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初回の授業は34×55の長方形を正方形で分割するというものだった。1×1の正方形を2つ使って。これにはフィボナッチ数列を使った。とまあ、説明を聞く分には簡単だった。然しこれを発明したやつはどんな神経をしているんだと思いたくなったが。まあ、そんな感じでハイレベルな教育水準のおかげで俺たちが取り残されることはなさそうだ。午後は実技だ。マイケル、先日俺と一戦交えた少年だが、そいつは幾分浮き足立っているように思える。そりゃそうだ。あいつはきっての戦闘狂なのだから。今回は1-A〜E合同で行うらしい。まあ、俺も新たな人と出会えるという点で少しは楽しみかもしれない。
実技の教官が来た瞬間に驚いた。なんと、あの、試験の時にいた大男が教官だったのだ。そいつは棍棒を右手に持ち、顎髭を摩っている。
「さあ諸君。君たちは多分この学園に驚いただろう。なんて素晴らしい設備なんだと。なんてハイレベルな授業なんだと。そんな最中で悪いが、君たちには今から俺と戦ってもらう。なに、成績には関係ないさ。ただ、俺の興味からだ。安心しろ。俺は強い。だから、さあ、心置き無く本気で来たまえ」
そう言って大男は構えた。その瞬間、この場にいる全員が理解した。この男、とんでもなく強いと。
これは多分、順番は関係ないよな。
俺は隣のシャーロットに聞く。
「ええ、多分ね。でも、一人でかかっていくのは自殺行為――」
「しゃおらぁぁぁ!やってやんぜぇぇぇ!」
一人、馬鹿が、戦闘狂が駆けて行った。無論、マイケルのことである。
「はぁ、あの馬鹿は……」
まあ、あの男の実力を知れるかもな。
マイケルの拳が大男の間近に迫った時――
ふっと、大男が消えた。
瞬間、轟音が響くとマイケルは実技場の壁に高速で叩きつけられた。
「マイケル・キーナーと言ったか?お前の攻撃はまず単純すぎる。そんなんだから王族のおぼっちゃまに太刀打ちできないんだ」
いつのまにか少しズレたとこにいた大男はそう説く。
その一瞬を見て周りの緊張は一気に絶望に変わった。
この男、強すぎる。
ただ強いだけではない。
この男はギリギリまで攻撃になんの反応を示さないことによって自分の攻撃の予測を相手にたたせなかったのだ。
頭も良い。
その中で、俺は一人昂っていた。
この感触、あの人を思い出す。この圧倒的なまでの強さ、そう、ケインさんと対戦した時はいっつもそうだった。
「ちょつとアル、何笑ってんのよ」
いや、なに、あの人を思い出してな。
「あの人って、ああ、あのS級冒険者ね。全く、あんたもマイケルと同類なのね」
なあ、俺たちでどこまで行けるか試したくないか?
「はぁ?正気?」
ああ、本気だ。
「……まあいいわ。私も丁度あの男の余裕そうな表情を崩してやりたいと思っていたところなの」
「……こんにゃろぉぉぉ!」
マイケルが立ち上がってもう一度大男に向かっていく。
然し、結果は同じだった。
大半は物おじし、数名はマイケルに加わっている。
そんな中、俺とシャーロットは作戦会議をしていた。
「まあ、そんな感じでいいんじゃないかしら」
よし、じゃあ早速決行だ。
「まあ待ちなさい」
どうした?
「あいつに勝つためには環境も利用した方がいいわ」
環境?
マイケルの拳が今度も虚空を掠める。そして大男が後ろから棍棒を振り翳した時、大男の目前には足があった。
「ぬぉ!」
大男は間一髪で避ける。
やっぱりそううまくはいかないか。
俺はすかさず拳を入れるが、それも避けられる。
「ほう、この馬鹿を使ったか」
ええ、使える環境は使った方がいいのでね。
「その心意気や良し!」
おいマイケル。こいつの避けるパターンは全て頭の中に入れた。だから後ろは俺に任せてお前は精一杯やれ。
「……そうこなくっちゃな!相棒!」
俺はいつお前の相棒になったんだ。
マイケルは渾身の蹴りを見舞う。
「だが、甘いな……」
マイケルの蹴りは大男に近づき、俺はパターンに基づいた大男の回避位置に拳を振るう。
「そのパターンが作ったものだとしたら?」
大男はパターンと違う回避行動をして、マイケルを吹っ飛ばした。
おいおい、こう見えても数百のパターンを覚えたんだぜ。そりゃないだろう。
迫り来る棍棒を前にそう思う。
多分、誰もが俺の敗北を予測しただろう。
そう、俺の敗北を。
刹那、大男の前にブラックホールが現出した。
「おおっと!?」
大男は俺と距離を取る。
「残念ね。それも想定済みよ!」
遠くで魔法を撃ったシャーロットが宣言する。
「へぇ、そこまで考えてのことか」
大男は不敵に微笑む。
大男の足元から草木が生える。
「おっとっと、拘束魔法も習得済みとは。こりゃ今年は粒揃いだねぇ」
大男はもちろんそれを避けるわけだが、そこに出る一瞬の隙も見逃さず、俺は距離を詰め拳を入れる。
「へぇ、連携もできると。……よし!お前ら!合格だ!」
そう宣言すると急に体の力が抜け目の前が暗くなった。
これは手刀を入れられたな。なるほど。あれでもまだ本気ではなかったと。
俺は大男の強さに呆れながら意識を手放した。




