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七不思議探索


 秋になってくると当然だが日も短くなり、5時半を回る頃にはもう真っ暗になっている。


 しかし、そんな夜長の空とは対象的に、美修院高校の灯りは煌々と光っていた。


 理由は簡単。文化祭準備である。


 僕たち2年13組も学校に居残り、有希の作った脚本を下にセットや衣装を作製に勤しんでいた。


 現在の時刻は夜の8時。作業を一段落させた生徒たちは解放されている食堂で夕食を嗜んでいた。


 そんな生徒たちを傍目に見ながら、僕はある仕事をするべく廊下に集結していた。


 この美修院高校では学校への泊まり込みが認められている。文化祭一週間前にもなると、多くの生徒が泊まり込みで準備を進めていくのだ。


「だが、当然ながら風紀は守られなくてはならない。非日常を清く正しく美しく保つために、我々生徒会は常に目を光らせる必要があるのだ」


 勝手にモノローグに被せてくんなよ。


 と、ここで奇跡的なバッティングをしてくれたのは生徒会長の響也だ。まるで軍隊の上官のような口振りで演説をしていた。


 生徒会の文化祭での仕事は、企画、クラスの出し物の選出、予算の割振が終わると、ハメを外す生徒がいないかの見廻りが主になる。


 そう、僕たち生徒会特別執行部もその活動に駆り出されることになったのだ。


「我が学校での泊まり込みはワンアウト制だ。一度でも問題が起これば数年は泊まり込みができなくなる」


「非日常も程々にってことね」


 ウンウンと腕を組んで桜さんが補足する。ここで言う問題は、不純異性交遊とか近所迷惑な行動とかが当てはまる。


「では諸君。早速だが見廻りを始めよう」


 響也の音頭に従って、僕らは見廻りを開始した。





「にしたって、なんで有希と回らせてくれないんだろう?」


「こん学校で一番ヤラカシそうやけんやなか?」


 学校の見回りは二人組で構成されている。今、僕の隣にいるのは桜さんだ。


「失礼だなぁ。僕と有希はプラトニックだから盛るような真似はしないのに」


「ばってんイチャイチャしそうばい? ただでさえ準備でカップルがドンドンできとーってんに、校内一のソレなんて吐き気がするわ」


「それは僻みが過ぎるよ。さっさと告ってしまえばいいじゃないか」


「うっさいわね。響也が恋愛に興味なかけんしょんなかやろ。どうせ告ったっちゃ『今の僕にその気は〜』てか言うて振らるーとが関ん山ばい」


 まあ、あいつの脳内は闇の剣士の活動でいっぱいだろうからね。


「そ・れ・よ・り・も、知っとー? こん学校に七不思議があるって噂」


「いや、それは初耳だな。具体的にはどんな内容?」


「どげん内容かまでは知らんばい。ただあるってことだけは聞いたことがあるんばい」


「それで? どうして僕に話したんだい?」


「頼みがあるけん」


「頼み?」


「有希ば誘うて調査したかとばい。有希なら七不思議ん秘密も解き明かせるやろ?」


「まあ、有希ならできるだろうね。でも、それをわざわざ僕に言う必要はあったのかな?」


「あ~ね、アンタには言うとらんのや。有希はね、お化けとか呪いとかん耐性がなかとよ。やけん単独で頼んだっちゃ、のらりくらりと躱しゃるーとがオチやわ」


