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悪魔に喝を入れよう


「ほう、あちらはかたがついたようですね」


 私と刃を交えるヒビは感心するように言った。


「それはつまり、もうすぐアナタの終わりでもあるわけだ」


「さて、どうでしょうね」


 私が刀でヒビを弾くと彼女は姿を消す。正確には、私ですらそう錯覚させる速さで移動を始めた。


 私は超光速で動くヒビの動きを目で追う。



 右!



 私は右側へ振り向いて、ヒビの斬撃に水平斬りで応戦した。


 しかし


「うっ!」


 僅かに身体が硬直させられたせいで防ぐことができなかった。お腹から肩にかけてをザックリと斬られてしまう。


「おどろきですね。わたしのめをみてもいっしゅんのこうそくですむとは」


 私の即座の反撃も硬直させて回避しながら、ヒビは間合いを離した。


「ゴルゴーンの目か! 厄介な!」


「このからだにもなれてきました。めのちからもかいきんです」


 ヒビは私に対して鋭く視線を向けてくる。私は未来視で硬直を回避すると、回り込みながら接近を測った。



 硬直させられるより早く仕留める! 



 私は瞬間移動で一気に距離を詰めると、最短最速で目に突きを狙いにいった。


 が、私の突きは届くことはなかった。蛇に変化した髪の毛が、私の突きを絡め取ったのだ。


「ざんねんでした」


 すると私の頬がなにかに引っ叩かれる。死角から箒で殴られるような一撃により、私は吹き飛ばされた。


「いかがですか? わたしのモフモフもなかなかのものでしょう?」


「尻尾も髪の毛も自在に操れるってわけか。厄介ね」


 私は受け身を取って起き上がると、何をされたのかの把握に努める。尻尾が9つで髪の毛も9つ。両手と合わせると手数が厄介ね。


「さあ、どうやってわたしをたおしますか?」


「負け惜しみを言っておくけど、コレはあくまで時間稼ぎ。私は本命じゃないのよ」


「ほんとうにまけおしみですね」


「だから」


 私は刀を鞘にしまい、カチリと音を立てて納刀した。


「作戦会議のために、しばらく動けなくしてあげる」


 私は『振らずの太刀』でヒビの身体に無数の太刀を放った。


「くっ、じんたいやかんせつをねらってくるとは……しかし、このていどのきずならば、すぐに回復させることができます」


「でしょうね。だからそれまでに本命を用意しておくわ」


 私はそう言うと、アーサーたちに合流しに向かった。





「んで? どうやって助ける?」


 異空間から黒剣を取り出しながら、ルキウスが僕たちに尋ねてくる。さっきミラーワールドに置いてきたのにすぐに取り出せるのか。便利だな。


「おめぇさんと一緒さ。ぶん殴って連れ戻す」


 清田さんは拳を握りながらそう言った。しかしその拳は腫れ上がっており、もう一発も殴れそうにない。


「いや、ユアに殴るのは通用しねえ。アイツはしょっちゅう両親に殴られてたみたいだからな。むしろ恐怖の対象だ」


 サラッと重たいことをルキウスは言ってくる。いくら愛のある拳でも、常にそれに晒されてきた子には効果はない。こういうのは、普段手を上げられないからこそ意味があるのだ。


「とりあえず、有希の所まで行こう」


「そう言うと思って、むしろこっちから来たわ」


「どわっ⁉」


 僕は背後からの有希の声にびっくりする。


「いつの間に! ヒビを放っておいて大丈夫なの?」


「平気よ。それに、迂闊に近づくと石化させられてしまうわ」


「あの蛇女。んなことができるのかよ」



──ふふっ、わたしをたおすにはのっとったからだごところすしかほうほうはありません。そして、ふういんするにはたいまのちからがひつようです。よって、あなたたちではわたしをとめることはできないでしょう。



 僕たちの脳内にだいぶ流暢になったヒビの声が聞こえてくる。


「つまり、それ以外の方法なら助ける術はあると。愛の力を舐めるなよ。必ずユアさんをお前から救い出してみせる」


「王様、今の聞こえてないぞ」


「あっ」


 僕はかっこつけがただのひとり言になことに気づいて赤面する。くそっ、早くきちんとテレパシーを使えるようになりたい!


「でもこういうのって、愛情表現で本人の意識を引っ張ってくるのがベタよね。だからルキウスくん? 思いきって告白でもしてみたら?」


「そ、そんなことできるわけないだろ!」


 ルキウスは露骨に動揺してみせる。コイツ、初心だな。


「だからこそじゃない。ここは1つ、男気を見せなさい」


 有希は状況を楽しんでいるのかニヤニヤしながら言った。


「この悪魔め! だけど……それしかない!」


 ルキウスは涙目になりながらも覚悟を決める。顔を赤くしつつも表情を引き締めた。


 だが



「あれ?」



 突如として剣を放り出し、地面にへたり込んでしまった。


「おい! どうした!」


「どうやらさっきの暴走で力を使いきっちまったみてえだ。だから頼む、物理的にも力を貸してくれ」


「けど、もうあんまり力残ってないぞ!」


「ワシは余ってるが、正直雀の涙だ」


「ってことは」


 僕たち男どもの視線が有希に注がれる。有希はそれに嫌そうな顔をしながら



「え〜、嫌なんだけど」



 と、露骨に拒否してきた。


「そう……だよな。殺しに来た相手にこんなこと頼むのはおかしいよな」


 ルキウスは自嘲するような口調で呟いた。その顔はがっかりといった様子でこちらの同情を誘ってくる。


「さ、流石にここは力を貸したほうが……」


「そうさな。できればここは……」


 僕と清田さんは咄嗟に彼のフォローに回る。


「そうは言うけどね、バフをかけるには好感度が高いことが条件なの。私は、関心のない男を無理やり好きになれって言われてるこの状況がイヤなだけ。別にユアさんを助けることがイヤなわけじゃないの」


「そんな条件が……なら、僕が有希のバフをかけてもらって、それを僕がルキウスにかけるのはどうかな?」


「それならまあ……ただ、アーサーってバフかけられるの?」


「コツを教えてくれれば」


「いや、それならワシに心当たりがある。王様耳を貸してくれ」


 清田さんが僕にゴニョゴニョと耳打ちしてきた。なるほど! このやり方は理に適ってる!


「これなら行けそうだ! 有希、僕にありったけの愛を注いでくれ!」


「オッケー!」


 ホイっと有希が手を僕にかざすと、もの凄い勢いで力が僕の体内に入ってきた。


「さあ王様! 思いっきりやったれ!」


「はい!」


 清田さんからの激励を受けた僕は跪いたルキウスの背後へと回った。


 そして



「ユアさんを救ってこい!」



 全力で背中をバン! と叩いた。



「いってええええ!」



 ルキウスが叫び声を上げながら悶絶する。


「コレが地球流のバフのかけ方! 背中を叩くだ!」


 僕は全力で叩いた手のひらに息を吹きかけながら、自らの行動の説明をした。


「てめぇ覚えてろよ! ……ああでも、力がくっそ漲ってきやがった!」


 ルキウスはそう言うとスクっと立ち上がった。身体からは、黒い然気が漏れ出ている。


「じゃあ、行ってくる!」


 ルキウスは地面に落としていた剣を手に取ると、振り向くことなくヒビの下へと向かっていった。

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