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ミスコン女子の部


「それでは名残惜しいですが、出場者のみなさんにはご退場をお願いします。そして15分の休憩後、女子の部を始めます」


 ナレーションは淡々と述べる。テンションの差が激しすぎて風邪を引きそうだ。


「やったなアーサー! まあそんな気はしてたけど!」


 僕の様子を見ていた真人は嬉しそうだ。


「ああ、これで学校一の美男美女カップルだ。でどうする? 女子の部も見るか?」


「もちろん! ぶっちゃけ今年は女子が熱いからな!」


「熱いとは?」


「お前円卓の騎士だろ? 身内の顔面偏差値思い出してみろよ」


 僕は円卓の騎士のメンバーの顔を思い出してみる。そういえば、円卓の騎士は一年生が多かったな。しかもそのすべてが女子。


「そうか、彼女たちが出てくるのか」


「ああ。だから今年は、実質円卓の騎士ナンバーワン決定戦みたいなもんだな」


 僕は別にどうとも思わないが、僕の騎士たちは総じて顔がいい。トップを決めるのは至難の業だろう。





「さぁいよいよ! ミスコン女子の部の開催だぁ!」

 バトンタッチした男子アナウンサーの宣言により、観客席から歓声が上がる。さっきの男子の部に比べて歓声が野太くなっていた。確実に男女比が逆転している。


「それでは受付された方々は舞台にお上がりください!」


 アナウンサーの合図によって候補者たちが舞台に上がる。僕はその中の知ってる顔ぶれを確認していった。


 出てきたのは結衣さん、紗友里さん、美香さん、深琴さん、ソソさん、シスネさん、そして安野瞳先生の7人だ。てっ、なんで先生がいるんだよ!


「おい! なんで先生がいるんだ⁉」


「場違いだぞ!」


「ババァ紛れてて草」


 みんな同じことを考えたようで一斉に罵声が上がった。さもありなんである。


「黙れぇ! 今言った奴顔覚えたからな!」


 瞳先生は悪びれることなく逆ギレする。このふてぶてしさがあるなら出てくるのも頷けるな。


「やっぱり一年は全員出てきたな。まさか、教師が新任なのを利用してくるとは思わなかったが」


 真人が呆れながら状況を確認する。そう、円卓の騎士の一年は先に上げた6人でフルメンバーだ。後はそれに僕、有希、響也、華さんの2年生と、綾音先輩、そして安野瞳先生の12人で構成されている。



 ここでシスネさんについて紹介しよう。シスネさんは桜丘の教会でシスターをやっている僕らの同士だ。円卓の騎士では、十字架を模した巨大な剣で戦っている。



 舞台には溢れんばかりのシャッター音が降り注ぐ。観客席にはカメラを持ったおじさんたちで溢れていた。おい、去年の有希もこんな風に撮ったんじゃねえだろうな?


「アーサー安心しろ。去年は謎のカメラの故障でまったく写真は撮られてない。それに、ここにいるのは基本的に身内だ」


 僕の様子を察したのか、真人がすかさずフォローしてくれる。それならいいんだ。


「それよりアーサー見ろよ。ヤバい人がいるぜ」


 真人がある男性に指を差す。おいおい、いくらJKを撮影してるからってそんな……



「……うそだろ? なんで総理大臣がここにいる?」



 僕は男性の正体に驚きを隠せない。僕の視線の先には、テレビで演説している国のトップが立っていたからだ。


「知らないのか? 瞳先生は安野首相の娘なんだ」


「マジ?」


「マジ」


 し、知らなかった……僕が剣の指導している人がそんな経歴の持ち主なんて。


「それだけじゃないぞ。ほら、あそこ」


 再び真人がカメラを構えた男性を指差す。今度は外国人か。あれ? あの軍服……


「もしかして美香さんのお父さんか?」


「そう、米軍の大佐だ。日本の横須賀基地に配属されてるらしい」


「お前、そんな情報どこから仕入れてるんだよ」


「本人に直接聞いた」


「お前の行動力にこそ驚くわ」


「まだまだいるぞ。お次はあの人、吉澤ソソさんの父親で吉澤グループ幹部、あっちは深琴さんのお父さんで桜丘神社の神主、そっちはシスネさんの育ての親で協会の神父さんだ」


 真人の情報網どうなってんだよ。直接聞いたにしても知りすぎだろ。


「俺は武藤有希ファンクラブの総帥だからな。このぐらい造作もない」


「有希以外のことまで調べてんのか」


「そりゃあ有希の同士だし、なんならお前のことも調べたぞ」


「……お前、探偵でも目指したら?」


「実際、将来の就職先として考えてる」


 僕は真人の意外な才能にドン引きするのだった。





「それでは、自己紹介をお願いします!」


 アナウンサーは最初の子にマイクを渡す。それを受け取った美少女1号が自己紹介を始めた。


 内容は至って普通。趣味や特技なんかをかわいくアピールしながら話していく。


 円卓の騎士で最初に自己紹介するのは、4番目の深琴さんだ。そこから最後の美香さんまでノンストップ円卓の騎士である。


「ありがとうございました! それでは4番、深川深琴さんお願いします!」



 来た!



 深琴さんがマイクを受け取る。そして、ほぉと深呼吸をすると自己紹介を始めた。


「みなさんこんにちは。深川深琴と言います。趣味はお札作り、特技は退魔、好物は魚の煮付けです」


「タイマ? タイマってなんですか?」


「退魔とは魔を祓うことです。僕の家は神社ですから」


「では魔とは?」


「お化けです」


「お、お化けってまじでいるんです?」


「……ああ」


 深琴さんは突然嘆き出した。一体何があった?


