ミスコン女子の部決勝戦
「おいアーサー、お前は何か一張羅ってないのか。どうせならミスコン男子の部も決勝戦やろうぜ」
有希が渋々舞台の裏に入っていった所でルキウスから提案される。
「は? 別にお前はミスコン取ってないだろ?」
「いいから、あんのかないのかどうなんだ?」
「まああるが……」
「じゃあ決まりな。5分で着替えてこい」
「命令すんな! ……ったく」
僕はルキウスの強気な物言いに折れる。仕方ない。そこまで言うのなら着替えてやるよ。
それから10分後。
有希はユアさんの決闘を受けるために、一張羅である和服+レザーコートの格好になり舞台に立っていた。
そして僕もまた、ルキウスの指定で白銀の鎧にマントを羽織った姿である。
「アーサー、何もお前まで着替えてこなくても……」
真人が軽く引いた感じで指摘してくる。
「僕だってその気はなかったさ。けどルキウスの奴がそう言うから」
「そういえば、ルキウスの奴はどこ行ったんだ? 気がついたらいなくなってたけど」
真人が辺りを見ながら言う。僕も辺りを見渡すもルキウスの気配はなかった。まさか、言うだけ言ってトンズラしたのか?
「さあ、面白くなってきた決勝戦! ここからはバニーガールこと安野瞳が司会をやらせてもらう。まずは今年の優勝者、飛び入り参加のユア!」
おおおおお! という歓声と共にユアさんが挨拶する。それにしても瞳先生。無理やりマイクを奪うのはどうかと思います。盗られた生徒が泣いてますよ。
「そして対するは去年の優勝者! 武藤有希!」
またもや歓声が響き渡る。有希はその声に対しておずおずと頭を下げた。
「先にユアと相談して決めたが、勝負方法は2本勝負。美しさと強さだ! まずは美しさだが……」
「有希の勝ち!」
「ユアの勝ち!」
僕とルキウスがほぼ同時に叫んでいた。僕が驚いて横を見ると、隣には黒と金のど派手な鎧を着たルキウスが立っていた。それを見て2度目のびっくりをする。
「お前、何だその格好は!」
「そういうテメエはなんとまあ地味な……」
「うるさい! これが白馬の王子様の正装だ! お前だって意味不明に派手だろうが!」
「オレのも黒羽の若君の正装だ!」
「黙れそこのコスプレイヤーども! そんな格好して恥ずかしくないのか!」
「アナタ(オメェ)にだけは言われたくない(ねぇ)!」
僕たちは瞳さんの強烈な自虐にツッコミを入れた。
その後も、有希とユアのどっちがかわいいか投票は続く。しかし派閥は真っ二つになり、いよいよ決着の付けようがなくなっていた。
「よし、一戦目の美しさ対決は引き分けだ! ここからは2回戦に突入するぞ。ユア、本当に任せてもいいんだな」
「……はい。ルキウス! アレ!」
「はいよ」
ユアさんの声に従ってルキウスがボタンみたいなものを取り出し、そして押した。すると、僕は急激に目眩に襲われたように視界が暗転する。うぇ、なんだコレ。
「もういいぞ。眼を開けろ」
ルキウスの声で意識が回復する。どうやら気づかぬうちに目をつぶっていたようだ。僕はゆっくりと目を開いていく。
「コレは一体……さっきまでの観客はどうした?」
僕が目を開けると、そこには誰もいなくなっていた。まるで僕たちを残して消えてしまったみたいだ。
「今この空間にはオレたち4人しかいない。ここはオレたちが用意したVR空間だ」
「VR空間? 僕はヘッドギアも何もつけていないぞ」
「正式名称"ミラーワールド"。この空間は現実の学校を読み取り、鏡のように再現することで存在している。ほら、色々と左右逆転してるだろ?」
ルキウスはそう言って指を差す。その先には逆になったミスコンの看板があった。その他も、すべてが鏡映しのように反対になっている。
「つまり、僕たちは鏡の中にいるってことなのか?」
「そうだ。オレたちが用意した特製の鏡にな。今のオレたちは現実世界に存在しない。肉体も含めてこの鏡の中だ」
「ここから脱出する方法は?」
「オレたちが武藤有希を殺すか、お前らがオレたち二人を倒すかだ。お前らは罠に嵌ったんだよ。正装にしてやったのはせめてもの情けだ」
有希を殺す……? コイツら宇宙人か⁉
「まさか、最初からこれが狙いでミスコンに……」
「いや違う。ユアはガチでミスコン取りに行ってた。この作戦を思いついたのは多分……その場の思いつきだ」
いや違うのかよ⁉
ルキウスはヤレヤレと言わんばかりに首を横に振る。よくアドリブでここまで息ピッタリにできたな⁉
「じゃあアーサー、さっそく殺し合うか!」
ルキウスは何処からか剣を取り出した。いまさら驚くことはない。似たようなことを覇王竜もやっていたからな。おおよそ、異空間から取り出してるんだろ。
「僕は別にお前を殺すつもりはない。が、売られた喧嘩は買おうじゃないか」
僕もエクスカリバーを引き抜く。有希を殺すと宣言されたからには、戦わないわけにはいかない。
「でもその前に、1つ教えてくれ」
「なんだよ? どうやって剣を取り出したかか?」
「違う。それはおおよそ検討はついてる。有希はどこだ?」
「はっ、知りたかったら力づくで聞き出すんだな!」
「……そうか。なら、こっちも遠慮しない!」
僕はもう話すことはないとルキウスへ突撃した。




