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プロローグ
「危ない!」
兄の声が聞こえて、横から覗く大きな影に気がつく。横を向くと、信号無視の大型トラックがこちらに突っ込んで来ていた。
トラックと接触する寸前、兄が私を押す。そこからの惨劇は、あまり覚えていない。
生温い感覚。下半身の感覚がない。意識が霞んで前がよく見えない。
手。
これは、兄の手だ。
「おに、ちゃ、」
呼んでも返事はない。
周りが騒がしい気がするけど、音が遠くてよくわからない。
頭が、まわらない。
これで死ぬ、そう悟った。
せめて、最期は、
兄と、一緒に。
手を伸ばす。
兄の手がそこにあるのに、届かない。
____届いて。届いて。お願い、届いて。
そんな想いは虚しく、
私はとうとう、力尽きた。