「ど、どうしましたか? 深琴さん?」


「羊が見えました。とても醜い羊です。しかしとても儚い」


「???」


 アナウンサーは脳内に疑問符を浮かべている様子だった。ちなみに僕と真人も同様である。

「今、一瞬俺らの方を見なかったか?」


「そうか? 気づかなかったけど」


 僕は真人の指摘を否定する。少なくとも、僕は視線を感じなかった。





「は、はい。ありがとうございます。それでは5番の方お願いします!」


 お化けがいるかどうかスルーしたアナウンサーは次の人にマイクを渡す。次はシスネさんだ。


「皆さま、私はシスネという者です。普段は神に祈りを捧げ、その御心を聞くもの。そう、例えば先の男子の部で優勝したアーサー様。彼の者こそ神の力を受け継ぎし者なのです。皆さま、偉大なるアーサー! 私たちの王をどうぞ──」


「はいそこまでー。ありがとうございました」


「バカな! 聖なる存在の宣伝を邪魔するなど、天罰が下りますよ!」


「はいはい。さあ、マイクを渡して」


「嫌です! まだ喋り足りない!」


「いやいや! 神様だってうっとおしいのは嫌いだから!」


 そうしてマイクを巡る争奪戦が始まってしまった。何をやってるんだあの人は。僕が神に選ばれた人間なのは確かだけど、普通の人は信じないって。


「ほい、次はあたしな!」


 マイクで綱引きしてた横から、紗友里さんがかっさらう。


「おっす! あたしは紗友里! 趣味兼特技は剣術! 以上!」


 そして小気味いいテンポで自己紹介を終わらせた。溌剌としてるのが彼女の持ち味だな。





「あ、ありがとうございます! それでは次の方行ってみましょう!」


 ようやくマイクが戻ってきたアナウンサーは今度は自発的に手放す。次は結衣さんにマイクが渡った。


「私は堀本結衣と言います。私も紗友里さんと同じく趣味兼特技は剣術ですが、私の剣術は()()()()と同じ日本剣術です。あと、好物も()()()()と同じイチゴパフェです」


 彼女は一番まっとうに自己紹介を終わらせる。けど、有希と同じ部分を強調する辺りに、彼女のジメッとした有希への想いが感じられた。


「ありがとうございました! このまま武藤さんのアピールに繋がらなくてよかったです!」


「語ってもいいのなら、お話しますよ?」


「いえけっこう!」


 ウズウズしだした結衣さんをマズイと感じたのか、アナウンサーは素早く否定の言葉で抑えた。


「さあさあ、どんどん行きましょう! 次は──」


「貸せ」


「ああ、ちょっと!」


 マイクを強奪されたアナウンサーは抗議の声をかける。しかし、マイクを奪った主は構わず続行した。


「私は安野瞳。趣味は婚活、ただいま花婿募集中だ! この中にアタックしたい奴がいれば来るがいい!」


「ちょっと! ここはミスコンを決める場であって婚活する場じゃないんですけど!」


「別にいいだろう? なんなら結婚するか?」


「お断りします! どんだけ体育の授業で痛めつけられたと!」


「情けない奴め! 私の責め苦に耐えられんとは」


「むしろ耐えられた人いるんですか?」


「いるぞ。既にお手つきだったがかな」


「……そうですか。ではマイクを」


「待て、いないのか! けっこうお買い得だぞ!」


 しかし瞳先生の声に対して誰も反応しない。むしろ絡まれないように目を背けるばかりである。


「諦めてください! ここまで彼氏なしが何よりの証拠です!」


「よし、今度お前グランド百周な!」


「そんな!」


 アナウンサーはあんまりにもあんまりな宣告に悲鳴を上げた。うちの同士がすいません。





「はぁ、それでは次の人、お願いします」


 アナウンサーは疲れた表情でマイクを次の人に手渡した。次はソソさんだ。


「みなさん、こんにちわー! みんなのオカズのソソでーす! 趣味はマッサージ(意味深)、好物はフランク──」


「はい、ありがとうございました。もういいです」


「ええ~、もっとアピールしたいのにー」


「存在が卑猥なのでやめて下さい」


「ひどい!」


 ソソさんはショックを受けたように叫ぶ。けど残念ながら当然だ。今ので多くの男子が前屈みになったぞ。


「お前の周りさ、ヤバイ奴多すぎな」


 真人はあの攻撃に平然とドン引きしている。流石は有希が好きな男だ。





「さあ次で最後です。しかし、彼女も円卓の騎士になります」


 もはや息も絶え絶えなアナウンサーは、最後の一人である美香さんにマイクを手渡した。


「こ、こんにちは。は、鋼美香と言います。趣味は武器いじりにサバゲー、それから──」


「ありがとう」


「え? で、でもまだ──」

 ただでさえ緊張してるのに、突然の感謝に美香さんはタジタジになる。けどさっきまでの振り回し気味な人たちに比べなんとお淑やかなことか。もっとも、拳銃握らせたら仲間入りするのだが。


「ふう、それでは! 続いてはアピールの時間になります! 今回はそれぞれの一張羅! それでは皆さま、着替えをお願いします!」


 美香さんで回復したアナウンサーによって、選手たちは舞台裏へと入っていく。



 果たして、どんな衣装を見せてくれるのだろうか?



 僕はなにが来るか検討はつきつつも、予想外が起きないか期待するのだった。

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