作戦
僕たちがあの手紙を受け取ってからもうすぐ3時間が経過する。その間、僕と有希は生徒の飼っているペットを学校に避難させるなどの慈善活動をしていた。
桜丘の市街地では自警団の側面を持つ清田家の人間が、警察と協力して市外への避難を呼びかけていた。彼らは本来は戦うつもりだったようだが、華さんが説得してくれたらしい。
さらに、円卓の騎士の伝手を頼りにアメリカ軍の協力要請、神社、教会の避難所としての開放などを取り付けたらしい。戦うなって言ったけど、自分たちのできることをしてくれたようだ。王として彼女たちの活躍はとても喜ばしい。
彼女たちに負けないように僕も有希を守らないと。
彼女たちの神輿を守る王として、最善の働きをすることを胸に刻んだ。
現在、桜丘市市街地。
僕たち進人狩りは、その中心部である桜丘駅前へと集結していた。メンバーは僕と有希、亜蓮さん、美麗さん、グリムさん、レイン、メアリー、そしてジークお義兄さんだ。
彼らは各々の手段を使って自分たちの脚でここまで来ていた。けっこう遠い人もいただろうにお疲れ様です。
「これから作戦を発表する」
そう端を発したのは我が義兄であった。進人狩りの総括として意見があるようである。
「作戦? 目の前の奴をぶん殴る以外になんかあんのかよ?」
異を唱えたのは美麗さんだ。確かに、この人が大人しく言うことを聞くとは思えないな。
「いや、貴様はそれでいい。亜蓮もだ。貴様らは目の前の敵をとにかく倒せ。貴様らはそれが一番動きやすいだろう」
「へえ、分かってんじゃねえか! じゃあリーダーの言うとおりに暴れるとしますかね!」
美麗さんはノリノリである。この分なら5000体程度任せても撲殺してくれそうだ。
「それから風魔小太郎よ。貴様にはこの桜丘市の探索を命じる。覇王竜を名乗る男を探し出すのだ」
裕大はコクリと頷いた。彼は風魔小太郎の姿になると、キャラ作りなのかまったく話さなくなる。この状態での意思疎通は諦めた方がよさそうだ。裕大がそうしたいなら僕も彼を尊重したい。これからは、見知らぬ風魔小太郎として接することにしよう。
「なあジーク君。オジサンたちも好き放題やってもいいのか?」
「もちろんだ。だが『雨』は降らせるな。ガトリングまでならなんとかできるが、それ以上は俺とメアリーでも街を保たせられん」
「保たせる? お義兄さんとメアリーさんは戦わないのですか?」
「そうだ。俺とメアリーは桜丘市そのものを保護する。貴様らが大暴れすればこの街は崩壊しかねないのでな。ここは妹の住む街。できる限り被害は出したくない」
「そういうことだよアーサー。君たちは街を気にせずに大暴れしてくれればいい。強化をジークが、破壊された部分の再生は僕が行う」
街の保護……! そこまで頭が回っていなかった! 確かに今回はみんな大暴れするはずだ。誰かが街そのものを守らなければ被害は免れない。
「お二人共、ありがとうございます」
僕は2人に感謝を込めて頭を下げる。メアリーさんは照れるように頬を軽く掻いた。
「礼には及ばん。それよりもアーサー、貴様は有希が何か会ったとき全力で死守しろ。白馬の王子様を名乗るのならば手抜かりは赦さん」
お義兄さんは発破を掛けてくる。ええ、もちろんですとも!
「分かっています。アナタの分まで、僕が彼女を守りますよ」
「ふん、生意気な」
ジークさんは僕の言葉に鼻を鳴らした。
「有希、あとどれくらいで奴らは現れる?」
お義兄さんは有希に尋ねる。現在、時刻は14時59分。予告通りならば、あと1分もすれば桜丘市に進人が現れる。ショッピングモールのときも、証言によればいきなり現れた。ならば、今回もその可能性は高い。
「15時ジャスト。律儀者がいるみたいね」
「後20秒か」
お義兄さんは時計を確認する。それを聞いた僕たちにも緊張と静寂が広がった。
「後10秒」
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1───
僕が脳内で0をカウントしようとしたその瞬間。目の前に大量の進人が発生した。
僕たちはあっという間に取り囲まれる。僕の耳にも、桜丘市の中心部に音が爆発的に増えたのを感じた。
「いきなり囲んで来たか! ではそれぞれ作戦開始だ!」
お義兄さんはそう言って空を飛ぶ。メアリーさんも自前の箒に乗り上空へと退避した。なぜそんなことができるのかすごく質問したい。けどそんなことをしている余裕はないので、僕たちは自慢の武器を抜いて迫りくる進人へと対峙した。
「一番槍は貰ったぁ!」
瞬間、ゾンビのような進人が雷矢に貫かれる。槍を弓の形へと変形させた亜蓮さんが文字通り戦の口火を切った。
僕たちは、雷矢に進人たちが怯んでる隙に群れへと突撃する。
「ブラッド・パージ!」
そうして、僕は目の前の進人を薙ぎ払った。僕は剣の一振りで十数体の進人を亡骸へと変える。
隣では有希が一振りで蔓延った進人の群れに風穴を開けていた。有希の調子に問題はなさそうで一先ずは安心だ。
それぞれが、極めた武芸と武具で進人を狩り上げていく。
この場にいた進人は数百体。その群れが10分で半壊していた。今回の進人は武器も持ってない。これなら時間はかかるだろうが死闘になることはないだろう。
頼もしい味方の存在もあり、僕は楽観的にそう考えていた。




