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亜蓮対覇王竜


 一方その頃、私は進化しきった進人殲滅に向かっていた。


 すぐにわかった。私以外では今の進人は苦戦必至だと。それが20万もいるとなると尚更だ。だからみんなには時間を稼いでもらい、私が進人を仕留めることにした。


 はっきり言ってその方が戦いやすい。さっきまでは他のメンバーがいて手加減する必要があった。けどこっからは、遠慮なく進人を片付けていくことができる。


 目の前の進人を横薙ぎの一閃で斬り裂く。私は一太刀を文字通り飛ばして進人たちを上空へと打ち上げた。リアル無双ゲーねこれは。


 さらに創意工夫を加える。吹き飛ばした進人の亡骸に然気を含ませるのだ。そうすることで急降下する亡骸もまた武器にできる。落ちた先の進人を破裂させる進人爆弾。


 非人道的かな? とも思うけど、効率がいいので仕方ない。死体処理もできるから一石二鳥なのよ。


「ふう、これで2万くらいかしら?」


 周りが死屍累々な状況で一息つく。絶好調の私には25万でも足りないわね。


 ただ、その後に覇王竜と戦うなると少し大変かもしれない。他全員で倒してくれればいいけど、私を倒すために送り込まれた刺客がそう簡単に倒れるとも思えない。少なくとも、裕大をあっさりと倒してるしね。


 とりあえず、さっさと進人を締めてしまおう。話はそれから。


 私は瞬間移動して次の戦場へ向かった。





「仕方ない。君たちの力を見てみよう。好きなように掛かってくるといい」


 覇王竜が剣を作って地に降り立つ。威風堂々とした着地は、彼の強さと余裕の表れだろうな。


「俺にやらせてくれ!」


 オレは槍を覇王竜に向けて言った。別に1対1で戦う必要はなく、全員でかかった方が勝率はいいと思う。けどもしかしたら、コレで名誉の殉死ができるかもしれないのだ。宇宙からの強敵に破れて死ぬ。死に方としては十二分に立派だろう。


「1対1で来るか。その方が私も力が温存できていい」


 よかった。アイツはクレバーだな。ちゃんと生き残るために算段を立ててる。


「決まりだな」


 オレはニッと笑って槍を構えた。


「おい亜蓮! 死ぬなよ!」


 姉さんが怒鳴り口調で叫ぶ。まったく、なんでああも過保護なのかね。オレがどう死んだって構やしないだろうに。


「さあ、どこからでもかかってくるといい」


「へへ、行くぜ!」


 俺は槍を低く構える。踏み込むための準備体制。死に場を求めて彷徨う獣が、狩り取られんと狙いを定める。



 そして、次の瞬間。



 俺は雷のように突撃した。疾風迅雷、疾く正確な突きで覇王竜に襲いかかる。


「な!?」


 しかし、突如としてダイヤモンドの壁がそびえ立つ。オレは勢いそのままに壁に槍を突き刺すも、突きが届くことはなかった。くそっ、コイツが出てくるなら壁に突っ込んどけばよかった!


「どうした? この程度の壁に妨げられてしまうのか?」


 覇王色がダイヤモンドの刃物を振るう。突き刺さった槍がそのまま拘束の役目を持ち、放っておけば直撃は避けられない。


 自殺志願者のオレからすればこのまま首を刎ねられてもいいんだが、それでは手を抜いたみたいで格好がつかない。オレは仕方なく槍から手を離して距離を取った。


「得物を封じてくるとは、アンタ中々頭がいいな」


 オレは薬研藤四郎を抜刀する。さて、どう攻めたもんかね。


「⁉ 下か!」


 しかし、オレが考える隙を作りたくないのか、覇王竜はダイヤモンドの棘が足元から生やしてくる。間一髪で回避するも、その先にある置きダイヤモンドに足場を封じられる。


 オレは奴に翻弄されるように動きが封じられていく。オレは刀でダイヤを斬って着地するも、すぐに生えてきて再び回避を余儀なくされる。


 覇王竜の正確な予測により、オレはまともに近づくことができずにいた。これじゃあまるでダンスだ。死ぬにしても、敦盛を踊るつもりはオレにはないぞ。


「どうした? 私と戦うのではなかったか? それでは踊っているだけだぞ」


 仰るとおり。このまま流れを変えなければ、ズルズルと消耗して死亡だ。流石に一矢報いずに死ぬのはアイツに申し訳が立たねえ。なんとか死に花を咲かせねえと。


 オレは状況を打開せんと空へと跳び、そして空中で居合の構えを取った。


「さて、どうする?」


 覇王竜は興味津々といったご様子だ。おそらくオレに向けて棘を再び伸ばしてくるはず。


 オレがソレを期待していると、期待通りに棘がオレ目掛けて飛び出してきた。よし! 作戦通り!


