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強くなったアーサーⅡ


「へえ、昨日そんなことがねぇ」


 寿司を食べに行った翌日のこと、朝食後の時間に僕は有希に昨日の出来事を話していた。昨日は家でダラダラしていた有希は興味深そうに耳を傾けている。


「なんか訳ありみたいね。私に話を持ってきてくれれば色々と相談できたのに」


「けどはぐらかしてきたんだよな。多分、誰にも知られたくないんだと思う。できれば犯罪とかでなければいいけど……って有希?」


 有希は目を閉じてむっつりとした顔をしていた。何やら力を使っているみたいである。


「うーん、少なくとも向こう一週間は何もなさそうだけど。まあ何かあれば私の眼に引っかかるだろうから、そのときは対処すればいいか」


「そうだね。なんか彼、けっこう腕っぷしが強いみたいだから、よほどのことがない限りは大丈夫だと思うよ」


「へえ、強いんだ。そのルキウスって人」


「うん。多分ね。ていうか有希さん興味ないでしょ?」


「あっ、わかった?」


「有希。ちょっと話があるんだが」


 と、僕たちが談笑をしていると明美さんが話しかけてきた。話ってなんだろう? 僕の前では話せないことなんだろうか?


「なに? ここじゃだめなの?」


「まあ、念の為な」


「んー、わかった。じゃあアーサー行ってくるわね」


 有希は僕に断りを入れると、明美さんと一緒にリビングを出ていった。


 取り残された僕はテレビをつける。今は朝のニュースがやってる時間だ。別にニュースに興味はないけど、暇は潰しておきたい。


 やっていたのは最新のニュースと上半期の振り返りであり、最新のニュースの方は「芸能人の不倫」に「研究施設への侵入者」、「殺人事件」と取り立てて印象に残るモノはなかった。


 対して上半期の振り返りの方は興味深い。今年は印象に残る人が多いな。特に「号泣記者会見」、「スタップ細胞」、「耳の聞こえるゴーストライター」は永遠に忘れない気がする。



ガチャ



 とすると、有希が部屋から戻ってきた。明美さんから何を聞かされたのだろう? なんかなんとも言えない顔をしている。


「何の話だった? 僕には話せない感じ?」


「そうね。確証が得られるまでは無理かな。でも少なくとも害はないと思う」


「それならよかったじゃないか。でもその割にはなんともな顔をしてるね」


「まあ、しばらくは様子見が必要だからね。私の思うように進めばいいんだけど……ただもう時間がないから、この話はここまでね」


 有希はそこで話を切り上げて自分の部屋に戻っていった。


 なんとも腑に落ちない所があるけど、有希はあんまり自分のこと話さないからなぁ。その有希が大丈夫っていうなら多分大丈夫なんだろう。


 僕はそこで考えるのをやめ、学校への支度に取り掛かった。





 そして時は流れて放課後である。この日も僕は円卓の騎士に赴いて汗を流していた。


 現在は円卓の騎士のメンバーであり、かつ体育教師でもある安野瞳先生と戦っている。彼女の変速二刀流の腕はここ最近伸びが激しかった。新しい武器を新調したのが功を奏しているのだろう。イキイキと獲物を振るってくれる。


 でも天叢雲風剣とロンギヌスの槍もどきを使うのは色々とどうかと思う。



 僕はスーツ姿で戦う女傑と剣戟を交えながら


「安野先生。前より強くなりましたね!」


 と素直な評価をプレゼントする。今でもとんでもねえ組み合わせだと思ってるけど、それでここまで腕っぷしが上がるなら素直に評価するしかない。


「先生と呼ぶな!」


 槍を大きく振るいながら瞳先生は呟く。うおっ、鋭い! 僕はその槍の一振りに後ずさった。


「ならなんと呼んだらいいですか? 瞳さん?」


「何度も言ってるだろう! 瞳だ瞳! 年下だが構わん。遠慮なく呼べ!」


 瞳先生は僕がこう質問すると大体こうやって返答してくる。僕は僕のこだわりとして、有希以外の女性を呼び捨てにするつもりはない。


「残念だけどお断りです! やっぱりこのやり取り不毛ですよ!」


「チッ! この意気地なしが!」


 今年で28歳になる瞳先生は気に入った男を見つけると大体こんな感じである。そして愛の鞭と称してスパルタ指導をしてくるのだ。体育の時間にこの被害にあった男子生徒は後を絶たない。僕に対しても、スパルタ指導をするつもりで攻めてきている。