「そうなの⁉」


「そうばい。やけんアンタが『僕が君ば守るばい!』てか浮いた言葉で説得してほしかわけ」


「そっかそれで……じゃあもしかしたら、怖がる有希を見ることができるのか…………わかった、協力しよう」


「そうこのうっちゃ」


 こうして、僕たち七不思議同盟が結成された。





「と、言うわけばい」


 桜さんは『生徒会であればこそ、七不思議について知っておく必要がある』という名目で有希を説得していた。


「だったら響也誘って行った方がいいんじゃない? 響也なら詳しいだろうし、その方が偶然を装って抱きついたりできるじゃん?」


 う~ん、なんとも論理的な逃げ口実。それらしいことを言ってるけど、真相は行きたくないやつだ。


「有希ん力で不思議の実態を解析してほしいんよ」


「……いい桜? こういう不思議はね、不思議のままにしておくのがいいのよ。変に(つつ)いて呪われたりするよりも健康に生きられるわ」


「僕からも頼むよ。学校の七不思議に興味があるんだ」


「……アーサーってそういうの好きなの?」


「イギリス人だからね」


「いや意味分かんないんだけど……というかそもそも、私も七不思議をすべて知ってるわけじゃないし」



「それなら僕が知っている。色々と年代によって違いがあるが、現在も7つの不思議が言い伝えられている」



 ここで話に入ってきたのは楓さんと見廻りに行ってた響也だった。そのままの流れで七不思議を説明していく。流石は生徒会長、よくご存知で。


 響也の言葉から僕は七不思議について整理する。この7つが今の七不思議のようだ。


①三階トイレに響く女性のなき声


②夜にグランドを浮遊する影


③魔の十三階段


④深夜に浮かぶ火の玉


⑤夜中に響くピアノの音


⑥8時8分に鏡を見ると将来の婚約者が見える


⑦美術棟の開かずの間


 中々にそれっぽいモノが並んでる。特に6番目は是非とも見てみたい。有希の姿が見えるといいな。


「少し時期は遅いが、肝試しをするのもいいかもしれないね。生徒会長として、七不思議の実態を掴んでおくという意味でも有意義だ」


「おもしろそうだね。僕も一口噛ませえて貰おうかな」


「賛成ですわ。見廻りに刺激が欲しかった所ですの」


 話に加わってきたのは見廻りから戻ってきた優太とレイカさんだった。


「くっ、この流れは押し切られる奴……!」


「有希、安心して。僕の然気があれば、幽霊なんてあっという間に退散するさ」


「それ、ウチの兄の決めゼリフね」


 すると今まで場を静観していた楓さんが話に入ってくる。決めゼリフってどういうこと?


「楓? それはどういう?」


 有希は驚いた様子で楓さんに尋ねる。兄ってことは裕哉さんのことだよな? あの人も然気について知ってるのか?


「この学校には一時期、七不思議なんて目じゃないレベルで怪異が跋扈していたそうよ。そして、それを退治していたのが当時の生徒会」


「はあっ⁉ なにそれ⁉」


「僕も初耳なんだが……」


 なんかとんでもない話になってきたぞ。


「コレはココだけの話よ。ウチの兄には恋人がいるんだけど、その人が霊媒体質だったらしいのよ。そのせいで3年間、この学校は百鬼夜行か? ってくらいにそういうのがいたのよ」