 オレは空中で僅かに姿勢を下に向けると、伸びてきた棘を蹴って居合を放った。その一撃で槍の刺さった壁を砕き、さらに砕けた壁を足場に雷速で突きを刺し向けた。


 だが居合で仕留めるならまだしも、僅かにタイムラグのある突きを覇王竜が対応できないはずがない。案の定、最小限の動きで横に回避して見せた。


 だがそれでもいい。欲しかったのはこの朱槍だからな。これがあれば膠着状態を回避できる。


 オレはダイヤモンドの壁を蹴って空へと跳び上がった。


「せっかく足場ができたというのに、空に逃げてどうするんだね?」


 横に回避した覇王竜は、呆れながらオレに指摘してくる。まあ見ててくれ。アッと言わせて見せるからさ!


「こうすんのさ!」


 覇王竜の問いに応えるように、オレは槍を弓の形に変形させて素早く雷矢を放った。


「何が狙いかな?」


 嘲笑しながらも覇王竜は頭を抱える。そりゃあそうだろうな。なにせ矢は見事に外れて直撃することはなく、彼が作った壁の周囲に突き刺さってるんだから。


「喰らいな! 還元の矢(リダクションアロー)!」


 オレの合図によって雷矢や雷へと戻り、地中から一斉に覇王竜へ襲いかかった。


「うっ!」


 バチバチと高電圧の中で覇王竜はうめき声を上げる。よし! これで一番槍はオレのもんだ!


 オレは進人たちへの攻撃だけでなく、黒幕への攻撃にも亜蓮は一番槍を飾ることができた。これなら、死んだ後の手向け話としてアイツも気に入ってくれるだろう。


 稲妻が止んだ所でオレは地面へと戻る。地面にはまだ、オレの放った雷でビリビリしていた。


「おい亜蓮! 脚が痺れて痛えんだけど! 早くなんとかしろ!」


 遠くから姉さんがプリプリ怒っている。黙ってればかわいい顔してるのに、どうしてこうも怒りっぽいんだろうね。


 それに姉さん、まだ油断しちゃあいけませんよ。


「面白いことをやるね。身体がピリピリするよ」


 覇王竜は身体に痺れを訴えながらも、平然とした様子で先の一撃を評価してきた。


「すごいな! 黒焦げにする気だったのにピンピンしてるよ!」


 けどオレからすれば予想の範囲内の出来事だった。オレだってそうそう簡単に死にゃあしないんだ。オレよりも強そうな奴がそんな簡単に死ぬわけがねえ。


「だがマーキングは済んだ。これでもう、オレの攻撃から逃げられない」


「マーキング? どういうことかな」


「安心してくれ! 今から見せるから!」


 オレは槍の投擲態勢に入る。オレの然気には静電気の効果があり、触れると電気イオンが元に戻ろうとする性質が作用して、無限のホーミングをするようになるのだ。


 オレは勝ちを確信して槍に力を込める。ごめん綾香、まだそっちには行けそうもないみたいだ。


 だが槍を投げんとした瞬間、覇王竜に距離を詰められていた。


「まさか、バカ正直に受けて貰えると思っていたんじゃあるまいね」


 そう言ってオレの腹部を逆袈裟に斬り上げる。鋭い刃物はオレの肉をキレイに裂き、赤い血を勢いよく噴出させた。斬り口から熱さが体内に広がっていく。


 このまま放っておけば間違いなくお陀仏だ。いいねえ覇王竜、粋なことしてくれるじゃないか!