 まあ、負けないけどね。



 確かに瞳先生は強くなった。しかし僕の成長曲線はそれを遥かに上回る角度をしているのだ。


 光速に匹敵する速度で距離を詰めて上段を仕掛ける。この一手は天叢雲風で防がれたが、光の速さで次の一手を繰り出していく。


 結果、僕が反対にスパルタ指導を行うことになる。僅かに重たい槍では僕の光の剣速についていけず、遂に僕は胴に一太刀を浴びせた。


「はい一本。これで僕の勝ちですね」


「くそっ、また負けた! アーサー強くなりすぎだ!」


「でも瞳先生の成長も著しいですよ。やっぱり合う獲物に変えるって大事なんだな」


「だから瞳先生と──」


「その話は不毛なのでやめますね」


 僕はさっさと話を区切って次の相手へと向かった。



 続いては有希との試合である。今の僕がどこまで通用するか確かめるいい機会だ。


「アーサー。いつでもどうぞ!」


「ブラッド・パージ!」


 呪文を唱えると僕は一気に駆けていく。光の速さで距離を詰めた。


 ガキン!


 しかし有希の剣速はそれを上回る。僕の一撃にジャストタイミングで一太刀を放ってきた。過程がまったく見えない太刀は僕の勢いを削ぎ落とす。


 だが勢いが死んだ訳ではない。僕は僅かに残った勢いを使って有希に反撃を繰り出す。有希はそれをもあっさり跳ね除けたけど、その顔には笑顔があった。


「強くなったじゃない! ふっ飛ばされなくなっただけでも大したものだわ」


 とか言いながらさっきよりも遥かに重たい太刀で僕を吹き飛ばす。僕は然気の属性も使って戦ってるのに、有希はそれを素のフィジカルで叩き潰す。もはや生物としての格が違う気すらしてくるよ。



 ドクン



 すると僕の耳に剣からの鼓動が届いた。一体どういう? 僕は木霊(こだま)したエクスカリバーに手を触れた。



──アツ!



 僕はすかさず手を放す。エクスカリバーは信じられないくらいの高温を放っていた。然気を纏わせた状態で触れたことなかったけど、こんなに熱いものなのか?



 ドクン



 再び剣の鼓動が届いた。僕はエクスカリバーを強く握る。


 すると次の瞬間! エクスカリバーは僕の意志に反して動き始めた。重たい剣が軽くなったと思いきや、僕の体を振り回すように動く。


 そして、剣が僕を引っ張るように有希へと突撃した。


「有希! なんかおかしいんだけど!」


「……まるで生き物みたいね」


 警戒態勢に入った有希は冷たく言い放つ。剣を正眼に構えるてエクスカリバーを迎え撃った。


 剣と刀がぶつかる。重たい一撃によって激しい衝撃が武道場に広がった。


「くっ、けっこう重い!」


 有希は鍔迫り合いをしながら呟く。そうは言いながらも防ぎきるんだから大したもんだよ。


 エクスカリバーはそこからさらに追撃を放とうと有希を押し戻す。有希はそれを好機と見たか、抵抗せずに押し戻される。


 再びエクスカリバーが構えを作り、有希を袈裟斬りにせんと僕を省みずに突撃する。有希も再び刀を構えて迎え撃つつもりだ。


「!」


 しかし有希は驚いたのか目を見開くと、すぐさま強力な一太刀を浴びせてきた。恐ろしい程に強い一撃に、僕の手からエクスカリバーが弾かれる。


 エクスカリバーは僕の手から離れるとぐるぐると回転して地面に突き刺さった。そしてそれ以降、ピクリとも動くことはなかった。


「有希、どうしたの?」


 僕は驚いた風な有希に駆け寄る。一体僕の愛剣が、有希に何をしたのだろうか?


「今、僅かにだけど見えたのよ」


「見えたって何? 幽霊?」


「違うわ。見えたのは竜よ。私に向かって竜が爪を振るうのが見えたの」


 有希は自分が見たものが信じられないかのように手を見ている。その有希の手は驚きからか僅かに震えていた。

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