「とんでも情報の川流れ。頭が追いつきませんわ」


 レイカさんが謎めいたことを言っている。でも混乱するのも頷けるよ。多分、裕哉さんに恋人がいるのも普通なら驚くポイントだ。


「まあそんな訳で、七不思議があるのも可笑しくないのよね。なんだったら、ガチの幽霊とか妖怪がいるかもしれない」


「ちょ、ちょっと待って楓! それは不味くない? 触れたらヤバいやつじゃない?」


「まあアーサーがいるなら大丈夫だと思うわ。よく知らないけど、兄もなんか光ってたみたいだし」


 急に大役を担わされたな。でもうん、有希を守ることに関してなら必ずなんとかできると思う。他の人たちの保証はできないけど。


「ついに本物の非日常との邂逅……ああ、この時を長らく待ち侘びていた!」


 響也は生徒会長の立場も忘れて感極まっていた。確かに、初めての本物かもしれないんだもんな。興奮するのも仕方ないか。


「よし、多数決ば取ろう。七不思議ば探検する人は挙手!」


 桜さんの号令でいくつかの手が上がる。有希を除いて全員が手を上げていた。


「じゃあ賛成多数で可決ね! 安全ば考慮して全員で廻り、何かあったら有希と響也、そしてアーサーになんとかしてもらう。これでよかね?」


「構いませんわ」


「右に同じく。頼りっぱなしは申し訳ないけどね」


「響也は?」


「もちろん行くよ! ありがとう桜さん!」


「さっすが響也、ノリノリばい! 有希とアーサーは?」


「はあ……しょうがない。アーサー、いざってときは助けてね」


「任されよ。有希だけは絶対守るから。そういう訳で桜さんたちの保証はできないけど、やれる範囲で助けるよ」


「なんやろう、ばりアッサリ捨てらるー予感がする」


 桜さんは不安気混じりに言った。





「美修院高校七不思議のその1。美術棟二階のトイレに響く女性の泣き声」


 僕たちは最初の七不思議を調査すべく女子トイレに来ていた。ここはトイレの中でも極端に使用率が低く、放課後になるとほとんど使用者がいない。


「実はつい最近にも、声を聞いたという報告があった。トイレの怪談というベタさから見ても、ここが最初に相応しいだろう」


 響也はとんでもないことをなんでもないように言う。ふざけないでくれ、ガチの奴じゃないか。


 現在、時刻は夜の8時半。当然ながらトイレに人気はない。その薄暗さと、話を聞いたことによる恐怖でとても不気味な雰囲気を放っていた。


「そ、それじゃあ武藤さん。調査よろしく頼むよ」


「えっ? 私が先陣を切るの?」


「し、仕方のないことですわ。なにせ、不思議な力を持っているのはあなただけですもの」


「いや、アーサーも持ってるんだけど……」


「ほ、ほらっ、さっさと行った行った。後がつかえてんとよ。急がなばり漏らすわ」


「お、覚えてろよ……」


 有希は恨み節を込めて唆す3人に言った。はあ、ヤレヤレ。


「安心して。私がついてるから」


「楓……」


 ちっ、先越された。


 僕が言おうとした言葉を先に楓さんに言われてしまった。しかも、こっちに僅かにドヤ顔まで向けて来ている。


 ふん、実際に力を使うのは僕が有希なんだ。そんなところでドヤったって意味ないぞ。


「ワクワクするじゃないか! こんな刺激を僕は待ってたんだ!」


「響也は平気そうだね」


 興奮して叫ぶ響也に優太が突っ込みを入れる。けっこうビビってるのにツッコミはしっかりするのね。


「よし、じゃあ僕と有希、響也に、楓さんで見ていこうか」


 こうして僕たち突入隊は女子トイレに潜入する。まさか、掃除以外で女子トイレに入ることになるとはね。


 僕たち4人が中に入ると4つ個室があった。どれも温感便座にウオシュレット完備と豪華な装備をしている。


 さて、一体どれが件のトイレなんだ?


「僕が知る情報では、一番奥のトイレからするとのことだ。さらにだが、稀にウオシュレットがしばらく動き放しになるというのも聞いたことがある」


 僕たちは一番奥のトイレへと歩を進めた。中に入る際に電気はつけているのだが、雰囲気のせいで不気味な感じは緩和されることはない。


「よし、開けるよ」


 ドアの前に来た所で、僕はドアノブに握って3人に確認した。それに対して、全員が頷いて応える。



 ガチャ



 パンドラの箱をゆっくりと開いていく。するとその先には──



「何もないか」



 そりゃ当然だ。今日は声も何もしてなかったんだからな。不在か。隠れてるのか。いずれにしてもすぐに戦闘開始とはならなそうだ。


「もぬけの殻か。では色々と調査をしよう。怪異の類であってほしいが、違う可能性もあるからね」


「調査って何をやるのかしら」


 楓さんが尋ねる。


「うむ、やはりルーツを探るのが最善策だろう。怨念であってもなくても、泣き声を発する原因があるはずだ」


「そうなると、やっぱり有希の力が必要になるわね。どう、できそう?」


「できるけど、かなり怖いんですけど。見た瞬間に呪われるとかないわよね?」


「大丈夫だよ。手を握っててあげるから。僕の愛があれば、そんな呪いは吹き飛ばせるさ」


「ならいいけど……」


 有希は不安そうにしている。無理もない、ここからは本当のパンドラの箱だ。


「よし、それじゃあ……」


 有希はトイレに片手をかざす。そして、もう片方の手は僕の手を強く握っていた。僕はその手に愛を込めて握り返した。


 しばらく有希は目を閉じて集中している。果たして何が見えるのか。僕たちもドキドキしながら見守っていた。


「んなっ⁉」


 有希はびっくりした様子でこっちに思いっきり抱きついてきた。そのせいでこっちの心拍数も上昇する。


 有希の顔がとんでもなく紅くなっていた。一体何が見えたのか? いや、抱きついて紅くなってるだけ?


