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有希対覇王竜


「おい、移動するぞ」


 僕が有希たちを探していると、お義兄さんが声を掛けてきた。


「一体どこに?」


「松本ショッピングモールだ。2人はあそこで決着をつける気だ」


 またあのショッピングモールか! 前回に続き2度も戦いの舞台になるとは。つくづくあそこで働いている人たちはツイてない。


「でも、どうしてそこに?」


「あそこは既に小太郎が壊してるからな。仮に全壊してもどんぐりの背くらべということだろう」


 そんなことが。さらにここから全損の可能性があるとか。いっそ、もっと複合施設として改築すればいい。いい機会だと思う。


 僕たちは走って移動を開始した。置いていく形になる亜蓮さん、美麗さん、裕大にはグリムさんとレインさんがついてくれるそうだ。


 ショッピングモールに到着すると、既に建物が崩れ始めていた。至るところにヒビが入っており、今にも倒壊しそうである。そりゃあ、こうなってたら全損してもいっかってなるな。


「これは俺としても非常に助かることだ。強化する範囲を狭められればその分、強化を手厚くできる」


 隣に立っていたお義兄さんが説明する。さっき必死に一帯を強化してたもんな。僕たちより強い2人があそこで戦い続けたら、持ち堪えられなかった可能性は十分に考えられる。有希がどういう判断で移動したのか分からないけど、正しい判断なのは確かだ。


──けど、ここからじゃあ中の様子が分からないな。


 白馬の王子様として側にいる誓いを立てた僕は、もう少し近寄れないか画策する。


「これ以上は建物の倒壊に巻き込まれるぞ」


 僕の行動から考えを読み取ったらしい。お義兄さんがここにいろと命じてきた。


 僕よりも経験豊富なこの人が言うのだ。それは正しい判断なのだろう。僕は一旦近づくことをやめて、有希に想いを載せた。



(僕は側で見てるから、存分に腕を振るってくれ!)






「わかったわアーサー。私の力、そこで見てて」


 私たちはショッピングモールの1階に到着し、向かい合う形で立っていた。私は無意識に飛ばしてきた愛しい人のテレパシーに応える。おそらくテレパシーを送っても届かないから、私の気持ちを言葉にして。


「何を一人で呟いている」


「独り言。あなたには関係ないわ」


 ちょっと、こういうのは聞き流すもんでしょうが! 私は独り言を聞かれたことに少し顔を紅くする。


「さて、君の要望は叶えた。今度はこちらの要望を聞いてもらおう」


「わかってるって。然気の属性を使えばいいんでしょ?」


 覇王竜の要求に応えるため、私は目を閉じて愛刀に然気を送った。刀は私の然気に反応して熱を帯びる。


「はい、これでいい?」


 私は刀に炎を纏わせて覇王竜に見せつける。


「闇属性ではないのか⁉ ……いやその炎、混ざっている!」


「えっ、そうなの?」


「貴様、見て分からないのか! どう見ても赤黒いではないか!」


 覇王竜は何故かお怒りだ。まあ確かに、私の炎は一般的なオレンジじゃなくて、私の好みの赤黒い色をしてるけどさ。そこまで怒らなくたっていいんじゃないの?


「アナタはどうだったらよかったわけ?」


「私の知る武藤有希は闇属性だ。そして、闇属性は魔族の証。それが無ければ我々は君を倒す大義名分を失う」


「えっ! じゃあこのまま帰ってくれるの! あっ、でもそれだとアーサーに私の力を見せられないか……」


 理不尽に襲われないのは嬉しいが、アーサーに自分の強くなった姿を見せられないのは困る。


「……いや、予防として君を倒す判断はできる。その炎が闇に変わらないという保証はない」


「そうね。なら、そういうことにして戦いましょう」


「いやに乗り気だな」


「だって、あなた骨がありそうだから」


 私は久しぶりに本気を出せそうな相手に、実は少しワクワクしていた。それをアーサーに見せられるというのだから尚更だったりする。


 私は刀を下段に構えて炎を滾らせる。舞い散る火の粉が薔薇の花びらの形を取る。この刀の特徴だ。なんでも覚醒すると私に合った個性を発揮するらしい。


「⁉ 髪が伸びたのか!」


 覇王竜は私の姿に驚く。そうそう、言い忘れてた。


「ああこれ? なんでか知らないけど属性を使うと髪が伸びるのよ」


「つくづく君は不思議な存在だ。殺さなければならないのが惜しいよ」


 覇王竜が皮肉る口ぶりでそう言うと、先の競り合いでは使わなかった二重螺旋の剣を取り出した。


「そうね、私もアナタから色々聞きたいのにね」


 私もまた、皮肉るように覇王竜へ返答した。


 私たちの戦いは、お互いの属性を見せあって第2ラウンドに突入した。






 覇王竜の二重螺旋が大きく変化する。巨大なドリルみたいになったそれは、私に風穴を開けようと激しく回転を始めた。


 その二重螺旋を覇王竜は容赦なく放つ。えっ? それ切り離せるの?


