の可愛いって言葉は嘘じゃないのよね?」
ん?ああ、まあ、……そういうことになるな。
「何よ、そういうことになるって。アルが言ったんじゃない」
で、それがどうした。
「いえ、なんでもないわ」
……変な奴だな。
「アルには言われたくないわよ」
いーや、変人度で言ったらシャーロットの方が上だね。
「何よ、王族のくせして農民も通う学校に通学している、生粋の変人王族様には言われたくないわ」
それだったらお前こそ……まあいい、で、恋の方は順調なのか?
「鯉?私、魚なんて飼っていないけれど」
いや、そっちじゃなく、ほら、惚れた腫れたの――
「ああ、あれね。そうね、順調かしら?」
なんで俺に聞く。
「さあ?なんででしょう?」
そう言ってシャーロットは蠱惑的に微笑む。その表情に不覚にも脈打ってしまった俺は、もう一度彼女が俺には王族の権威を求めていると思い出して、平静を保つ。
なあ、お前なんで俺に構うんだ。
「というと?」
お前には好きな人がいて、そしてそいつは俺とは関係ないやつで、俺と絡んでいたって何にもならないはずだろ。
「……そうね。私の好きな人は、王族かどうかとかは関係なくて、とても卑屈で、でもとっても優しいイケメンだわ」
だったら――
「私は今の生活が好きよ。アルと話して、出かけて、授業を受けて……ついでにマイケルの馬鹿騒ぎも」
……そうか。俺も今の暮らしが好きだ。シャーロットのことは1番の友達だと思っている。だから、俺としてはお前に幸せになってほしいんだ。
「……友達、そうね。この先に私の望む幸せがあるのかしら」
俺は彼女に俺との決別を勧めようと口を開いた。然し、隣には彼女の悲痛な表情があって、口をつぐんでしまった。
二人の間には沈黙が流れる。俺には彼女の気持ちがわからなかった。然し、今の彼女にそれを聞いたら彼女が壊れてしまいそうで、俺の大事な友達が壊れてしまいそうで、気まずい沈黙だけが流れた。その中でも時は滔々と流れ、夕暮れはすぐに暗闇に変わり、シャーロットの迎えが来た。シャーロットはいつも通りに帰りの挨拶をしたが、俺は手を挙げることしかできなかった。




