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自分に死が訪れるとはついぞ思いあたりもしなかった。誰かの葬式を見てもそれは誰かの死であって、たとえ祖父祖母が死のうとも、涙は頬を伝ったが、それが自分に降りかかるなんて思ってもいなかった。だが、実際、僕は死んだのだろう。或いは死ぬのだろう。痛覚は頬を撫でる薫風の心地よさのように変わり、周りの喧騒はくぐもっている。僕は一声呻くとこの世との決別を決意した。――
何か、目を閉じているような感覚がする。優しい声が僕の耳の存在を自覚させる。柔らかなお日様の匂いが僕の鼻を満たす。瞼を開けると、木目が見えた。体が下に引っ張られているような気がする。頭が涼しいような気がする。僕はその感覚の正体が気になって首を回してみる。すると、横には木組みの柵が見えた。僕はその景色にどういうことだと言おうとした。しかし、何故か呂律が回らず、呻いているようになってしまった。すると、上から綺麗な妙齢の女性の顔がのぞいた。僕は驚いて声をあげる。すると、その女性は微笑みを湛えた。僕は気づいた。自分が赤子だということに。
あれから月日は流れた。あれから、というのは僕が赤子だった頃からだ。いやはや、年月とは短いもので、乳飲子を卒業したと思ったらすぐにここまで老いてしまった。まあ、これを読んでいる皆さんよりかは若々しいのだろうが。そんなピッチピチな僕であるが、最近は家庭教師の下で剣術、魔法の授業に励んでいる。そんなことを聞くと矢張り読者の中にはやれやれ、剣術などという古臭い技術、今では何の役にも立ちませんよ、ましてや魔法なんてオカルトの分野ではありませんか、という人がいるかも知れないが、驚くこと勿れ、いや、そんな人の話に否定から入る因循姑息な人間は仰天して首を折った方が世のためだろうから是非とも仰天していただきたいのだが、そんなことを言っておきながら一番驚いたのは僕なのだが、この世界には魔素というものがあり、また、魔物もいて、戦争もひっきりなしに起きていて、兎に角、そういった技術は重用されるのだ。試しに一つ魔法を見せてやろう。これが――ファイヤーボールだ。ほら、確かに落ちたところの芝が燃えただろう?まあ、こんなことをすると庭師が飛んできて僕に説教するのだが。ほら来た。
「おぼっちゃま!我々の仕事を増やさないでください!――」
まあ、そんな説教には耳を塞ぐとして、僕はこれ以外にも水、土、雷、木属性の魔法が使える。これは全く自慢ではないのだが――いや、全くもって自慢の範疇を出ないのだが、さっきのファイヤーボールができれば大体「学園」という、いわば前世でいう高校みたいなところ、然し選りすぐりのエリートしか入れないらしいが、そんなところに入れるレベルだというから、僕はアインシュタインを超過する天才なのだろう。と、アインシュタインとある意味で比肩される、つまりこれは馬鹿と天才は紙一重という言葉に則っているわけだが、僕の自慢はまだ続くわけで、これにはどんなに僕を尊敬している人でさえ血相を変えて逃げ出すだろう。で、その自慢というのが先ほど言った属性についてである。実は、二属性でも大変珍しいらしいのだ。そりゃあ、5属性の僕っていったら……わかるだろう?本当は光属性と闇属性もあるという噂を聞くが、これはそもそも発現者が少なく、教える人が見つからないらしい。ところで剣術はまずまずである。良くもなく、悪くもなくという感じだろう。最近は相手が先生一人から先生二人に増えたが。