 私はそれを見るやすぐさま納刀して居合斬りの構えを取る。そしてほお……と一呼吸置いた後、私は居合斬りを放った。


 出した太刀の数は二十。ダイヤモンドはスルスルと切断されて木っ端微塵になった。


 私は居合の姿勢で今度は飛ぶ斬撃を放つ。しかし、炎を練った太刀は覇王竜の壁に阻まれた。流石に反応が早いか。だけど、まだ終わりじゃないのよね。


 私の放った一太刀は覇王竜の壁に当たった瞬間に爆発する。築いたダイヤモンド壁は爆発により跡形もなく消え去り、薔薇の花びらと共にキラキラと散っていた。


「然気を練って爆発させられるのか!」


 覇王竜は今の攻撃に慄いている。私はその理由を探るべく心を読んでみた。


『今の彼女の太刀数は1つ。もし先の攻撃と同じように、これを同時に十数発飛ばすことができるなら、その破壊力は測りしれない。しかも、より気を練り込めばさらなる火力を出すこともできるかもしれない』


 なるほど、今の一発を連射できるんじゃないかと思った訳か。さらにもっと高火力を出せるかもと。流石ね、そのどっちも正解よ。


「金剛機関銃!」


 焦りを見せ始めた覇王竜は無数のダイヤモンドを放ってきた。巨大なドリルよりは弾きやすいけど、すべて弾くのは流石に大変だ。


 しかも覇王竜は巨大な螺旋ドリルも時折混ぜてくる。ダイヤモンドと巨大ドリル。まさに一斉放射ね。


 私はそのすべてを弾き、砕き、躱してみせた。多少は疲れたけど、被弾せずに済んでホッとしている。


 対して、覇王竜の方は信じられないという顔をしている。どうやら私の現状が想定外らしい。まあ、20万の進人を蹴散らしたら少しは消耗するって思うよね。


 実際は私だって消耗してたんだけどね。けど、私は回復力が桁違いなので一瞬にして全快してしまったのだ。


「ねえ、他には何かないの?」


「ならば、これを喰らえ!」


 要求に応えるように、覇王竜は地面や壁、天井をダイヤモンドの棘に変えて私に差し向ける。十を超える巨大な棘たちが私を貫かんと絶え間なく迫ってきていた。


 私はジャンプしてそのすべてを回避する。するとその上から、覇王竜が剣を構えて待ち構えていた。


 剛閃一打。覇王竜は険しい顔で剣を振り下ろす。


 もちろんそれも私は防ぐ。しかし流石に空中では勢いを殺しきれず、私は下から伸びてくる棘たちへと真っ逆さまに落下した。


 回避することを諦めた私は、身体に強く然気を纏わせて防御の姿勢を取る。私の厚く張った背中の然気は、ダイヤモンドの棘を見事に砕いてみせた。


「てえええいいや!」


 だが覇王竜の追撃は続く。二重螺旋を回転させ、落下の速度も利用して私に突き刺そうとしてきたのだ。流石にアレは防ぎきれない。


 そう悟った私は咄嗟に鞘に刀をしまい、カチリと音を立てた。すると、私の周りにいくつもの太刀筋が現れて覇王竜を斬り裂く。


 かっこよさ重視で作った防御技「振らずの太刀」。刀を鳴らすだけで、太刀筋の弾幕が作れるように訓練したのだ。


「デタラメが過ぎるだろ! なんだその技は!」


「アナタの盾みたいなもんよ!」

 

 覇王竜は本気の攻撃が防がれてご立腹だ。けど、私がこの技を実践で使ったのは多分初めてだったと思う。コレを引き出せたアナタは十分にすごい。


「今度はこっちの番よ」


 ターン交代。そう勝手に決めた私は瞬間移動して覇王竜の前へと躍り出た。意表をつかれた覇王竜は、流石というべきか咄嗟に壁を出現させる。しかし、今度はあっさり防がれるような火力にはしない。


 私はさっきよりもさらに練り上げた然気を纏わせ、覇王竜へ上段斬りを放つ。


 練られた然気は強烈な爆発を起こし、ダイヤモンドの壁をあっさりと溶かす。そして、爆炎の渦中に放り込まれた覇王竜も瞬く間に焼き切れた。不死身だからいいけど、普通だったら今ので確実に死んでたわね。


 予想通り、完全に灰になった覇王竜の身体は迅速に修復を始める。肉体がすごい早さで復元していくけど、ちょっと気持ち悪いかな。


 私は回復した覇王竜に警戒する。しかしどうやら身体は回復したけど、意識は回復してないみたい。フラフラと身体をよろめかせながら白目を向いていた。コレは勝負あったかな?



「原点回帰!」



 しかし彼は白目のまま声を上げる。その言葉を合図に彼の身体が変化を始めた。


 進人化……? いや違う。これは先祖返りといった方が正確ね。人間の姿から動物の姿へと変化していってる。


 身体全体がどんどん肥大していく。顔は骨格が横長に伸びていき、身体は寸胴短足へと変わっていった。


 手足は太く逞しくなって二足歩行から四足歩行に移行。そこに鱗のような硬い斑点が全身を覆っていく。


「えっ、恐竜⁉」


 そうして私の目の前には、1万年前の地球に生息していた恐竜『ティラノサウルス』の姿があった。1つ違う点を上げるとすれば、伝え聞く姿より腕が発達しているということ。


 突如として現れた、遥か古代の先達に私は驚愕した。

 

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