「ど、どうしたの? 何が見えたの?」


 楓さんが尋ねる。


「ある意味で、とんでもないものが……」


 有希は抱きついたままその質問に答える。ある意味ってどんな意味だ? ホラーじゃないの?


「それは一体どういうことだい?」


 響也も疑問を浮かべている。反応が予想外すぎて困惑しているようだ。


「私の口からはとても無理!」


 有希は顔を茹でたてのタコにしてそう言い放った。その顔が羞恥に塗れてる気がするんだけどなんでだろう?


「それは僕でも無理かい?」


「アーサーっていうか男性陣は無理! か、楓! ちょっと耳貸して!」


 有希は抱きついた状態を解除すると、楓さんに耳打ちをした。すると、楓さんにも赤いのが電線していく。いやもう、この流れでなんとなくどの方向か想像できるんだけど……


「一体なんだというんだ?」


 響也は鈍い反応で頭にクエッションマークを浮かべている。これで分かんないのは、ある意味で響也らしいな。


「どうしたんですの?」


 こちらの様子を聞いてきたのか、レイカさんたちが心配そうに中に入ってきた。


「丁度いいわ。レイカ、ちょっと」


 今度は楓さんがレイカさんに耳打ちをする。やっぱり、レイカさんも顔を赤くした。


 いや少し青ざめてるな。何が起こってる?


「な、なんてことですの……知りたくなかった」


 青ざめるのを通り越して憔悴って雰囲気だ。何がレイカさんをそうさせるんだ?


「もう、レイカったらどうしたん? そんなにヤバい話と?」


「ええ、色々と」


「何よ、教えんばい」


「そうだよ、女性陣で独占するのはよくないよ」


「まったくだ。こんな所で差別を受けるとは思わなかったよ」


 事情がよく分かってない3人は抗議を上げる。レイカさんは少し迷ったような表情をしつつも、諦めたようにため息をついた。


「桜さん。アナタが男性陣に教えると言うのであれば教えて差し上げます」


「そんなのお安い御用ばい。ほら、早く」


「では行きますわ……」


 レイカさんは桜さんに耳打ちを開始した。それに釣られて、桜さんの顔も桜色に染まっていく。こんな卑猥な伝言ゲームがあっていいのだろうか?


「こ、これを男性陣に言うの⁉ 待って! とんでもない貧乏くじじゃない!」


「仕方ありませんわ。こちらも恥を忍んで教えたのです。二言はなしでお願いしますわ」


「ぬぅ……」


 桜さんは苦悶の表情をしている。もうこれ呪いか何かでしょ? 女性限定に効果絶大な。


「し、仕方ない! 言ったるわ!」


 しかし、桜さんは覚悟を決めたのか遂に口にするようだ。


「ああ、よろしく頼むよ」


 響也はワクワクといった様子で桜さんを見る。やめてやれ、桜さんは今にも死にそうだ。


「えっと……どうやらここじゃそ、そん……エッチなこつする人が多かったみたい! で、中でも声んでかかレイカんお母しゃんと妹が外まで響かしぇとったんばい!」


 桜さんは顔を真っ赤にしながら捲し立てるように言った。当然、僕たちはその真相にだんまりを決める。


 薄々そんな気はしてたけどなんてひっどい真相だ。いや、ホラーとエロはセットだからある意味で王道なのか?


 真相を聞いたトイレ内には、なんとも言えない空気が漂っていた。これが空気が凍るってことなんだろう。ここで身を持って経験できるとは思わなかった。


「一族の恥ですわ……皆さん、後生ですからどうかこの内容は内密に。もし口外することがあれば、私は首を吊ります」


 レイカさんは遠い目をしながら言った。ソソさんだけならまだしも、母親までその一端を担っていたのは相当しんどいよな。いや、自分もその家族っていうことの方かな。


 とにかく、こうして七不思議の1つ目の真相は明かされた。


 だが真相が解明できた事実とは裏腹に、その滑り出しは最悪と言っていい代物だった。 

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