「へへっ、わざわざ近づいてくれるとは嬉しいねぇ!」


 オレはニヤリと笑みを浮かべると、槍を覇王竜の腹へと突き刺した。


「くっ」


 覇王竜は痛みに僅かに嗚咽を漏らすと、バックステップで距離を取ろうとする。


「そうはさせるか!」


 しかしオレは逃さまいと雷を放って全身を痺れさせた。覇王竜は痛みに顔を歪めながら、それでも身体を動かしてオレの傷口に刃を差し込んだ。


「我慢比べだ! オレとアンタ、どっちが先に死ぬか競争だ!」


「馬鹿者め……! 若者が命を粗末にしてどうする!」


「生憎と、俺には生きる意味もないんだ。全部を取りこぼして生きてたってしんどいだけだろ?」


「何が君をそうした……! 痛みか! 絶望か!」



「んなもん……愛に決まってんだろ!」



 オレは自らの朱槍から雷を放った。超高電圧がオレと覇王竜を襲う。雷の数にすれば1000発分。オレの出せるすべてを注ぎ込んでやった。



「ぐあああああ!」



 覇王竜は痛みに叫びを上げる。叫びってのは生きたいという慟哭だ。ソレが出るってことはまだ生きたいんだな。可哀想に。


 おびただしい数の雷を浴びせられた覇王竜は、徐々に黒く焦げ始めていく。当然、オレも焦げていく。


 そして雷が収まる頃、地面には2つの黒影ができ……てなかった。


「くそっ! また生き残っちまった!」


 オレは生き残ったことにガッカリする。死ぬつもりだったのに、どうしてオレは息をしてるんだろうね。


「亜蓮! なに無茶してんだ!!」


 オレの元に姉さんが駆け寄ってくる。まったく姉さんはわからず屋だな。なんでオレを死ぬのをここまで拒むんだろう?


「悪いな姉さん。思わず倒しちまったよ」


「そんなことはいい! ったく、少しは無茶するのをやめろ!」


 姉さんはオレを抱え上げる。相変わらず力持ちだな。


「まだ油断するな!」


 なんてオレが思っていた所に、グリムさんの声が聞こえた。一体どうしたんだろう?


 ドクン


 すると、突然オレの身体の中が動いた気がした。心臓の音じゃない。まさか!


「姉さん! オレから離れて!」


「はっ? なんで!」


「いいから!」


 オレが姉さんの腕の中でジタバタしていると、グリムさんが姉さんを蹴り飛ばしていた。


 よかった。これで……


 オレが安堵した瞬間、中から何かが飛び出すのを感じた。痛みが強すぎたのかな? オレの意識はブラックアウトしていく。





「グリムさん! 何するんすか!」


 いきなり蹴り飛ばされた私は、起き上がりながらグリムさんに文句をつける。乙女の顔を容赦しないとか、時代的に革命児がすぎるぞ。


「なあ亜蓮もそう……亜蓮?」


 私は同意を得ようと亜蓮の方を見る。しかし目の前の光景を、私は直視することができなかった。


「な、なんで?」


 私の目の前には、身体の中から棘の突き出た亜蓮の姿があった。針山に突き刺さったような姿が痛々しい。


「やってくれたな」


 グリムさんはレインの眼を隠しながら辛そうな表情で言った。


「メアリー! 亜蓮を治せないか!」


 それでも、事態を大まかに掴んでレインがメアリーに治療を呼びかける。メアリーは大急ぎでビルから降りてきて容態を確認してくれた。


「流石だね、辛うじてまだ息があるよ」


 メアリーはそう言って治療を開始する。よかった。生きてた……


 ただでさえ腰が抜けていたのに、安堵したせいでさらに腰が抜けてしまった。正直、すぐに立てる気がしない。


「死にたがっている人間を治療するのか? 実に身勝手な」


 伸びた人影と共に問いかける声。そこには亜蓮が頑張ってつけた傷を完治させた覇王竜が、何事もなかったように無表情で立っていた。


「死を望む人間に無闇に生を与えるのは拷問ではないか?」


「彼はまだ死ぬ運命ではない。理由はそれで十分だよ。どうせいつかは死ぬにしても、君が勝手に終わりを決めるのは、余計なお節介じゃないかな?」


 メアリーが自らの価値観に基づいて自論を述べる。私には両者の考えに優劣があるようには思えない。なにより、私にとって大切なのは、亜蓮の死が回避されたという事実だけだった。


「ありがとうメアリー。少なくとも私は、アンタの意見を尊重するわ」


 私は抜けた腰をなんとか戻して立ち上がる。私は亜蓮の姉だ。姉として、弟の敵討ちをしなくてはならない。


「覇王竜! 次は私が相手だ!」


 私はニヤリと笑う覇王竜に拳を突きつけ、高らかに宣言した。

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