聖剣に潜む生き物
「なあアレ? 一体どうなってんだ?」
「炎とか光とか本当に出してるの?」
ワシたちがモニターを確認していると、観客席から疑問の声が聞こえてきた。そういや、然気の存在はトップシークレットだったな。
「どうする? なんとか誤魔化さないと不味いぞ」
どうやら華も事態の危険性に気づいたらしい。円卓の騎士たちに相談をしている。
「よし、私に任せろ」
携帯を覗いていた瞳ちゃんが、マイクを持って舞台に立った。
「ええ〜聞けお前ら! 実はこのモニターの映像は、すべて事前に用意してあったものだ! 私たちが特殊なエフェクトを噛ませてかっこよく演出している!」
「じゃあ、さっきまでのは!」
「そう、私たちが作ったシナリオだ! しかし、その勝敗はお前たちの応援次第で変化する。好きな方を応援しろ! これこそが私たち『円卓の騎士』の出し物だ!」
よくやった! 瞳ちゃんらしくないが、コレで少しは疑問を払拭できる!
ワシは舞台の様子を確認する。客たちは疑問を完全に捨てたわけじゃないが、ひとまずは納得をしてくれたみたいだ。
「じゃあみなさんに聞きます! 有希さんに勝ってほしい人!」
「おおおお!」
すると、加勢するようにおっぱいのでかい子が扇動を始める。そしてその声に続くように円卓の騎士たちが雄叫びを上げた。おい、円卓の騎士全員が声上げてんじゃねえか! 反対側に上げるやついるのか?
「それでは、ユアさんに勝ってほしい人!」
「おおおおおお!」
だがただ一人、辺りが沈黙する中で声を上げた男がいた。メガネをかけ草みたいな髪型をしている男だ。なんという男気! 我を通すさまはまさに漢よ!
……仕方あるめえ。ここはワシも人肌脱ぐとするかい!
ワシはナインのトーク画面を開き、野郎どもに連絡を取った。
「聖剣の覚醒?」
僕はルキウスの言葉を聞き返す。そんなことができるのか?
「そうだ。まあ、解説するより実際に体験した方が早え」
ルキウスは聖剣に手を乗せる。そして
「おいトラ! 出番だ!」
と、怒鳴りつけるように聖剣に声をかけた。何してんだこいつ?
? ????
目の錯覚か? 僕の目にはルキウスの剣から虎の姿が見えるぞ?
僕は目を凝視したり擦ったりして確認する。しかしどう見ても、剣から黒金の虎が透けて見えていた。
「見えてるか? コレが聖剣の覚醒だ。聖剣には、持ち主に相応しい個性を持っているんだ。オレはどうやらトラを手懐けることが『オレらしい』個性らしい」
すると、ルキウスの剣から見えていた虎の姿が消えた。それに果たして意味があるのか? 僕にはその必要性がまったく分からない。
「個性についてはなんとなく分かった。けど、それを覚醒させる必要性が僕には分からない」
「気が早えな。言ったろ、体験させてやるって」
ルキウスはそう言うと剣をこっちに向けた。コイツ、よく分からないまま戦闘を再開させる気かよ!
僕も急いで剣を構える。
「戦闘を再開させたら分かるのか?」
「ああ……嫌ってほどにな!」
ルキウスはそう言うとバカ正直に突っ込んできた。しかももっと早く動けるだろうにゆっくりとだ。こんなの、防いでくれと言ってるようなもんじゃないか。
ゾクッ
いま一瞬、身体中の毛穴という毛穴が開く感覚がした。なんだ……⁉
何か、迫ってくる!
僕は目の前のルキウスに初めて恐怖心を抱いていた。いや違う。僕が恐怖を抱いたのはその聖剣にだった。
「ボケっとしてんじゃねえ! 死にてえのか!」
ルキウスは僕の迫りながら怒鳴りつける。そうだ! 受け止めなくては!
僕はルキウスの突きを真正面から受け止めた。受け止めたはずなのにおかしい。僕の身体には、抉られたような傷跡ができていた。
「えっ! ごふっ!」
僕は腹に刺さった何かに内蔵をやられて吐血する。
「おい……これは……どういうことだ……!」
僕はヨロヨロと後退しながらルキウスに訪ねた。
「今てめぇは、オレのトラに腹を噛まれたんだ」
「あの……ぼんやり見えてた奴か? アレには……実体があったのか⁉」
「正確に言えば違う。ソイツこそが聖剣に宿る個性だ。所有者によって変化し、オレたちの動きに作用する」
「つ、つまり、お前の剣には虎だと?」
「そういうことだ。オレが突けばトラが噛み、斬ればトラは爪で切り裂く。攻撃そのものがトラの動きへと変化すんだ」
そ、そんなことが可能なのか。待てよ、それじゃあ有希が見たっていうのは……
「続きだアーサー。オレを失望させんなよ!」
目をカッと開いたルキウスがコチラに突撃してくる。
僕は虎の牙をも受けきれるように然気を強くエクスカリバーに宿した。
ルキウスの斜め斬りを防ぐ。剣は一つなのに、同方向から3つの刃が僕の聖剣を襲った。今のは爪か!
ルキウスはそんな攻撃を絶え間なくコチラに差し向けてくる。太刀筋だけでなく威力も3倍なのか、僕は受け止めるのに必死だ。
「オラッ! どうしたぁ!」
するとルキウスの剣が槍に変化。長いリーチを使って今度は牙を僕に突き立ててくる。回避を大きくとっているのに、牙+元の槍の三方向から襲ってくる攻撃が僕を容赦なく裂いていく。
「てめぇはオレと同じで、守るモンのために剣を取ってんだろ! だったら、命ぐらいでビビってんじゃねえ!」
ルキウスは大きく剣を払う。無数に襲う槍に回避しづめだった僕は、巨大な爪に絡め取られた。
鎧を貫通した爪は僕の肉を斬り裂く。斬られた部分からはポタリポタリと血が落ち始めていた。
だが不思議と痛みはない。それよりも、その一撃に込められた想いが僕の心を揺さぶっていた。
ルキウス……お前も僕と同じなのか? 前に言っていた『黒羽の若君』っていうのは、お前自身のことなのか?
そうだとしたら答えなくては。コイツに負けることは『白馬の王子様』として敗北することと同義なのだ!
僕は剣を杖に立ち上がる。そして有希に感謝した。ありがとう、君が見た何かのおかげで、僕はこの聖剣に何かが宿っていることを確信できる。
「……エクスカリバー、力を貸してくれ。君の力が必要なんだ」
僕は聖剣へと語りかける。もし君に力があるのならば、その力であの『黒羽の若君』と戦いたい。
ドクン
すると、僕の期待に応えるように聖剣から鼓動がするのを感じた。ああ、やっぱり何かいるんだね。
ドクン
聖剣が再び大きく鼓動する。ありがとう。君の力を貸してくれ。
「待て! まだ油断するんじゃねえ!」
だが、ルキウスが突然大声でコチラに注意する。おい、どうしたって──
「うわっ!」
すると聖剣が突如として暴れ出し、ルキウスに向かって突撃を始めた。僕は聖剣に引っ張られるようにルキウスへと接近する。
「チッ」
ルキウスが聖剣の斬撃を受け止める。だがその顔に余裕はなかった。
「力を解放した程度で油断してんじゃねえよ! 聖剣の個性は生き物。畜生には躾が必要だろうが!」
そう言って力を込めて僕の聖剣を振り払った。しかし、弾かれた聖剣は空中で静止し、再びルキウスへと襲いかかった。
「待ってくれエクスカリバー! 僕と一緒に戦ってほしいんだ!」
僕は聖剣に呼びかけてみる。しかしエクスカリバーは止まる気配がない。
「早くなんとかしやがれ!」
暴れ狂うを聖剣になんとか対処しながら、ルキウスは僕に理不尽な要求をする。そんなこと言われても、こっちも手を離さないので精一杯なんだよ!




